第13話 スライムダンジョン攻略・前編

 俺は今、大量のスライムに囲まれている。優奈のラブルームのお蔭で、襲われずに済んでいるが、小中様々なスライムがおり、逃げ道が塞がれどうすることも出来ない状態だ。


「これどうしよう……」

「囲まれちゃったね」


 どうしてこうなったのか、遡ること一時間前――


 今日俺たちは、ギルドから任されているスライムダンジョンを攻略するべくダンジョンに来ている。

 入り口の前には、中から出てきたであろう三匹のスライムが跳ねていた。


「まずは、あいつらを倒さないとな」

「任せて! あ、その前に、んっ」

「んっ、て、来る前にキスしたんだから、魔力はあるだろ」

「……実は、歩くだけ魔力消費しちゃうの」

「っんなわけある!」

「あきくん、そんな大きな声出しちゃ……あ」

「しまっ――」


 三匹のスライムが俺たちに気付き、こちらに向かって跳ねて来ていた。


「すらぁぁぁ」

「く、来るなっ! あ、地球アースボールっ!」


 土が集まって球状になった土が一匹のスライムの体を貫通し、スライムはベチャっと地面に潰れて倒れた。


「……倒した」

「やったね! あきくん! 初討伐だよ!」

「お、おう……って、喜んでいる場合じゃなかった。あと二体」

「燃え尽くして――愛の炎ラブフレイム


 残りのスライムは、優奈によって燃え尽くされた。


 しかし、咄嗟に出した魔術だったが、まさか、スライムを倒してしまうとは。


「なんだか、急にダンジョンを攻略できる気がしてきた」

「うんうん、あきくんなら余裕で攻略できちゃうよ!」

「よっしゃー! 待っていやがれ迷宮ボス! 俺が今倒してやるからな!」


 高々スライム一匹倒しただけなのに、完全に調子に乗った俺は、意気揚々とダンジョンに潜って行った。


♡ ♡ ♡


 ダンジョン内は、以前来たとき変わらず、次々とスライムが現れて、襲い掛かってきた。


「現れたなスライム。食らいやがれ――アースボール連弾」


 連続でアースボールを放ち、襲い掛かってくるスライムの体に風穴を空けてやった。


「どんなもんだ!」

「きゃー、あきくんかっこいい! キスして! 抱いて!」

「ふははは! 今の俺は、スライムスレイヤーだ!」


 今の俺からしてみれば、スライムスレイヤーってなんだよって話だ。


 その後も俺は次々とスライムを倒していき、下階層へと続く階段を見つけどんどんと潜って行くのだった。

 それから、地下五階層に来たときのことだった。

 馬鹿みたい調子に乗り、天狗状態になっていた俺は、そこで宝箱を見つけた。


「お! 宝箱だ!」

「確か、アイテムとかが入っているだよね?」

「そう、アイテムとか武器とかが入っている。さてさて、この中身はなんでしょうか」

「何が入っているんだろ? 見透す瞳ラブアイ。あ、あきくん! 開けちゃ」

「いざ! オープン! え? 何か言っ」


 しつこいようだが、何度でも言わせてくれ。このときの俺は馬鹿みたいに調子に乗っていたんだ。

 普段なら、宝箱を見つけたとしても、罠ではないかと警戒していたはずなのに。

 だが、このときの俺は、罠なんて考えもせず、そこに宝箱があるから開けると単細胞みたいな考えしかしていなかった。


 調子に乗った者は、報いを受ける。罰が当たったのだ。


 カチ――という音がしたと思えば、部屋中にいくつもの魔法陣が現れ、そこからスライムたちが出てきた。

 たちの悪いことに、その魔法陣は、宝箱を中心とし、囲むようになっており、逃げ道を塞ぎ、捕えた獲物を絶対に逃さないという仕掛けになっていた。


 おまけに、出てきたスライムは、今まで倒していたスライムに加えて、二倍、三倍大きいスライムも出てき、絶望的……いや、絶望敵だった。


「あきくん、そんなに落ち込まないで? ね? 誰にでも失敗はあるよ」

「ほんと、すんません。俺が、馬鹿みたい調子に乗ったせいで、こんな目に……ほんと、ごめん」


 ラブルーム内で、俺は、猛反省していた。冷静になると、なんであんなスライム如き一匹倒しただけで、あんなにも調子に乗れたんだ。

 ゴブリン一匹倒せない俺が、高々スライムを倒しただけで。

 いやね? これが、超強いチート魔術とかスキルを使うスライムだったら、別に少しぐらい調子に乗ってもよかったと思うよ? でも、俺が倒したのは、どっこにでもいて、だっれにでも倒せるスライムだよ。


「はぁー。俺、自分が弱いってこと忘れていたかも」


 使える魔術は、超初心者魔術で、魔術才能は努力。

 魔力だけしか能がない、自分を主人公だと思い込んでいるただのモブキャラだ。


「あきくん……。大丈夫だよ、あきくんはきっと弱くなんてないよ。もしかしたら、今は弱いのかも知れないけど、きっと、いつか、私なんかを軽々超えるぐらい強くなるよ。

 なんたって、あきくんは私の主人公彼氏なんだから」

「優奈……」

「だから、今は、ヒロイン主人公あきくんを守らせて」


 そう言って、優奈は、俺にキスをしてきた。舌を絡ませ、俺から魔力を吸収していく。


「んふっ。うん、これぐらいあればいけるかな。

 ふぅー、さて――私の大事で繊細なあきくんを悲しませる奴は、何人たりとも許さないよ? 魔術創作――ヘビーラブ。

 私は何時だって、何処だって、あきくんに沢山愛情を注ぐ――百万倍の愛ヘビーラブ


 突然、軽いはずの空気が重く感じる。全身にずっしりと来る。

 ラブルーム外のスライムを見ると、さっきまで軽々と跳ねていたのに、今は思うように跳ねられず、まるで上から押さえ付けられいるようだった。


「優奈、この重い重力って」

「うん、私の新しい魔術だよ。私があきくんに注ぐ愛情を具現化してみたの」

「そう、なんだ」


 つまり、この良い意味で重力の重みが、いつも優奈が俺に注ぐ愛の……重みということか。

 はは、だったら、滅茶苦茶重いじゃねーか。

 スライムなんて、優奈の愛情に耐えきれず、どんどんぺっちゃんこになっていっている。潰れるのも時間の問題だ。


「優奈、お前の愛情、超伝わっ……」

「何言ってるの? 私のあきくんに注ぐ愛情は、こんなものじゃないよ? これは、あくまで魔術に置き換えただけから、百パーセントじゃないよ。

 こんなの、まだまだだよ。こんなじゃ、私の愛は、あきくんに伝えきれないよ」

「……へ、へぇー、そうなんだ。あのー、因みに、もし、仮にだよ? 仮に、その優奈の言う百パーセントの愛情をこの百万倍の愛ヘビーラブで表したら、どうなりますか?」

「んー、多分、ラブルームじゃ重力に耐えきれないから壊れちゃって、最悪ダンジョン崩壊するかも?」

「ひゅっ……そう、ですか」

「やってみる?」

「ま、またの機会に。今はこのスライム達をどうにかできたらいいので」

「そっか、わかった。じゃあ、また、今度、あきくんに私の愛情見てもらうね」

「う、うん」


 できれば、それは、胸の内に収めておいてほしい。死人が出る。


 ものの数分で、あんなにいた大量のスライムは、一匹もいなくなった。というか、重力に耐えきれずに破裂した。


「ラブルーム解除するね」

「うん。ほんとありがとう、助かったよ」


  絶望的だった状況は、一人の女の子の愛情によって打破でき、次の階層へ進めるようになった。

 因みに、あの後、宝箱の中を覗くとアイテムが一つ入っていた。罠だけではなかったみたいだ。

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