第11話 スライム洞窟の噂⑤

 「そう言えば、結局あの謎はなんだったんですか?」

「あー、聞きます?」

「まあ、一応。気になっていたんで」

「分かりました。あまり、期待ないでください。ほんっと、くだらない答えなんでっ!」

「は、はい」


 そんな、怒るような答えだったんだろうか。

 半ギレ状態のお姉さんから、あのなぞなぞみたいな答えを聞いた結果――ほんと、くだらない答えだった。


 以下の会話は、お姉さんさんとあの二人組(一人は伸びているため、実質一人)の男との会話だ。


「で、いつから、こんなマネをしていたわけ。というか、いつあのスライムの洞窟を見つけたの?」

「はい。見つけたのは、一年半前で、女の子たちを誘うようになったのはそれから半年経った頃です」


 最初の頃は、冒険者になったものの稼げないと困っている女の子を助け、あわよくばモテたりしないかという下心であの洞窟に誘っていた。

 だけど、ある日、あいつは、あの紫色のスライムは現れたんだ。


 初めて見るスライムで、何か特別なスライムかと思い倒してみたら、服を溶かす性質を持ったスライムだと分かった。

 面倒なスライムだなと、その時はそう思っていた。

 ある日、いつものように女の子を誘って、スライムを倒しているとまたあの紫スライムは現れた。


 女の子がそれを倒そうとしたとき、止めようとしたと同時に、服を溶かされた女の子が見たいというのが脳裏に過ぎった。

 そして、案の定、女の子は服を溶かされ、下着が丸見え状態になっていた。

 それに、俺は興奮を覚え、もっと服を溶かされ恥じらう女の子が見たいと思ってしまった。


 それから、女の子を騙して、スライム洞窟に連れ込み、紫スライムが稼げるって嘘をつき、服を溶かされる姿を見ていた。


 だが、いつしか、それだけでは、物足りなくなってき、俺はとある移動魔導店で魔写機を手に入れ、それで服を溶かされた女の子を撮ってみた。

 また、新しい興奮を覚えてしまい、何枚も何枚も写真を撮り続けた。


 だけど、また、写真を撮るだけでは物足りなくなってき、今度は見ているだけでは満足できなくなってきた。

 けど、女の子に言ったところで、素直にシてくれる訳もなく、俺は写真を使って脅すことにした。


 それから、それを続けていくうち、俺は元の生活に戻れなくなってしまい、服を溶かされた女の子でしか興奮できない体になってしまった。


 そんな生活が続いていたある日、酒場で酒を飲んでいると、スライム洞窟の話をしているのが聞こえてきた。


 俺は、薄々、あのスライム洞窟の存在がバレかけていると焦った。

 だから、俺は敢えて、噂を流し、さらに、おりもしない金色のスライムと高額アイテムの噂も一緒に流し、誰も信じないようにした。念には念にを入れ、女の子にも誰にも公言するなと脅しておいた。


「はぁー、ほんっと、バカみたい。で、肝心のあの『男にとっては毒、女にとっては敵』の意味は?」

「あー、それは――男にとっては毒というのは、男なら誰しも、あんな姿の女を見せられては興奮してしまうだろうって意味で、股間に毒ということ」

「…………は?」

「で、女にとっては敵というのは、あんな服を溶かすだけのスライムなんて、敵以外何者でもないって、女の子が言っていて、確かにそうだなって思っての、女の敵です」

「……待って、頭が痛くなってきた。えっと、なに? つまり、スライムによって興奮させられる男にとっては股間に毒で、そのスライムによって辱めを受けるから、女の敵ってこと?」

「はい、そうです!」

「はぁー。ほんと、男ってどうしてこうも……バカなのかしら。さっさと、騎士団に引き渡してしまおう」


 以上がお姉さんと男との会話だった。


「ほんと、今思い出しても、くだらない理由だわ」

「はは……、ほんとですね」


 これは、どれだけ考えても答えに辿り着けるわけがない。誰も、まさかこんな答えだとは思いもしないだろう。

 答えが分かっても、ああ、そういうことか、とはならない。


「ま、まあ、とにかく、全て解決してよかったですね」

「いえ、実は、まだ全て解決した訳じゃないんですよ。その後、あのスライム洞窟をうちの職員が、スライムが多く発生する理由を調査しに行った結果、あることが分かり、今は、それに悩まされているんですよ」

「よかったら、その悩みを教えてくれませんか? 何か力になれるかも知れませんし」

「うーん、ですが、問題を解決しもらった後にまた問題解決をお願いするのは」

「どうせ、乗りかかった船なんで、最後までやりますよ。な、優奈」

「もう、あきくんは、優しいな。うん、いいよ」

「ですので、無理にとは言いませんけど、よかったら教えてください」

「分かりました。その後、調査して分かったのですが、あのスライム洞窟、ただの洞窟じゃなかったんです」

「ただの洞窟じゃなかった?」

「はい。あの洞窟は、稀に起こる迷宮化――“ダンジョン“になっていたんです」


♡ ♡ ♡


 ダンジョン――どこかの洞窟が迷宮化と呼ばれる現象によって、現れる迷宮のこと。

 ダンジョンは、何層にもなっており、各層にはそこで生まれた魔物が住み着いている。


 他にも、宝箱があることがあるらしく、その中にはアイテムや武器などが入っている。稀に珍しい物もあるらしい。

 そのため、冒険者の間では有名で、ダンジョンが現れたと知るやいなや、お宝と報酬目当てに潜りに行く。


 ダンジョン最下層には、迷宮ボスと呼ばれる魔物がおり、そいつを倒すことで迷宮化は解け、元の洞窟に戻る。


「それがダンジョンです」

「へぇー、なんかすごい場所ですね」


 ダンジョンと言えば、ゴブリンやスライムと並ぶぐらい有名な場所だな。


「それで、その悩みというのがダンジョン絡みってことですか?」

「はい、そうなんです。あのダンジョンには、大量のスライムが湧くことはご存知ですよね」

「ええ」


 スライム洞窟、スライムダンジョンと『スライム』と名が付くだけあって、あそこはスライムが大量発生している。

 見た目は可愛らしいのに、身体に纏わり付いて、そのまま顔まで登ってきて、窒息死させようとするから、見た目に反して恐ろしい奴だ。

 俺絡みでキレさせて優奈みたいに……。おっと、優奈には内緒だぞ?


「実は、そこのスライムが外に出て来ているらしく、森の薬草や近くの村の畑などを荒らしているみたいなんですよ」


 そういや、俺と優奈が追い掛けていたあのスライムも、ダンジョンに帰っていってたし、そこで生まれた奴だったんだろうな。


「それは困った話ですね」

「そうなんですよ。討伐してもまた生まれて来るので、あの迷宮自体をどうにかしないと、永遠に倒しては生まれるが続くんです」

「だったら、ちゃちゃっと迷宮ボスを倒しちゃえば、問題解決なのでは?」

「それが、悩みの種なんですよ。スライムって、倒してもあまり稼げないじゃないですか?」

「そうですね、ゴブリン並みに稼げませんね」

「ええ、だから、他の冒険者にお願いしても、スライムの相手なんてしないと言って、断られるんですよ。

 それに加えて、あの紫色のスライムの話が広まっており、女の子が行くのを嫌がるんです。なので、パーティーを組んでいる人達もダメで。もう、どうすればいいのか、お手上げですよ。あはは……はぁー」

「確かに、女の子は嫌がりますよね。女の敵と言うぐらいだし」


 痴女でもなければ、あの紫スライムに挑む女の子はいないだろう。男が挑んで、服を溶かされても、誰得だよって話だし。

 お姉さんは、本当に困っている様子だし、助けてあげたいが、優奈もあのスライムと関わるのは嫌だろうな。なんて、思いつつ優奈に相談すると――


「行くのは私とあきくん二人だけだよね?」

「まあ、そうだろうな。誰も行きたがらないらしいし」

「そっか。なら、いいよ。その迷宮ボス? を倒しに行っても」

「え? いいの? あの服を溶かすスライムがいる場所だぞ? 優奈も見ただろ?」

「う〜ん、確かに、服はこれ一着しか持ってないから、溶かされるのは困るかも」


 そこなの? 下着云々うんぬんより、服の心配なんだ。

 いや、そもそも、今更、優奈が俺に下着を見られて困ることも恥ずかしがることもないか。見せろと言えば、見せるぐらいだしな。

 というわけで、俺と優奈がスライムダンジョン最下層にいる迷宮ボス討伐クエストを受けることになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る