第10話 スライム洞窟の噂④
「よくもあきくんを。よくもあきくんを。私の大事なあきくんを。許さない、許さない、許さない、許さない――」
「うぅぅ……あぁぁ……」
「ね、ねえ、もう、その辺にしないと、その人死んじゃ」
「だから? だからなに? 私の大事なあきくんを傷つけたんだよ? 死んで当然じゃない?」
「く……狂ってる」
優奈の目に光はなかった。今の優奈は、加護『愛の化身』で全体ステータスが大幅アップされている。つまり、攻撃力も大幅にアップされているということだ。
今の優奈は、見た目通り華奢で可愛らしい女の子ではなく、見た目とは裏腹に、攻撃力強強系女子なのだ。
つまり、放置していたら、本気であの男を殴り殺してしまう。
「無駄な話をしたね。さてと、このクズに罰を与えないと」
優奈は拳を振り上げ、止んでいた拷問に近い攻撃が再開されようとしていた。
俺は、ズキズキと痛む頭を上げ、優奈にふらふらとしながらも近寄り、振り下げる前に腕を掴んだ。
「そこまでにしとけ、優奈」
「あきくん……!! 大丈夫なの!? どこも痛くない? そうだ、膝枕してあげるね」
有無を言わせない勢いで寝転ばされ、気付けば俺は優奈に膝枕されていた。そして、頭を優しく撫でられていた。
「ごめんね。ちゃんと私が見ていなかったから。ううん、もう大丈夫だって油断して、ラブルームを閉じちゃったから、あきくんに大怪我を負わせちゃった」
「いや、あの、確かに頭に攻撃は食らったけど、別に大怪我ではない」
ズキズキと痛むだけで、血すら出ておらずどこも怪我をしていない。
優奈は、昔からそうだった。俺が走っていて、転んでちょっと膝を擦りむいただけで大騒ぎだ。
歩けるのに、俺を背負って家まで帰ろうとした。自分のことなんて、二の次だ。
「そんなに心配しなくても……痛っ」
「頭が痛いの?」
「ちょっとな」
「魔力は……ギリギリ残ってるね。魔術創作――ラブヒーリング。彼の者を癒せ――ラブヒーリング」
ピンクのホワンホワンとした光が頭を照らす。
「おお! すげぇ! 治った! ありがとう優奈!」
「ううん、これぐらい当然だよ。それよりも、どうするこのクズ」
優奈さん、お口が悪いですわよ。女の子なんだんから、お上品な言葉をお使いなさい。
「こいつは散々にボコられてもう意識はないから大丈夫で、問題は――おい、起きてるんだろ」
「…………」
仲間が優奈にひたすら殴られている間もずっと気絶したフリをしている男に近付く。
「ふーん、まだ、続けるか。なら――優奈さん、やってしまいなさい」
「了解! ふふん、さてさて、今度はどうやって、お仕置きしようかな」
「す、すいませんでしたぁぁぁぁぁ!!!!」
ばっと飛び上がり、ばっと頭を地面に擦りつけ、渾身の土下座を披露する卑怯者。
「ったく、最初から起きろよ」
「すいません。そこの女」
「うん?」
「お嬢さんが恐ろしくて」
「あー……」
それは、少し同情するよ。確かに、大の男が可憐な少女にひたすら殴らている光景を見たら、起きるに起きられないだろうな。
けど、それは、それ。これは、これだ。こいつらがしたことは、決して許されることではない。ちゃんと罰を受け反省するべきだ。まあ、相方は罰どころか拷問を受けたようなあとになっているけど。
「取り敢えず、大人しくギルドまで付いて来い」
「はい……」
「っと、その前に、ちゃんと女の子に謝れ」
「分かりました。デラニーちゃん、騙してごめんね」
「……うん」
まあ、あんな目に遭わされた後だし、謝られてもすぐには許せないだろうな。
「あきくん、この魔写機に他にも同じ目に遭った女の子の写真が沢山あるよ」
「なんとなく、そんな気はしてたけど、やっぱりか」
いったい、今まで何人の女の子を酷い目に遭わせたんだ。
男に完全に意識失っている仲間を背負わせ、俺たちはペルシャに戻っていった。
♡ ♡ ♡
「そんなことが、分かりました。この男たちのこととスライム洞窟、それから被害に遭われた方たちのことはギルドにお任せください。それと、今回のことに関してのお礼金と報酬が出ると思うので、またギルドに来てください」
「分かりました」
お姉さんに一通り話を済ませ、今回の後始末はギルドに任せ、クエストと討伐の報酬を受取り、俺たちは宿で休むことにした。もう、街に帰る頃には夜になっていた。
まさか、スライム討伐のクエストを受け、一匹のスライムを追い掛けると噂のスライム洞窟を見つけるなんて思わなかった。
それに、なんか陰で行われていた陰湿な事件を解決してしまった。
「今回はあきくん大活躍だったね!」
「どこかがだよ。敵に見つからず追い掛けられたのも、敵を倒したのも全部優奈じゃん。今回も俺は、何もしてないよ」
「ううん、あきくんがあの女の子助けようとしたから、今回の事件が明るみになって、今後もしかしたらあの子のみたいに同じ被害に遭う女の子がいたかも知れないのをあきくんの優しさと正義と行動力で止めたんだよ。
私はそれに力を貸しただけだよ。あきくんは、がんばった。よしよし」
俺の全てを肯定し、褒めて、優奈は俺の頭を撫でる。
俺が何かを頑張った後、いつも優奈はこうして俺の頭を撫でていた。子供かと思わされそうだが、それがどこか心地良かった。
「ありがとう、優奈」
「うん!」
三日後――スライム洞窟事件は一段落し、俺たちはギルドに呼ばれていた。
「今回は本当にありがとうございました。お二人のお陰で陰で行われていた事件を止めることができ、被害に遭われた方々を救うことができました。今回、その栄光を称えこちら千五百アイと、ギルドからの依頼報酬として五百アイ――計二千アイを贈呈いたします」
「お、おお!! こ、こ、こんなに貰って、い、いいんですか!?」
「すごいよあきくん!! 一気にお金持ちになっちゃったよ!」
「はい、この事件は我らだけでは解決できなかった、とても陰湿で卑劣な事件でした。あなた方はそれを受け取る権利があります」
「そうですか。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
「おー!! あんなにお金に困っていたのに、今では裕福になってしまった!」
「これだけあれば、少しは贅沢できるね」
「だな。ようやく、貧乏生活から抜け出せる」
異世界来てから、ずっと悩みの種だった所持金問題が、ここにきてようやく解決した。
これで、当分は、ご飯代とか宿代に困らない。
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