第9話 スライム洞窟の噂③

 スライムの後を追っていくと、スライムはとある遺跡のような洞窟に入って行った。


「見た目は洞窟だけど、なんか遺跡みたいな場所だな」

「でも、なんか、最近できたって感じ」

「確かに。遺跡独特の古さが無いもんな」


 スライムを追って見つけた遺跡は、比較的キレイで、まるで最近できたような感じだった。


 中を覗くと、壁にランプが装飾されており、薄明るかった。


「あきくん、どうする? このままスライム追う?」

「お姉さんは、遺跡のこと何も言って無かったよな。どうするか」


 何の前情報もなく、謎の遺跡に入るのは危険だ。それに、もしこの先にさっきのスライムの仲間がいるとすれば更に危険だ。

 行くか辞めるか悩んでいると、俺たちが来た方向から誰か近付いてくる音が聞こえてきた。


「優奈、ラブルームって使えるか?」

「昨日の夜もずっとラブルーム展開してたから、あまり魔力ないの」


 そう言えばそうか。行為中ずっとラブルームを展開していたなら、その分魔力も消費されているはずだ。

 仕方ないよな。今なら、周りに人はいないし。


「全く、ほらキスするぞ」

「うん! あ、大人の方ね。ラブルームって、結構魔力消費するから」

「うっ、わ、分かった」


 今は本当かどうか、確かめている時間はない。優奈の要望通り、舌を絡めたキスをし、優奈に魔力をチャージしていく。


「んっ……んふぅ……」


 軽くして済ますつもりだったのに、優奈の舌は、一度捕えた獲物は逃さないと、しつこく俺の舌に絡んでくる。

 逃げようとするも、唇同士を更に近付け、吸い付いてくる。

 蜘蛛に捕まった蝶……いや、食虫植物に捕まった蝶の気分だ。


 段々と足音が近付いてくる。優奈に離れと目で訴えるも、もうちょっとと言うように腰に手を回してくる。

 離そうと手で押そうとしたら、うっかり優奈の胸に触ってしまった。その瞬間、優奈口の隙間から声が漏れた。


「んふぅ……」

「っ!?」


 いや! 『っ!?』じゃねーよ!? なに、こんな状況で興奮しかけているんだ!


「いいから、離れろっ!」

「あぁ〜、もうちょっとしたかったのに」

「はぁーはぁー。ったく。こんだけしたら、魔力溜まっただろ、頼むよ」

「むぅ〜」


 優奈が膨れている。


「もう、わかったよ、これに協力してくれたら、後でご褒美に沢山キスして」

「私たちの愛の巣――ラブルーム」

「だから、まだ言い終わってないっ!!」

「ほらほら、あきくん隠れないと」

「ったく」


 俺たちは近くの茂みに隠れ、近付いてくる人たちを見張った。


♡ ♡ ♡


「ねえ、本当にこんな所に稼げるスポットあるの?」

「ああ、あるよ。ここは、稼げる隠れスポットだから。他の人には内緒にしてね、デラニーちゃん」

「そうそう、ここは、俺たちの稼ぎ隠れスポットでもあるからねー」

「何度も言わなくても誰にも言わないわよ」

「約束だよ。ま、どうせ誰にも言えなくなるけど」

「なんか言った?」

「何もないよ、ささ、行こうか」


 男二人、女一人が遺跡の中へと入っていった。

 あれは、多分稼げるとナンパをし、何か騙している様子だ。なぜだが、それが分かる。もしかしたら、これが加護『虚飾の心』の力なの知れない。


「あきくん、あの男たちなんかキモい」

「同感だ。あの女の子が心配だな」

「え? 浮気?」

「なんで!? ただ単に人の心配をしているだけだよ!」

「そっか。なら、助けに行こっか」

「ああ」

「もし、助けた恩に漬け込んで、あきくんに色目使うような女だったら、またここに放り込めばいいし」

「ん? なに?」

「んーんー、あきくんは優しいなーって」

「別に普通だよ」


 三人の後を追って、遺跡の中へ入っていく。なんか今日、魔物や人を追ってばかりだな。


♡ ♡ ♡


 ラブルームは、移動している間も展開し続けられるらしく、俺たちは足音や足元を気にすることなく、前を行く三人にだけ気を付ければよかった。

 けど、ラブルームの魔力消費が多いのは本当らしく、手を繋ぎながら俺から魔力を摂取し、時々キスしたりして魔力をチャージしていないと、維持はできなかった。


「あきくん、そろそろ」

「はいはい。んっ」

「ん、ちゅっ、ちゅ」

「これでいけるか?」

「うん」

「なら、いくぞ」


 キスを挟みながら、一定の距離を保ちつつ三人の後を追う。

 前行く三人は、時々襲ってくるスライムを倒しながら、先に進んでいく。


「ちょっと、私にも倒させなさいよ。記録されないじゃない」

「だいじょーぶ、だいじょーぶ。こんな地味に倒さなくても、この奥に特別なスライム・・・・・・・がいるから安心してって」

「そうそう、そいつを倒したら一気にぱぁーと稼げちゃうから」

「そうなの? なら、いいけど」


 あいつら、女の子を挟んで一見スライムから守っているように見えるが、実際は逃げられないように挟んでいるだけだろう。

 この狭い一方通行で前後に、それも自分よりも強そうな奴に挟まれたら逃げることなんてできない。


「ちっ。つくづくクソ野郎だな」

「最低だね」


 しかし、今は怒りを堪え、徹底的証拠を掴まなくてはいけない。

 絶対ないだろうが、俺の勘違いという可能性もある。


 更に奥へ進んでいくと、ぽよんぽよんと何か沢山跳ねている音が聞こえてきた。


「ほら、見えてきたよ。ここが、秘密の稼ぎスポット、その名も――スライム洞窟さ」

「え!? スライム洞窟って、今、街で噂になっているあのスライム洞窟!?」

「そうそう、その噂のスライム洞窟だよ。俺たちが見つけたんだぁー。すごいっしょ。俺たち、ここ見つけたら、滅茶苦茶稼げているんだぁー。デラニーちゃんも稼ぎたいっしょ? だから、皆に内緒ね?」

「ええ、こんなの誰にも言うわけでしょ。ねえねえ、早速倒していいかしら」

「いいよいいよ。どんどん倒して稼いじゃって」


 女の子は大量に跳ねるスライムを倒しに行き、その隙に、男二人は来た道塞ぐように立った。


「どうする、あきくん?」

「もうちょっと様子を見る」

「わかった」


 女の子は、夢中でスライムを倒し、それを男たちはニヤニヤとしながら見ていた。


「ねえー、特別なスライムってどいつ? もう疲れたから一気に稼ぎたいんだけど」

「ニヤッ、きた。あー、特別なスライムねー。えっとね、紫色のスライムが稼げる個体だよ」

「紫色ね」

「そうそう、紫色の個体。ニヤニヤ」

「頑張って紫色のスライム倒してねー。ニヤニヤ」


 嘘だ。


「ねえ、確か稼げるスライムって」

「ああ、噂通りなら稼げるスライムは、紫色じゃなくて金色のはずだ」


 噂では、金色のスライムが千アイもするアイテムを落とすはずだ。

 しかし、男たちは金色ではなく紫色と言った。あんな、ニヤニヤとしながら。


 女の子は、稼ぐことで頭がいっぱいのせいか、男の思惑に気付いていない。


「そろそろ行くか?」

「でも、金色は嘘で、本当に紫色っていう可能性もあるよ?」

「くっ、確かに」


 確かに金色のスライムなんて、そんな千アイ相当のアイテムを落とす都合のいいスライムなんているとは思えない。

 噂に噂を重ねている可能性もある。


「いた! 紫色のスライム! さぁー、大人しく倒されて私を億万長者にしなさい」

「デラニーちゃん、思いっ切りね!」

「思いっ切り、潰すようにね」

「オッケー。それっ! きゃっ! なにこれ! なんか、ベタベタする!」


 女の子が男たちの言う通りに、思いっ切りスライムを剣で叩くと、紫色のスライムは弾けると同時に紫色の液体を飛ばした。

 それは女の子に纏わり付き、女の子はベタベタになった。


「ありゃりゃ、ベタベタになちゃったねぇー」

「もぉー、ねえ、タオルとか持ってない?」

「あー、ごめんねー、持ってないわー。ニヤニヤ」

「俺もー。ニヤニヤ」

「最悪、このまま帰らな……きゃぁぁっ! ち、ち、ちょっと、服、服溶けてんだけど!?」

「あはははは!!」

「バッカな女だな。稼げるって言われて、まんまんとバカみたいに付いて来て、バカみたいに言いなりになって、俺たちの思惑通りになってくれた。ほんとバカだな」

「こ、こんなことして許されるとでも思っているわけ! ギルドに報こ……」


 ――パシャリ。


「おお、いい写真取れた。この魔写機高かったけど、買ってよかったぜ」

「ちょ、ちょっとぉ? ねえ、今、何したの……」

「ニヤァ。どうだ? いい写真だろ? さーてぇ、この写真いくらで売れるかっなぁ? なあ?」

「口は悪いけど、顔は可愛いし、良い体してるし、胸もでけーから、高く売れるかもな」

「ね、ねえ、じ、冗談よね? 嘘、よね?」

「どうだと思う?」

「お願い、します。ここのことは黙っておくから」

「なに、当たり前こと言ってんの? 逆にここのことバラされたら、この写真もばら撒くわ」

「じゃ、ぐずっ……どうしたら、いいの」

「そりゃ、言わなくても分かってるだろ? そんな誘うような格好して、俺はもうギンギ……ンンンンッッッッ!?!?!?」

「お、おい! どう……しやぁぁぁ!?!?!!」

「え? なに? どうなっての?」

「ったく、最低クソゲス野郎」

「もう大丈夫だよ」


 俺たちは我慢の限界になり、男が最低な行動をする前に、懲らしめてやった。

 詳しくは――

 

「そんな誘うような格好して――」

「女の怒りを食らえ――ラスサンダー!!」

「俺はもうギンギ……ンンンンッッッッ!?!?!?」

「お、おい!」

「怒りの炎で燃えろ――ラブフレイム」

「どう……しやぁぁぁ!?!?!!」


 声が漏れないラブルームを利用した背後からの不意打ちだ。卑怯なんて、言ってくれるなよ?

 こいつらの方がよっぽど卑怯なことをしているんだから。


 ラブルームを閉じた優奈は、泣いている女の子に近寄る。


「うぅぅ、うゎぁぁぁんん!! たすかったぁー! ありがとぉぉぉ!」

「よしよし、もう大丈夫だよ」

「取り敢えず、まずはギルドに報告しな」

「はぁーはぁー、させるわけねぇだろうがぁぁぁ!!」

「ヤバっ!」

「あきくん!!」


 不意打ちの仕返しは不意打ち。俺は、そこで意識を失った。

 次に目を覚ましたとき、男に跨りなら殺気立っち、鬼の形相で、もうすでに意識のない男をひたすら殴り続ける優奈の姿がそこにはあった。

 助けた女の子は、今度は優奈にビビリ震えていた。

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