第8話 スライム洞窟の噂②

 翌日、今日からスライム洞窟を探す……予定だったのだが、少し無理そうだ。なぜなら、所持金が九アイしかない。これでは、一人ですら宿に泊まれない。


「上手いこといかないね。元の世界なら、私がいくらでもお金用意できるのに」

「それはそれで、どうかと」


 元の世界では、優奈は少しお金持ちの家だ。俺は普通だけど。


「元の世界の話をしても仕方ない。スライム洞窟を探す前に金を稼がないと」


 いつまで経っても貯まらず減っていくばかりの金を稼ぐため、今日も今日とてギルドにやって来た。


「クエストですね、こちらになります」

「う〜ん……おっ! スライム討伐クエストがある。これにするか」

「うん、私もそれでいいよ」

「畏まりました、では受注しますね」


 受注が済み、スライムを討伐するべくいつもとは違う森に向かった。

 お姉さんが言うには、いつもの森にもスライムはいるが、ゴブリンとよく喧嘩をし、数が少ないらしい。

 だから、いつもと違う森にやって来た。ついでに、この森はスライムが他より多く生息しているみたいで、その分稼げると。今の俺たちには大変助かる話だ。


「なんとなく、スライムがいるところにスライム洞窟があったりしないかと、安直な考えでクエストを受けたが、そんな上手い話ないよな」

「う〜ん、でも、あきくんって運良いし、案外何かの手掛かり得られるかも知れないよ?」

「そうか?」

「うん!」


 運任せで上手くいきゃ、人生どんだけ楽なことか。


♡ ♡ ♡


「スライムどこだぁー」

「スライムって、確か丸くて、水饅頭みたいな感じだよね?」

「水饅頭って、まあ、近からず遠からずって言った感じだな」


 探していると、茂みが揺れ、そこからのそのそと水饅頭……スライムが出てきた。


「スラァ〜、スラァ〜」

「わぁー、なんか、ぷにぷにしてて可愛いかも? 柔らかーい」

「本当だな、ぷにぷにしてて柔らかい」


 でも、優奈の胸の方が柔らかい。


「スラァァァ!!」

「わっ! なんだ、こいつ、突然俺の腕を飲み込んで、登ってくる!」


 このままじゃ、頭まで登ってきて、窒息させられる。

 剥がそうと、スライムを掴もうとしても、手がスライムの中に入ってしまい掴めない。


「マジで……ヤバ……い」

「あきくん!! あきくんから……離れろっ!!」

「スラァ!? スラァァァァ!」


 優奈の殺気にビビったのか、纏わりついていたスライムは俺から剥がれ、そそくさと逃げて行った。


「た、助かったぁぁぁ」

「大丈夫あきくん!」

「ああ、なんとか」

「よかったぁぁ」

「おいおい、そんなに抱き着かなくても」

「だって、あきくんが、あきくんが死んじゃうかも知れないって思って」

「心配させて、ごめんな」


 優奈の頭を撫でて落ち着かせてから、スライム探しを再開した。

 さっきの一件もあり、優奈は俺からピッタリと離れず、誰も近付させない勢いで周辺を警戒している。


 俺を守ろうとしてくれるのは嬉しいが、そんなに殺気を放っていたら、目当てのスライムを討伐できない。


「優奈、もうちょっと殺気を抑え……」

「ダメだよ? あきくんを危険に晒す奴は全員私が殺さな――」


 目が笑っていない。全てを消そうとする目をしている。


「女の子がそんな物騒なことを言わない」

「むぐっ。ペロ」

「舐めるなよ」

「えへへ、あきくんの手が近くにあったら、舐めたくなるし、しゃぶりたくなるよ♡」

「怒っているのやら、甘えているのやら」


 情緒不安定だな。異世界でも、変わらないな。ま、そこが安心したりするのだが。


「スラァ〜」

「あ、いた」

「スライムっ!」

「威嚇するなって。今度は気を付けたら大丈じょ」

「スラァァァッッッ」

「まだ、なんもしてねぇぇぇ!」


 スライムが先程と同じように襲い掛かってきた。が、スライムが、俺に纏わりつくことはなかった。いや、出来なかった。


「二度も目の前で、大好きで大事なあきくんに触れさせるわけないでしょっ! 女の復讐――ラスサンダー」

「スラララ!?」


 渾身の女の復讐ラスサンダーが炸裂し、スライムは弾け飛んだ。


「ふぅー。大丈夫? あきくん」

「あ、ああ、大丈夫」

「よかった。次もちゃんと守るから安心してね」

「う、うん、ありがとう」


 もし、俺が浮気しようものならば、浮気相手にこれを食わすことになるんだろうな。女の怒りは恐ろしいな。ま、浮気なんてしないけど。


「この調子でスライムを探して、倒して行こうか」

「うん!」


 その後もスライムを探しては襲われそうになり、それを優奈が倒すという作業を繰り返し、気付けば短時間でスライムを二十体倒していた。

 お姉さんが言っていた通り、この森はスライムが多くいた。


「これだけ倒せばいいだろ。そろそろ帰るか」

「そうだね。ん? 待ってあきくん、近くにスライムの気配がする」

「そんなのわかんの?」

「うん、ラブアイにスライムの情報を加えて、分かるようになった」

「そうか、すごいな」


 だから、ラブアイチート過ぎだろっ!? 鑑定、感知、索敵が出来るって、もはや神じゃん!? 神の魔術じゃん!?


「こっちら辺にいる」


 優奈の後をついていき、スライムを探す。別にもう帰ってもいいのだが、倒し分だけ稼げるから近くにいるなら倒す。


「いたよ」

「あれか」


 茂みに隠れ、スライムを目で捉える。

 スライムは、のそのそとどこかに向かっている様子だった。


「どこに向かっているんだろ?」

「仲間のところとか?」

「だったら、そこまで後を付けて、群れを一網打尽したら、一気に稼げるね」

「……そうだな」


 気のせいか、異世界に来てから、優奈の発想が物騒になっていっている気がする。


「取り敢えず、スライムの後を付けるか」

「うん!」


 バレないように、一定の距離を保ちつつ、スライムの後を付けた。

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