2『スライム洞窟』

第7話 スライム洞窟の噂➀

 ゴブリンを倒した俺たちはギルドに戻ってきていた。

 優奈の冒険者証を提示し、報酬十二アイを受け取った。一体六アイと言ったところだ。

 ゴブリンは、よくいて、みんな倒すから、あまり報酬はおいしくないらしい。

 稀に、ゴブリンの集団が現れるらしいが、基本一体から四、五体で行動するので、滅多に遭遇しない。ゴブリンで稼ごうと思えば、塵積状態になる。


「所持金二十九アイ。そこから、宿に泊まれば、残り十九アイになる」


 さらにご飯も食べるため、十アイ前後しか残らない。貧乏だ。

 みんな、この世界ではどうやって、金を稼いでいるんだ?


「お金ってどうすれは稼げますか……」

「えぇ……」


 ギルドのお姉さんに相談してみた。そんな質問され、お姉さんは困った表情をする。

 それが分かれば、お姉さんもとっくに稼いでいるって話だよな。

 ギルド嬢って、給料いいのか? まあ、よくても、俺男だからなれないけど。


「そうですね、冒険者となると、地道にクエストをこなして稼ぐか、少し危険ですが、難易度の高いクエストを受け、大きい報酬を得るか、ですね」

「そうですか。因みに、その難易度の高いクエストって、なりたての俺たちでも受けられるんですか? なんか、冒険者ランク的なものとか」

「ああ、少し前まではランク制度があったんですけど、結局、高くても低くてもパーティーを組めば、関係なくなってしまうので、廃止になりました。

 冒険者は、受けるクエストはあくまで自己責任になるので、初心者でも上級者でも関係なく一応全てのクエストを受けられますよ。まあ、稀に指定されたクエストもありますが」

「なるほど。分かりました。ありがとうございます」

「いえ、また分からないことがあれば、お尋ねください」

「はい。行こっか、優奈」

「うん」


 取り敢えず、お金の稼ぎ方はだいたい分かった。あとは、自分たち次第ってところだ。


「受けるの? 難しいクエスト」

「ん〜、どうすっか。正直、お金が全く無くて困ってるけど、危険な仕事をするのもなって。優奈は多分大丈夫だろうけど、俺がなぁ〜」


 弱いんだ。

 まさか、異世界に来てまで、金に困る生活をする羽目になるとはな。とほほ。

 はぁー、なんか、然程危険じゃなくて、稼げる仕事ねーかなー!!


 ないよなぁー。はぁー。

 金のことを考え、溜め息を吐いていると、店の前で立ち食いしている人が興味深い話をしているのが、聞こえてきた。


「なあ、知ってるか、あのスライムの噂」

「スライム? スライムって、あの弱ぇー魔物か?」

「そう、そのスライムだ。どこかの洞窟にな、無限にスライムが生まれる『スライム洞窟』って言うのがあってだな、そこで稀に生まれる金色のスライムを倒すと、千アイもするアイテムを落とすらしいぞ」

「すげぇーな。でも、噂だろ? スライム洞窟なんて、聞いたことねーぞ?」

「そうだけど、あったら、すげぇーよなって話だよ」

「すげぇーけど、なきゃーな」


 ふむふむ、スライムが無限に生まれるスライム洞窟に、金色のスライムか。

 確かに、そんな夢物語みたいものがあったら、簡単に稼げそうだよな。

 スライムもゴブリンと同じく、あまり稼げないが、塵積作戦で、無限に倒せばその分稼げる。それに、金色のスライムを倒したら千アイもするアイテムを落とす。


 どうせ、クエストしかすることないし、ちょっと探してみるか。

 あくまで噂だし、あまり期待はしない。宝探し感覚だ。


「優奈、明日スラ……」

「わかった! スライムが洞窟探すんだね!」

「お、おう」



 まだ、言い終わってない……。言いたいこと分かってくれたら、別にいいけどさぁ。


♡ ♡ ♡


 同じ宿に泊まりに行ったその翌日、ギルドのお姉さんに噂のスライム洞窟について何か知らないか尋ねに来ていた。


「スライム洞窟ですか? 確かにそんな噂は時々耳にしますね」

「何か知ってますか?」

「そうですね、とある冒険者さんたちが話しているのを聞いただけなんですけど――」


 スライム洞窟の位置は不明だが、そこには男にとっては毒であり、女にとっては敵であり、タダでは済まない、そんな恐ろしい毒スライムがいる。


「らしいです」

「……なぞなぞ?」


 男にとっては毒、女にとっては敵。これ、な〜んだ? なぞなぞみたいな話だな。


「謎なんですど、私、もっと謎に思っていることがあるんですよ」

「なんですか?」

「スライム洞窟の場所は知らない、でも、恐ろしい毒スライムがいることは分かっている。これ、矛盾してません?」

「っ!? 確かに! 実際に行って、確かめないと、そんなスライムがいるかどうかなんて分からないですね」

「はい、そうなんですよ。この噂が本当だとすれば、そんな危険なスライムを放置しているわけにはいかないので、ギルド側も念のために調べてはいるんですが、中々情報を掴めなくて、困っているんです」

「そうなんですか。俺たちもスライム洞窟について、もう少しだけ調べてみようと思うので、何か分かったら報告しますね」

「助かります。ですが、危険なことはしないでくださいね」

「分かっています。では」

「はい、また、何時でもお越し下さい」


 ギルドを出て、隣で聞いていた優奈に先程の話についてどう思うか尋ねた。


「なんで、男にとっては毒なのに、女にとっては敵なんだろ? 毒スライムなら、男女共に敵だし、毒だと思うのに? なんで、わざわざそこで分けたんだろう?」

「そうだよな」


 女にとっては敵なら、男にとっても敵なはずだ。男にとって毒なら、女にとっても毒のはずだ。

 まるで、何かの暗号のようだ。


 それに、毒で敵なのに、どうして放置なんてしているんだ? ギルドも動くほどの敵なら、討伐すれば、それなりに良い報酬が貰えそうなのに。


 報酬よりも良くて、放置するメリットでもなければ、こうはならないはずだよな?


「あー、わからん」

「“噂”って、言うのが、ちょっと面倒くさいよね。真実なら真剣に探すけど、噂ってなると、あるかも分からないものを真剣に探そうとはならないもん」

「確かになぁー」


 噂程度の話、時間を掛けて、真剣に探す人なんてそうそういないだろ。

 精々、片手間に、ついでに、暇潰しにと言ったぐらいで探すだろ。ギルドのお姉さんも、念の為と言っていたし。


「んー、私の勝手な憶測になるんだけどいい?」

「元々噂程度の話だし、いいよ」

「分かった。もし、仮にそのスライム洞窟が存在意するとしてね」

「するとして?」

「何か訳あって、そのスライム洞窟を隠したいとするの」

「うんうん、それで?」

「でね、それをあると“真実”にしたら人が来るし、無いと“嘘”にしたら来ない人もいれば、疑って来る人もいるかも知れない。

 でも、敢えて、嘘にも真実にも鳴り得る“噂”にしちゃえば、そんな信憑性もない噂すぐに忘れて、“有る”ものを“無い”ものにできそうじゃない?」

「確かに、噂なんて、時間が経てば勝手に消えていくもんな」


 それを利用して、有るものを隠そうとする。ということは、優奈の憶測が当たっていれば、スライム洞窟は存在することになる。


「探すか、スライム洞窟。見つけたら、頭のごちゃごちゃも解消されて、なぞなぞも解けるだろ」

「だね! がんばろぉー!」

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