第3話 初クエスト

 クエストをするべく、森にやって来た。というか、戻ってきたという方が正しいかも知れない。

 今回、採取する薬草は三種類だ。どれも、調合で使う薬草らしい。


 後に聞いた話だが、クエストはギルドから出されるものと、誰かからの依頼という形の二週類のクエストがある。

 今回は、後者の依頼だ。因みに、依頼主は、薬屋さんだ。まあ、調合というぐらしだし、そうだろうなって話だけど。


 話を戻し、採取する三種類の薬草というのが『癒しそう』『苦草にがそう』『しびそう』だ。

 調合の魔術も知識もない俺には、これがどんな薬になるかは分からない。


「んじゃ、探すか」

「こんな森の中じゃ探すの大変そうだね」

「ふっふっふ、俺には、このクエストにうってつけの魔術を持っているのを忘れたか?」

「あきくんの魔術……あ! もしかして《鑑定》?」

「そうさ。《鑑定》は、鑑定したものの情報を教えてくれる。これさえあれば、薬草なんて」

「でも、探して、これがそうかを調べるだけだから、結局……あ、えっと……別に、結局探すのは変わらないとかって訳じゃないよ?」


 グサッ――胸に、優奈の言葉が刺さった。


「はは……やっぱ、俺の魔術なんの約にも立たないな」


 優奈の言う通り、鑑定はあくまで目で見たもの、手に取ったものを分析して調べる魔術であり、探しているものがどこにあるか教えてくれるわけではない。だから、結局探す手間は省けないのだ。


 精々、似たような薬草がある中、間違えることなく採取できるぐらいだ。


「で、でも、ほら、間違えないことはいいことだよ? ギルドのお姉さんも、よく似たような薬草を持ってくる人が多いって言ってたし」

「そうだな……」

「私のバカ。余計なことを言ってあきくんを悲しませたらダメだよ」

「ま、取り敢えず探すか。魔術のことなんて今更だし」

「う、うん。がんばろー!」


 取り敢えず薬草を探すことにした。

 三つの薬草の特徴を挙げるとすれば、癒し草は、花であり、花弁がハート形になっていてピンクらしい。

 それと似たような薬草で、淫ら草というのがあるらしい。個人的に、どんな薬が作れるのか興味がある。優奈には内緒だぞ?


 次に、苦草は、花ではなく草で、青色で垂れているらしい。似たような薬草で風邪草があるらしい。多分、風邪を引かせる薬草だろうな。学校に行きたくない時とかに使えそう。


 最後に、痺れ草は、花であり、花弁がギザギザしていて黄色らしい。似たような薬草で、麻痺草があるらしい。なんとなく、どちらも似たような効果がありそうだ。


「これが特徴だ」

「わかった。でも、特徴が分かっても……」

「こんな草花が咲き誇る森の中で探すのは大変だな。優奈の魔術で、なんか創れないのか? 簡単に薬草を探す魔術」

「うーん、分かんないけどやってみるよ。その前に、んっ」


 そう言いながら、唇を少し尖らせキスをせがむ優奈。


「いやいや、さっきの分の魔力は?」

「……なくなった」


 あ、これ、絶対嘘だ。ただ単にキスしてほしいだけだ。

 普通ならば、いちいちキスをしないと魔術が使えないというのは非効率で面倒だ。しかし、優奈にとって、この状況は好都合だろう。

 優奈からすれば、普段は頼んでもキスしてくれなくても、魔力を理由にすれば、俺はせざるを得ない。

 別に優奈とキスするのが嫌なわけでない。恋人だし、彼女だし、俺だってキスはしたい。したいが、別に何度もしたいと言うわけではない。


 なんか、雰囲気や気分なのだ。イチャイチャしているときか、出掛けるとき、帰ってきたときでもいい。そういうときに、なんかしたいと思うのだ。

 だが、優奈は違う。優奈は暇さえあればキスをしたいと思っている。


 例をあげるならば――特にすることなく俺がソファーで横になっていると、優奈がやってき、そのまま俺の上に跨がる。そして、顔を近付けキスをしてくる。何度もだ。最初はソフトキスだが、次第に長くなっていき、舌を入れてディープキスをしてくる。

 優奈は雰囲気や気分どうこうより、好きだから、好きな人とは何時でもキスをしたいものでしょ? なんだ。


 だから、一見このデメリットのようや条件でも、優奈からすればメリットなのだ。

 今は別にいいさ。周りに人はいないし、必要ならばキスの一つや二つぐらいする。

 だが、これが、人がいるとなれば、話は変わってくる。


 優奈は人がいようがいなかろうがお構いなしだ。自分で言うのもなんだが、優奈は俺のことしか見ていない、見えていない。周りの人なんて、いてもいないような扱いだ。

 つまり、もし今後対人戦ともなれば、俺は人前でキスをしなくてはいけないことになる。

 どこかの会場で、観戦客が沢山いるような場所でもしなくていけなくなる。


 胃が痛くなりそうだ。どうにかして、このデメリットの抜け穴を探さなくては。

 取り敢えず、俺はおとなしく優奈にキスをし、魔力を分け与えた。


「んー、もっとぉ〜♡」

「これで足りるだろ。さっきもこれぐらいだったし」

「でも、ほら、いっぱいチャージしていたほうが、沢山魔術使えるし」

「沢山チャージしたら、暫くはキスしなくても済みそうだな。なら、するか」

「……やっぱりいい。魔力を減らす魔術でも創ろうかな」


 なんか最後の方、とんでもないこと聞こえたような気がするぞ!?


「魔力は溜まったけど、どんな魔術を創ればいいの?」

「鑑定の上位互換的なものだから、なんか見透すような魔術? って言っても流石にむず……い……か!?」

「わかった! 見透すイメージだね。魔術創作――《見透す瞳ラブアイ》。できたよ!」

「えー……」

「試しに使ってみるね。《見透す瞳》」


 優奈が新創作魔術ラブアイを使うと、優奈の目にハート型のフェルターのようなものが現れた。


「わあ!! これすごい!」

「何が凄いんだ?」

「あきくんを見たら、服まで透けてあきくんのおちん」

「何を見てんだ!? 見透し過ぎだ! さっさと薬草を探して!?」

「はーい」


 全くなんちゅー魔術を創りやがった。人の服まで見透して、裸が見れるなんて……羨ましい。何その魔術、俺も使いたい。女の子の裸見放だ(殴っ。魔術を悪用したら、駄目だぞ?


「どうだ、見えたか?」

「うん、見えたよ……あきくんの煩悩が。裸を見るのは私だけにしてね? 見たかったら、何時でも見せてあげるから」

「……はい」


 すごいナー、考えていることまで見透せるのカー。なんて、ふざけている間に、優奈は薬草を見つけた。

 見透す瞳は、鑑定の機能もあるらしく、ちゃんと目当ての薬草だった。


「癒し草が五つ、苦草が四つ、痺れ草が四つ――これだけあればいいだろう。じゃ、帰るか」

「そうだね、そろそろ日も暮れてきたし、帰ろー!」


 分かっていたことだが、結局、今回も俺は特に何もせず、全部優奈任せになってしまった。やったことと言えば、精々、魔力をチャージしたぐらいだ。

 ま、どうにもならないことをいつまでも考えていても仕方ない。今は、金の問題が先だ。


 沈んでいく夕日をバックに俺たちはペルシャへと帰っていった。

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