第3話 中土井さん

「あれ津村君も呼ばれたの、理由知ってる?何かやらかした?」

 部屋にいたのは、先生ではなくて中土井香織だった。航は理由を聞かされないままに生徒指導室に来るように言われたのだ。


 中土井と航は一年、二年ともに航と同じクラス、それなのに話をしたことはほとんどなかった。別に避けられたりしているというわけではないが、話をするきっかけがなぜかまったくなかった。


 ショートにした髪と大きな瞳、ちょっと低い声、テニス部の前キャプテン。どちらかというと女子に人気が高い。

 そんな彼女とどうにかなるなんてことは、考えられなくて、入学当初から気になってはいたものいまだにクラスメートの一人、という立ち位置は変わりがなかった。


 短くしたスカートから延びる脚は、細くも太くもなく健康的?というのかもしれない。触ってみたいと思ったことは何回もあるが、そんなことができるわけはない。


「まったく覚えがないんだけど」

 そう答えながら、これはチャンスなのかもと思う。部屋には二人きり、そう思っただけで航は喉の奥がひりついてきたように感じていた。


 簡単なこと胸を触るだけ、先生はそう言った。ということは。

 まさか学校でそれはないだろう。


「そうだよね、津村君はまじめだから、呼び出しを食らうわけないよね」

「中土井さんだって」


 そのあとの言葉が続かない。ここで何か一つぐらいうまい話が、航はいつもそう思うが女の子を前にすると、一向に話題が出てこない。


 頭の中にはいろいろあってもこんな話受けないだろうとか、こんなこと聞いていいのかな、嫌われないかな、それやこれやで話題が続かない

 。

 中土井はもともと航と会話をする気はなかったのか、カバンからスマホを取り出すと、指を動かし始めた。おそらく彼のことなど忘れているにちがいない。


「ごめん、ごめん、呼び出したけれどもうすんじゃった、もう帰ってもらっていいよ、今日の分二人は今度のテストでおまけするから」


 中土井はやったーと叫ぶと、ぺこりと頭を下げさっさと部屋を出ていってしまった。

「やっぱり駄目ね、せっかく二人きりにしてあげたのに」

 そういうことか、でもどうして中土井だったのか。


「わかるよ、君の考えることぐらい。でも彼女が姫の生まれ替わりじゃないことはわかってたけど」

 なんで、つい航は口に出した。わかるんなら探す必要はないじゃないか。


「ああ、彼女、男がいるから。処女じゃないし、」

「し、処女、じゃない」


 なんでそんなことが、それにそれがどうしたというのか。それよりもあまりにダイレクトないい方に航はどぎまぎしてしまった。


「見ればわかるじゃない、こう見えても私は、ものすごく優秀な魔術師だったんだから」

 そうかもしれないが、ずいぶん軽い魔術師だなと航は思う、魔術師なら魔術師らしくもう少し話し方を考えたらどうなんだと。


「姫は君以外とは、そういうことができないはずだから、たぶん」

 たぶんってなんだ、どこまでが本当かよくわからない。


 それよりも、彼女が姫じゃないなら、どうして彼女とくっつけようとしたのか、最初の疑問には答えてもらっていない。


「練習かな、女の子と会話したことないでしょ」

「すみませんね、どうせツバイ大尉みたいには話せませんよ」

 どうせ生まれ変わるなら、その才能も持って生まれ変われば苦労がなかったはずだ。


「彼も女の子と話すのは苦手だったよ、君はそのまんま。君の魂は前も今度も女の子と話す才能なんて持ってないの」

「じゃあ、どうやって姫と」


「姫は変わり者だったのよ、でも今度もそのまま変わり者かどうかはわからない。ということで努力してね」

「どう努力しろっていうんですか、今の見たでしょ、彼女俺に全く興味ないんですよ」


 先生はニヤッと笑った。

「一つだけ教えてあげる、彼女、別に君に興味がないわけじゃないよ」












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