第4話 中土井さん その2

 中土井が処女じゃないと聞かされたことで、航はつい要らない想像をしてしまう。あんなことしてるのか、どんな顔してやってるんだろう、昨日は一日中そんなことばかり考えていた。


 しかし、それでも信じられないところもある。彼女の周りにはいつも女子しかいない。いったい、いつどこで男と逢っているんだろう。


 一年生の四月、初めて教室で彼女を見たときから、気になっていた。もちろん航に告白する勇気なんてなかった。


 それに、気になる女の子は彼女だけじゃなかったので、彼女一人を見ていたわけでもない。

 それでも水泳の授業の時などは、つい目で彼女を探していた。


「おーい、航。中土井を見る目がいやらしい。、前からそうだけどさ、ちょっと露骨すぎ」

 美咲だ、家が近くで幼稚園からの幼馴み。そういえばこいつも二年間同じクラスだった。


 中三までは美咲の方が身長も高く、何をやってもかなわなかったが、ようやくこの頃少しは対等に話ができるようになった。

 周りから言わせれば、可愛いし性格もいいらしい。けれどなぜか、いままで付き合いたいという気が、まったく起きなかった。


 しかし、そんなに自分はわかりやすいやつなのだろうか。しかしいつもつるんでいる直人も知らないはずだ、どーしてこいつにはわかるのか。

 もしかするとそんなことから美咲を無意識に避けてるのかもしれない。


「とっとと告ればいいのに」

「ほっとけよ。それに、中土井には彼氏がいるんだろ」

 美咲は不思議そうな顔をした


「中土井の話本当なんですか、彼氏なんていないって話を美咲、あ、久野から聞いたけど」


 職員室で話をしているのだが、どんな魔法なのか、一切周りには気が付かれていない。そんなこともあって、相手が一応先生だということすら、忘れてしまっている。


「あ、あれ、うん、噓だよ。っていうかわかるわけないでしょそんなこと。それがわかるなら姫探しにこんなに苦労しないって」

 航は絶句した、嘘ってなんだ、この数日のもやもや、というか妄想はどうしてくれるんだ。


「いや君がどんな反応するか見たくてさ、童貞君ということだけはわかった。よかったね、彼氏いないのか。じゃあちょっと頑張ってみたら」

 怒る気すら失せてしまった。しかし頑張ってみろと言われても。頑張れば何とかなるなら、高二まで彼女がいないなんてことにはならないだろう。


「君の友達で彼女のいる人って何人いる?」

 そういわれてみれば直人と……、そういえばだれもいないような気がする。

「でしょ、みんな女がいるなんて漫画の世界だけだよ。逆に言えば彼氏持ちもどれだけいるかって話、やってみなきゃ、とりあえず」


 そうか、先生の言うことを信じるなら、自分には姫という彼女が存在するのだ。そう思えば、今までよりは積極的になれるかもしれない


「姫には振られないんですよね、確認だけど」

「知らない、わからない。いえることは他の女子よりは可能性が高いってことぐらいかな」


 振られたらどうなるのだろう。自分は生まれ変われなくても構わないけれど……。

「姫が、ほかのだれかのものになった時点でおしまい。きっと私はやけくそであなたも姫も殺すわ」


 冗談ではなさそうだ、先生の目が、一瞬黄色に光った。

「先生落ち着いて、俺頑張りますから」

「ほんとお願い、君は自分が思っているよりはましな子だから」


 航は褒められてはいないような気もしたが、そこはまあいいとすることにした。ここで先生を怒らせると、取り返しがつかないことになりそうな気がする。


「中土井が姫じゃないのは、ほんとなんですか」

「だからそれもわからないって、わかれば無理やりでも君にやらしてあげるよ」

 無茶苦茶なことを言っている。そんなことして訴えられたら、捕まるだろう。


「それがわかるのは君だけなの、胸に触れる、それしかないから」

「だけど方法は自分で考えろ、ですか。もう少しアドバイスがあっても」


 先生はちょっと考えるしぐさをした。

「やっぱり嫌だ、自分で何とかできないような男は、わたし好きに」


 と言いかけて先生は口をつぐんだ。

 私が好きに?どういうことだ、そう聞きたかったがやめた。

 なぜかそれは聞かない方がいいという気がした。

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