4-6 パーティーの誕生

「ふむ……パーティーねえ。俺的にはなーんも問題ない。勇者に付いて行くってことは、勇者と同じことをするのだろう。戦いに同行すれば前衛もしくは後衛に就くか、待機しているだけってこともある。いずれにせよ、勇者でなければできぬことだ。ならば勇者とみなしてよいとは思うが――一応調べるから待ってろ」


 謁見部屋に設けられた玉座に座ってユシャリーノの話を聞いた王様は、視線を秘書に向けた。

 話のすべてを聞いていた秘書は、恐らく必要となるであろうと持ち込んでいた物の中から、一冊の分厚い本を取り出した。

 王様は、書物を受け取ると、眉間にしわを寄せて不満をもらす。


「またこれを読むのか。初めから読むのもしんどいが、知りたい項目を探すのは至難の業ではないか?」

「必要度の高そうな章に、しおりを挟んでおります。気休めにすらならないかもしれませんが、ご活用ください」


 王様は、本の上部からはみ出ているものについて尋ねようとしたが、秘書は先回りして説明した。


「ほほう、さすがだ。そもそも、セレ……コホン、勇者がお前のようにわかりやすければ問題ないのだ。まったく、本当に勇者が必要な状況なのか?」


 王様は、ぶつぶつと愚痴をこぼしながら、挟まれたしおりをつまんでページを開く。

 数回同じ動作を繰り返していくうちに、苛立ち始めた合図として、踵でトントンと床を鳴らし始めた。

 秘書は冷めた顔のままだが、ユシャリーノとミルトカルドは、王様が怒りだすのではないかと心配そうに見つめていた。

 中でもユシャリーノは、心の中に留めていた疑問を王様が口にしたことで、顔から血の気が引いていくのを感じていた。


「勇者が必要なのか――そんなの必要に決まってるだろ。でなけりゃ勇者は選ばれない」

「その通りよ、ユシャ。あなたは勇者、自信を持って。私ね、思いついたことがあるから試してみる」

「なんだよ、思いついたことって」


 ミルトカルドは、視線を王様と秘書へ向けて答える。


「確かめたいことがあるの。予想が当たっていれば、ユシャに喜んでもらえると思う。だからがんばるね」

「何をするのかさっぱりわからないけど、無理はするなよ。困ったらすぐに俺を呼ぶこと、いいな」

「あはっ。そういうところ、大好き」


 ユシャリーノとミルトカルドの話が盛り上がりそうになったところで、王様は探していた文面を見つけた。


「なになに……勇者は、同士を募って同行者にすることができる。同行者は勇者に付き従う者となり、勇者の承認なしに勝手な行動をとってはならない。同行者が勝手な行動をとった場合、冷静な判断の元に、勇者は同行者に対して処罰を与えることができる、だと」


 まったく興味がないような口ぶりで王様は読み上げた。

 対してユシャリーノは、目を見開いて口角が少し上がる。


「ってことは、俺次第ってことか。ならミルトはパーティーメンバーになれるな」

「ほんと!? それって、ユシャが私を認めてくれるってことよね? やったー!」


 思わず拍手をして喜んだミルトカルドは、ユシャリーノを除く謁見部屋にいる全員の視線を浴びた。

 ユシャリーノは、ミルトカルドの腕に肘をコンコンと当てた。


「ここは城だぞ、はしゃぐなよ」

「だって、うれしかったんだもん」


 王様は、静かにしていたミルトカルドから、突然発せられた元気な声によって呆気に取られていた。

 視線こそミルトカルドに向けているものの、冷静なままの秘書は、王様に正気を取り戻させるために肩へ手を乗せた。

 ハッとして我に返った王様は、次にやるべきことを思いつかず、秘書に目をやった。

 秘書は、しかたがないといった様子で助言をする。


「勇者様の依頼には答えたのですから、他に何かお困りごとがあるかをお聞きになってはいかがですか?」

「おう、そうだな。勇者よ、これでよいか?」


 王様は、秘書の提案通りにするのかと思いきや、話をまとめに入った。

 ユシャリーノは、ミルトカルドの猫っ毛らしくくるりと巻いた毛先に視線を移し、しばし考える。

 綺麗な銀色をしているな、などと考えがブレたところで、返答を待つことに耐えられない王様が口を開いた。


「正直なところ、何度も来られると対応に困る。この書物を渡すことができればよいのだが、それをしてはならんらしい。どうにも詰まった場合はしかたがないが、差し当たり金と材料などを渡すから、できるだけ自分たちで解決してくれ。こうしている間にも、事が悪い方向へ動きかねないのだ。国の事情ってやつだ、察してくれ」


 ユシャリーノは、王様が冗談ではなく本気で困っていることを感じて、勇者心をくすぐられた。


「わかりました。でも、困りごとがあるのなら、ぜひ勇者である俺を頼ってください」

「気持ちはありがたいんだがな、それでは都合が悪いのだ。任せられるならいっそ丸投げしたいところだが、かえって拗れる。とにかく、俺はこれで失礼する。後のことは秘書から聞いてくれ」


 王様は、ユシャリーノたちに言いたいことだけ伝えると、そそくさと謁見部屋を後にした。

 近衛兵も続いて出て行くと、ユシャリーノとミルトカルド、そして秘書が残された。

 秘書は、ユシャリーノに目と手振りだけで部屋の移動を促した。

 以前訪れたときに教えてもらった、謁見が終わったら部屋を移動しなければならないためだった。

 しかしユシャリーノは、片手のひらを見せて首を振った。


「秘書さん、パーティーメンバーにできるかどうかを聞きに来ただけなので、今回はこれで帰ります」


 秘書は、扉へ向けていた足をユシャリーノに向き直して言う。


「では、お持ちいただくものをご用意いたしますので、しばし表でお待ちください」


 ユシャリーノは、会釈をして去る秘書の背中へ向けて、会釈を返した。


「なんだか大変そうだなあ。でも今の俺じゃ力不足ってことか。そんなの悔し過ぎる! 早く勇者らしくならないと」

「ユシャ、そんなに焦ると逆効果よ。すぐに思い描いているような勇者になれるなら、とっくになっているはず。今は一つ一つやれることをこなしていきましょう」


 ミルトカルドは、ユシャリーノの気持ちを落ち着かせるために腕を掴んで引き寄せた。


「これからは、私もいるんだから」

「ち、近い……顔が近いよ」


 ユシャリーノは真っ赤な顔を隠すように、掴まれた腕を引っ張ってミルトカルドと共に謁見部屋を出た。

 その頃、秘書の後を一つの影が追っていた。

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