4-5 謁見と脱力

 城に着いたユシャリーノとミルトカルドは、謁見部屋まで通された。

 二人は手をつないだままだったが、王様と会うのにこれではまずい。

 ユシャリーノは渋るミルトカルドをなんとか説得し、手を離すことはできた。

 できたのだが……ミルトカルドも簡単には引き下がらない。

 謁見部屋に向かって複数の足音が近づいている。

 明らかに王様が来たとわかる雰囲気となった瞬間、ミルトカルドは、ユシャリーノに肩を付けた。


「王様が来るから手を離したんだろ。これじゃあ意味ないよ」

「でも……私……勇者じゃないから」

「勇者じゃないから認証してもらうんだろ。確かに俺が勇者になれたのは、こいつを持っていたからだ」


 ユシャリーノは、腰に装着している勇者の剣をぎゅっと握った。


「でも、ミルトは勇者の証を持っていない。それで勇者になれるのかなって、ミルトから話を持ち掛けられたときから気になっていた」


 ミルトカルドは、勇者になるための条件が揃っていないと思われる状況を承知で、自分を城に連れて来たユシャリーノに驚いた。


「それなら、なんで私を連れてきたの?」

「勇者の俺がパーティーに入れたい人がいるって言えば、通るかもしれないと思ったからだよ。無理そうでも、できるだけ粘ってはみる。うまくいかなかったときはごめんな」

「ユシャ……」


 ミルトカルドは、ユシャリーノが自分のことを色々と考えてくれていることを実感して、頬を赤くした。

 それも束の間、ミルトカルドの火照りを冷まそうとするかのように、謁見部屋の扉が開いた。


「忙しいのに……」

「毎度ここまで来てからごねるのはお止めください。さあ、お待ちですよ」


 ぶつぶつ言いっぱなしのマルスロウ王国の王様は、秘書に背中を押されながら入室した。

 ユシャリーノは、いつもの城の雰囲気だなと、妙に安心させられた。

 何気に勇者と王様の目が合うと、王様はユシャリーノに向けて愚痴のついでに一言漏らした。


「おう、勇者よ」

「陛下、きちんと立ち位置でお話しください」

「大して変わらんではないか」


 王様が勇者と謁見する際は、認証式と同様の形で会話を交わすという決まりがある。

 しかし王様は、元から決まりなど無かったかのように、部屋の中を歩きながら話し始めた。

 そこまで想定していたのか、秘書はすかさず王様の話を遮った。

 秘書に背中を押されたまま立ち位置についた王様は、女中たちに身なりを整えられてから、改めて口を開いた。


「おう、勇者よ。いよいよ成果報告か……あ? 女性と付き合い始めたことなど微塵も聞きたくないぞ」


 王様は、こめかみに血管を浮き上がらせるほど目に力を込め、ユシャリーノを睨みつけた。

 ギクッという音が鳴ったのではないかと思わせるほど、ユシャリーノは体をビクつかせた。


「つ、付き合う!? ままままま、まさかそんなこと、でででできないできないっ! 俺、そんなことできないって!」

「付き合っていないだと? ならばなぜその子はギシャリーノにくっついておるのだ」

「ユシャリーノですよ! 王様に会うということで緊張しているんです。俺もくっつくのはどうかと思っていますけど、そこは女の子の気持ち次第なので仕方が無いかなと」

「ふん! 付き合いの報告ではないとすると……いや待て、その前にどうした?」


 王様は、ユシャリーノが何の話をしに来たのか聞こうとしたが、気になる挙動をしている秘書が目に入り、そちらの解決を優先した。

 驚いた顔をしたままの秘書は、自分に向けられた視線を感じて我に返った。


「あ、はい。どうされました?」

「それはこちらの台詞だ。どうした、体調が優れないのなら下がっていいぞ」

「い、いえ、大丈夫です。どこも悪くないのでお気になさらず」

「かえって気になるな」


 ユシャリーノも秘書の様子が気になり見守っていた。

 秘書に声を掛けようとしたところで、肩をくっつけていたミルトカルドの力が抜けて、全身を預けられた。

 反射的に腕を回してミルトカルドの体を抱える。


「ミルト!?」

「ごめんなさい……なんだか力が抜けてしまって――」

「緊張しているからじゃないかな。秘書さんも調子が悪いようだし、落ち着くまでこのまま抱えておくよ」

「あはっ。ユシャに構ってもらう方法が増えたかも」

「あのさー、嘘なら何もしないぞ」

「ユシャなら私を無視したりしないもん」

「なんでミルトが断言するんだよ……無視しないのは確かだけど」


 ミルトカルドは脱力しつつも満面の笑みを浮かべる。

 ユシャリーノは視線を天井へ向けて、扱いきれない気持ちを誤魔化した。

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