幕間

1:幕間 ~日本支部の終わり~

 ヤマタノオロチ・ファンタジアはエルマの決死の判断により倒された。だが、そのファンタジアが引き起こした被害は尋常ではなかった。それは、ヤマタノオロチ・ファンタジアの体液による汚染が原因で、日本のおよそ3分の1が復興不可能な状況となった。

さらに、それとは別に日本支部が危機的状態に陥っていた。それを、いち早く知ったのは他でもないサクラだった。サクラが支部の基地に現着したときには、すでにそこは半壊しており、がらんどうのようになっていた。


「え、なに? どういうこと?」


サクラの中で、不安や疑問が堂々巡りしていく。彼女は、その感情を押しのけながらオペレーションルームへと向かった。すると、そこにはオペレーターや指令が倒れていたのだった。


「し、指令? 指令!? 指令!!」


倒れる指令に駆け寄り、抱き寄せるも指令の呼吸は微弱で生きているのが奇跡的なほど出血していた。サクラは、オペレーションルームの隅に置いてあった緊急救急セットを取り出し、指令を介抱した。心臓はまだ動いているし、血液も輸血パックの血液型も一致していたので、サクラは指令の回復力に賭けることにした。


「うぅっ!! げほっ......げほっ......」


しばらくすると、リュウジ指令が目を覚ました。

サクラの感覚で2時間くらいの空白があった。


「指令! しっかりしてください! ......おじさん!!」


指令の目はまだ虚ろで、どこか遠くを見つめているようで定まっていない。

サクラはそれに対して、リュウジ指令の顔を目が合うまで見つめ続けた。


「私は、生きているのか......。ああ、サクラ。無事だったか。よかった......」


ようやく、リュウジがサクラを認識するも彼は自分の死期を悟っているかのように他人の心配をする。その姿に、サクラは涙をこらえて彼の肩を揺らす。


「私の事より、指令が生きてくれないと誰がここを指揮するの!」


「......。そうだな......。だがサクラ、ここは、危険だ。奴が......」


指令は振り絞るようにサクラに何かを伝えようとした。

だが、言おうとした瞬時に取りやめ血にまみれた手をサクラの顔に当てた。


「いや、いい。ここは、いいから、早く、逃げろ。ドイツ本部へ行き、日本支部壊滅と伝えろ! 最終防衛ラインを本部に移すんだ」


「なにを言ってるの? さっきの『奴』ってなに!? 誰かがこの状況を作ったってこと? 一体誰が!!」


その言葉に呼応するように、基地内で物音がした。サクラは、腰に身に着けていた拳銃を取り出し警戒した。すると、コツコツという足音のようなものが聞こえてきた。音の方向にサクラは立ち上がり、拳銃を向ける。 サクラが目を細めると、そこにはうっすらと人影が見えた。


「そこにいるのは誰?? フェイク職員の人? それとも、この状況を作った張本人? どちらにせよ、ゆっくりとこちらに近づいて顔を見せなさい」


人影は、サクラの指示に従ってゆっくりと顔を見せた。その顔は人間そっくりだったが、肌の色が灰色でおおよそ人間とはかけ離れた尖った耳をしていた。それは、まさしくファンタジー作品に登場する女性のエルフのようだった。


「あら、生き残りがいたのね」


「言葉は、通じるみたいね......。こっちの質問に答えて! あなた、誰!?」


「やーね。言葉くらいわかるわよ。原始生物と一緒にしないで。言語矯正くらい単純なプロセスじゃない。それとも、あなたの星じゃ言葉の違う相手とは交流しないの? さすがにそんな文化水準じゃ、私のコレクションにしてあげないわよ?」


エルフもどきは、サクラの質問には答えず自分のことばかり話し続けた。だが、その話はサクラを混乱させた。


「コレクション? 一体、あなた何者なの?」



「ほんと、そればかりね。いい? 私の名はティターン。あなたの住む銀河系よりも何千ルクス......。じゃなかった。何千光年離れた星からやってきた。宇宙人とか、異世界人とか好きに言えば?」


「目的は、なに? 侵略?」


「侵略? ははは! なにそれウケる。 さっき言ったじゃん。私はただ、コレクションしたいの。宇宙にある大きな文明、文化、そして生物にいたるまで......。ただ、私の好きなものだけ。他はぜ~んぶ消しちゃうの! 私のお気に入りたちでね!」


しかめ面するサクラに対し、エルフの女性ティターンは意気揚々と明るく話す。彼女の言っていることが正しいのであれば、彼女のコレクションつまりサクラたちの故障していたファンタジアを放った張本人であると主張したということになる。彼女は、これまでの被害を脳内で噛みしめ、憤り、その怒りを力に変えた。



「ふざけんな!!」



彼女は、点滅するヴァルキリアスーツを着用したままティターンに殴ろうとした。だが、その行動は読まれていたのかティターンはその拳を振り払い、すぐさまサクラの間合いに入って首を絞める。



「グッ......」



「そうやって、他の宇宙でも言われたよ。でもさ、楽しんで何が悪いの?」


「ひ、人の......。生き物の、命弄ぶなって言ってんのよっ......!」


サクラの言葉が通じたのか、ティターンはスッと首を絞める手を収めた。サクラは、その場で倒れ込んでしまう。その様子を見た後、ティターンはそのまま彼女の目線に合わせるようにしゃがんだ。


「確かにそうだよね~。生物がいなくなると寂しくなる~。ただ、人間はいらないけどね! じゃ、私のコレクション壊さないように大人しくしててねぇ~」


そう言って、サクラの顎を撫でて立ち上がり手を振って消えていった。サクラは、何もできなかった自分に怒り、床を殴りつけた。その拳は、少し血がにじんでいた。












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