3:日本支部 ~対立~

 サクラとエルマ、両名のヴァルキリアスーツでの模擬戦は、ファンタジアの横やりによって中断され、彼女らは指令たちと共に管制室へと向かった。


「ヘビ型のファンタジアがB12地区にて出現しました。数は一つ。体長は約5mと推測! 現状、蛇型ファンタジア”サーペント”は口から溶解液のようなものを吐き出して、市街地の破壊行動をしている模様です」


オペレーターの言葉に呼応するように、指令はサクラたちに即座に指示を出した。


「サクラ、エルマ。両名は、直ちにB12地区に向かってサーペント討伐へ向かってくれ。エルマはスーツでの戦闘は初になるが、サクラと同等の力を有していた。十分に期待している」


指令の言葉に、エルマは内心から湧き出る嬉しさを抑えて、指令に向き直り、敬礼をした。


「ご期待に応えられるよう、尽力致します!」


その姿を妬ましく見つめ、指令に軽く一瞥して、サクラも同様にB12地区へと向かった。B12地区へたどり着いた二人が見たのは、東京のオフィスビルが溶解液で溶けて根元から倒れている光景だった。さらにファンタジア、サーペントのその大きな蛇腹をうねうねと動かして、様々な街並みを溶かしていく様も見えた。


「ひどい......」


「先輩は、住民の避難を! 私はあの大蛇を引き付けます!!」


そう言うとすぐに、エルマはサーペントの元へ向かって拳を繰り出して殴り始める。


「ちょ、ちょっと! 普通逆でしょ!」


サクラは彼女の言いなりになるのは癪だと思いながらも、人命に変えられるものはないと、腹をくくり周りにいた住民をフェイクが開発した地下シェルターへ誘導させた。人命をある程度救助して、エルマの方を見ると彼女はサーペントに馬乗りになっていた。


「大丈夫?」


「問題ありません! もうすぐ排除できます」


そう言って、彼女はさらに拳をサーペントの頭に繰り出す。

土煙が舞い、サクラが腕で顔を守り、目を瞑った。

一方エルマは、自分の中の違和感を整理できずにいた。

確かに、確実にサーペントを打ち倒した一撃だった。だが、その拳の先はコンクリートだった。


なら、サーペントはどこへ行ったのかと、土煙という視界不良の中、彼女は見渡す。

土煙がやんだその瞬間、サーペントの影がなぜか2つとなって、別れていた。


「サクラ! そっちにサーペントが!」


エルマの警告空しく、一手遅く目を開いたサクラの眼前にはサーペントの牙が光り輝いていた。


「うああああああああああああああ!?」


驚くのも束の間、サクラはとっさに拳を口の中に突き出した。

なんとか、口腔内の弱点をついたのか、サーペントはサクラの腕を吐き出す。


「ど、どういうことなの!? エルマ!」


サクラはエルマの元へ向かい、必然と背中合わせとなる。

2体のサーペントは、その二人を獲物かのごとくそれぞれの目で捕らえる。


「わ、わからない! こんなケース初めてだもん! 1体のファンタジアが2体に分裂するなんて!! 細胞分裂? それとも、新たなる進化?」


「知らないわよ! とにかく、倒すわよ!」


二人は息も合わさずに、それぞれの真正面にいるサーペントへ向かって走っていく。

エルマは拳で、サクラは蹴りという、彼女らそれぞれの得意分野でサーペントに対抗する。サーペントはというと、彼女らに抵抗するわけでもなく、ただやられる一方だった。その光景に、エルマは自信げになるもサクラは少し怪訝な表情を浮かべた。


「この子たち、弱すぎない?」


「きっと分裂して弱体化したんですよ! これくらいなら先輩でもトドメ、刺せますよね!?」


「ま、まあそうだけど! あまり、そういう言い方好きじゃないな」


口で喧嘩はしつつも、二人はサーペントをそれぞれ倒した。

だが、サーペントの分裂は続く。サーペントは2体から、4体へと分裂したが、もっと奇妙なことに、先ほどよりも体格が大きくなっているのだ。ちょうど倍の10mほどへと変貌していた。さらに、4体のサーペントは合体していき、体は一つで4つの首をもつ大蛇へと変貌した。


「もしかして、彼らってヒュドラ......!?」


「ヒュドラって、いっぱい首がある蛇のことよね? あれって一つの首切っても死なないんじゃなかったっけ??」


サクラとエルマは、目の前に存在するヒュドラ・ファンタジアに後ずさりしていく。逆にヒュドラは依然として二人の少女を、餌として認識しているようで、その鋭く尖った牙と、それに滴りおちるヨダレをはっきりと見せていく。


「まずい、スーツの活動限界が......!?」


スーツの点滅にいち早く気付いたのは、サクラだった。

サクラの焦りように、逆にエルマは冷静になっていた。


「落ち着いてくださいよ......。スーツの限界がなんだっていうんです。私はまだこのスーツの力の半分も使っていませんよ? これくらいの大型ファンタジア、クリーガーがなくとも倒せます!」


エルマは、自分の力に酔っていた。これまで以上に引き出されている身体能力に彼女は震えていた。彼女のハイになっている様子をただ、サクラは見守るしかなかった。


「エ、エルマ......」


サクラは荒くなった息を整えながら、彼女に近づこうとする。それでも、エルマは無謀にもヒュドラ・ファンタジアに挑む。ヒュドラは臆せず口から毒ガスを吐き出すも、エルマはそれを難なくかわし、ヒュドラの首を一つ、また一つと拳で潰していく。


「やった! やりましたよ! どうですか? 私の力は! これで、あなたも私の実力を認めざるを」


「危ない!」


エルマの高まったプライドと、傲慢さが隙を生みだし、ヒュドラ・ファンタジアをさらに強大化させた。ヒュドラファンタジアは8つ首にまで成長し、体長も50mほどの大きさとなっていた。そのしっぽが、エルマの頭上に向かう。

スーツの限界が近いサクラだったが、しっぽの存在に気付いても動けないでいるエルマを救うために瞬発的な力で彼女を助けた。


「大丈夫? エルマ......」


「え......。なんで? どうして? 私、倒したよね? どうして!?」


困惑するエルマは、またも巨大ファンタジアに挑もうとするも、今回ばかりはサクラが引き留めた。サクラは最後の力を彼女をフェイク基地へ連れて帰ることに使っていく。サクラの顔は恐怖と、暴れるエルマへの怒りで歪みだす。


「落ち着いて! 帰るよ! 一度、撤退して作戦を立て直すの!」


「や、やだ! わ、私は......! まだ、負けてっ......!!」


エルマは自分のプライドが崩れるのを完全に気づいていた。だからこそ、声なき叫びが脳内に響き渡る。そして、スーツの限界と共に、エルマは気を失ってしまう。サクラは、だらんと垂れ下がるエルマを抱えながらフェイク基地へと急いだ。


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