2:日本支部 ~邂逅~

 ヴァンパイアとの戦闘から数日たち、ヴァルキリアスーツは正式に対ファンタジア兵器として認められた。サクラもまた、被験者ではなく正式な操者=アクターとして認可された。また同日、ドイツ本部から対ファンタジア用戦闘機動歩兵「クリーガー」の試作機と、そのパイロットである少女が日本支部に派遣されてきた。


「エルマ・ハルバートです。ドイツ本部より、技術派遣で参りました」


エルマは、リュウジたちに対して敬礼をすると、リュウジ指令たち日本支部全員で敬礼して迎え入れた。リュウジは敬礼を辞めて支部財団員を休ませた。


「ようこそ、エルマ特派員。私は日本支部指令、リュウジ・ヤマモトだ。そして、こちらが我々の開発した身体強化型特殊装甲【ヴァルキリア・スーツ】の正規操者アクターであるサクラだ。仲良くしてやってくれ」


リュウジ指令が、サクラの背中を押してエルマに紹介した。

すると、エルマはサクラを舐め回すように見つめ、少し眉をひそめて口を開いた。


「こんなの子が、ファンタジアに対抗できるとは思えませんけどねぇ。それに、まだ子供じゃない」


「......これでも、18で日本では立派な大人なんですけど? あなたこそいくつよ」


「私は、21。やっぱ、子供じゃない。......失礼。日本の技術力は存じておりますが、いかんせん我々は巨大ファンタジアとの戦闘を考慮しておりますので......。そのスーツで事足りるのかどうか。現に、この間の戦闘では、私の援護がなければ、彼女は負けていたように見受けられましたが?」


エルマは誰に対しても敬語口調と、ふんわりとした目つきとウェーブの付いた金色の髪の毛のお陰か、その雰囲気は気品あるお嬢様だ。だが、その本性は、よく言えば素直であり、悪く言えば世渡りのできない不器用な性格だった。

そんなエルマに、サクラは少し反発しようとする。


「あなたが、あの射撃を? 確かにあの時は苦戦していたかもしれないけど、あの戦いだけで判断してほしくないわ」


「本当にそうでしょうか。そのスーツの傷つきよう、相当無理をしながら戦っていると見受けられる。スーツの性能はともかく、あなたの努力が足りないのでは?」


「いい加減にしなさいよ!!」


取っ組み合いに発展しそうなサクラの表情を見て、リュウジ指令は即座に彼女の腕をがっしりと掴んで引き留める。


「やめなさい、サクラ。ここは引いてくれ。ここで仲間割れをしていても意味がないだろ」


指令の言葉に眉をひそめながらも、上官の命令であることには変わりないとサクラは一歩下がり深々と腰を折った。その様子を見てリュウジ指令は、気を取り直して話を続けた。


「エルマくん。君に来てもらったのは、我々のスーツの批評してもらうためじゃないのはわかっているな。互いの技術共有のためだ。君には新たなスーツの訓練に、サクラにはクリーガーの操縦訓練を受けてもらう。いいね」


エルマとサクラはお互いを睨みつけながらも、指令の意思に渋々従い、訓練場へと向かった。


「まずは、我々のスーツを着装してもらおうか?」


訓練場には予備のヴァルキリアスーツがあり、さらにそのスーツを呼び出すためのブレスレット「ヴァルキリーブレス」が机に置かれていた。


「まさか、アニメのヒーローさながらこちらのブレスレットでスーツの着用を? 基地から着ている状態なら必要ないのでは?」


「緊急事態に備えたブレスだ。そのブレスと、ブレスに登録した人間でなければスーツの着用は認証されないようプログラムされてる。防犯対策でもあるんだ。そう言ってくれるな」


そう説明していると、白衣の財団員たちがプログラミングを設定してブレスをエルマに手渡した。サクラはすでに着用して準備運動をしていた。それを見ながら、エルマは左腕に着けたブレスレットのボタンを押した。すると、サクラ同様、ヴァルキリアスーツが彼女の体に覆うように装着された。一つ違うのは、彼女のスーツのLEDライトの色がサクラと違って黄色であるということだった。


「黄色かぁ......。まあ、嫌いな色じゃないわ」


エルマは、スーツを着てから少し動いて見せた。エルマは澄ました顔でバク宙や、片手の親指で逆立ちする。その隅で、サクラは唇を噛みながら見つめていた。


「準備運動はよろしいですか?」


白衣の財団員が言うと、ヴァルキリアスーツを着た二人は頷いた。

二人をまざまざとみて、白衣を着た財団員は改めて二人に説明する。


「では、模擬試験を開始します。時間は活動限界の5分です。それでは、始め!」


サクラとエルマは同時に拳を突き出した。その威力は同格で、訓練場に衝撃波が走るも、二人はピクリとも動かなかった。


「初めて着装したのに、この威力なの!?」


「元ドイツ海軍だから、軍仕込みの筋力はあるわよ。あなたのようなギフテッドではないけど......」


二人は距離を取り、同時に蹴りを打つも、またも同格の威力で勝負は動かず、しびれを切らしたサクラがもう一度蹴りを入れるも、エルマはそれさえ読んで、腕で防御していく。


「ギフテッド? 私がなんの努力もしてないって言うの?」


サクラが、感情に任せて拳を繰り出すも、エルマがことごとく防いで柔道のような華麗な護身術で、サクラを床に叩き落す。そして仰向けになった彼女の肩を踏みつけながら、エルマは自分の顔をサクラの耳に近づける。


「だってそうでしょう? あなたの身体も、スーツの試験とやらもすべて血縁がなしたことでしょ?」


「私が、コネでスーツの装着者になれたって言いたいの?」


突発的にサクラは起き上がり、エルマを仰向けに床に叩きつけ返して胸倉をつかむ。その瞬間、分の悪いことにファンタジア出現のサイレンが鳴った。


「訓練中止! 二人とも、私とともに管制室へ!! ここからは実戦で実力を見せてもらう」


そう言うも、二人はにらみ合ったままだった。


「急げ!! 人命がかかっているんだぞ!!」


リュウジ指令の怒号で、二人は我に戻って管制室へと戻っていった。

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