1:日本支部 ~鳴動~

 日本支部が対ファンタジア用強化スーツ【ヴァルキリア】を行使して数か月が経ち、スーツの最終調整は最終段階にあった。


「サクラ、もう十分だ。休め」


「分かりました」


彼女の活躍あってか、ファンタジアの活動は少なくなっていた。そこで、サクラは指令の指示の元、スーツのさらなる能力向上のために自らを鍛えていた。彼女がトレーニングルームから出てくると、指令はスポーツドリンクをサクラに手渡した。


「ありがとう、ございます」


「ここでの生活は慣れたか?」


「ええ。正直、父や母と暮らすより楽しいって感じます」


サクラの影で暗くなる顔には指令も少し思うところがあった。というのも、彼女の父であり指令の兄、コウジの過干渉な性格に二人とも頭を悩ませていたのである。

指令は、彼女の肩に手をポンと手を置いて世間話を始める。


「君の活躍は、本部にも行き渡っているぞ。本部では、それに負けじと戦闘用搭乗型ロボットの計画を進めているみたいだけどな。......あ、これ言っちゃダメな奴だった。忘れて」


「え、それ言っちゃいます? 気にしないでって言われても、逆に気になります......」


戦闘用ロボットという言葉にサクラが困惑していると、指令は自分事のようにうなずきつつも、話を強引に変えるかのようにサクラの両肩を持った。


「私にもよくわからん! だが、これだけはわかる。向こうのロボットよりも、我々のスーツの方が優れている。サクラ、それはお前が試験者だからということもあるがな」


談話していると、トレーニングルームに設置されていた電話が鳴り響く。


「どうした」


指令が電話に出ると、オペレーションルームで監視していた財団員の一人からの連絡だった。


『指令、ファンタジアが活動を開始しました』


「わかった。すぐ行く」


ガチャリと電話を置き、指令はサクラを見つめる。

サクラは、すぐに彼の目でなにがあったのかなんとなく察した。


「もしかして、ファンタジア?」


「そのようだ。管制室オペレーションルームへ行くぞ」


指令が脱いでいた上着をしっかりと着こなす姿に、サクラは気が引き締まる思いで二人でオペレーションルームへ向かう。

オペレーションルームにつくと、すでにファンタジアが街で暴れている様子が正面の映像に映し出されていた。


「状況は?」


「またも人型のファンタジアです。今度は男性のようですね......。場所はZ6地区です」


オペレーターの男が一通り状況を伝えると、指令はサクラに振り向いた。


「サクラ、いけるか?」


「私はそのためにいますから」


「わかった......。出動してくれ」


指令の言葉通り、サクラは速攻で現場へ直行した。

現場にたどり着くと、体長3mくらいの男がミイラのようにやせ細った姿になった住民をポイと捨てて彼女の方を振り向いた。


「待っていたぞ! お前が同胞殺しか......。ずいぶんとかわいい子じゃないか。私の傀儡にしてくれるわ!!」


男は黒いマントに身を包み、青白い肌で一層目立つ紅い眼と白い牙を光らせて、サクラの方を見つめる。


「よくわかんないけど、一気に倒してやる!」


サクラが飛び上がるとすぐに、男も身に着けていたマントを翼に変化させて、彼女よりも高く飛び上がって彼女を蹴り落とす。


「ぐあっ!? な、なに? 今の......」


「ふはははは! ヴァンパイアの私に、空中戦で勝てると思っているのか!」


ヴァンパイアと名乗るファンタジアは、また白く鋭い歯を見せて笑った。

それを見て、サクラはぞっとするもすぐに立ち直って、拳を何度もファンタジアに当てようとする。


「おりゃ! おりゃ! うおおおおお! だめだ、全然当たらない!!」


ヴァンパイアはサクラの拳を何度も何度もかわして、その鋭い爪の伸びた手でサクラをガッシリと掴みながら背負い投げのような形で放り投げる。


「我々と同じくらいの力を有しているようだな、人間。だが、我々はあの方に選ばれた高次元生命体! 君たちの力では到底っ......!?」


「うおおおおおお! サクラ!!!」


突如として屈強な男がサクラの名前を呼び、ヴァンパイア・ファンタジアへ突進していった。ヴァンパイア・ファンタジアは人間とは思えない突進力にあらぬ方向に腰が曲がり、吹き飛ばされていった。


「お、お父さん?? どうしてここに?」


「おまえこそ! なんでこんなとこにいる! それになんだ! その卑猥な恰好は!!!!! リュウジからなにも聞いてないぞ!!」


屈強で、浅黒い男はサクラの父親のコウジ・ヤマモト当人だった。彼はひどく怒り狂った様子でサクラに詰め寄る。サクラは、家にいたころのように縮こまってしまいそうになるが拳を震わせ勇気を振り絞る。


「詳しくは説明できないけど、今は世界のために戦ってるの! そしてこれは、その誇りあるスーツなの! いい? 私の言うことを聞いて。ここからはやく逃げて!」


「ふざけるな! お前こそ、親の言うこと聞け!! 俺は心配で!!」


親子喧嘩していると、ヴァンパイア・ファンタジアが意識を取り戻してサクラの元に一瞬で戻り、彼女をラグビーボールのように抱えて父親をも吹き飛ばしてあらゆる高層ビルを突っ切っていった。


「まずは貴様からだ! 我ら同胞の仇よ!!」


ヴァンパイアはそのまま背負い投げのようにサクラを放り投げた。サクラの足はフラフラになるも、彼女は足を叩きながら立ち上がった。


「ほんと、最悪。あんたが高次元の生命体だとか、敵だとかどうでもいいわ。さっさと潰して平和を取り戻してやる。来なさいよ、外来種」


「低次元生物が、歯向かえると思うな!!!」


「おりゃあっ!!!!」


サクラは、懲りずにハイキックを繰り出すも、ヴァンパイアはまたスーツの性能を上回るくらいの高さまで舞い上がる。サクラはビルと言うビルを移りながらジャンプしていくも、ヴァンパイアはさらに上へ上へと上がっていく。


「と、届かない!!」


その時、その瞬間を見据えていたかのように、ビルのどこからか高熱源のなにかがヴァンパイアの翼を打ち抜いた。その射線上を追いかけるようにサクラが振り向くと、そこには人影が大きな銃型の武器を掲げていた。


「う、うあああああ!!」


「今だ!!」


援護してくれた人間の素性など考える暇もなく、サクラは空から落ちてくるヴァンパイアを、空中で回し蹴りして彼の頭部へ最大出力のダメージを与えた。


「ぐ、ぐああああああああああ!」


ファンタジアの体内にあるコアが暴走したのか、ヴァンパイアは見事爆発四散した。

爆発の中、サクラは颯爽と自分の父親の元へ向かった。父親は気を失っているようで、少し反応が悪かった。


「......さん! お父さん!!」


サクラの言葉が通じたのか、父親がやっと起きだした。すると、父親はサクラを力強く抱きしめた。


「サクラ......!! もう、こんなことしないでくれ!! 家に戻っていい! 俺が悪かった! 悪かったから!! 母さんも心配してる!!」


この時、サクラは今まで大きく怖かった父の背中が彼が怯えていたせいか、初めて小さく見えたという。サクラはそんな父親に、どう接すればいいかわからないでいた。


「お、お父さん......」


ただ、この時サクラは自分の父親は決して自分が憎いわけではないことを知った。ただ、過保護で暑苦しい人なだけかもしれないと思うことにした。そして、サクラは父を引き離した。


「ごめんなさい。でも、今はこれが私の仕事だから。お父さんみたいに困っていたり助けが必要な人が沢山いる。そして、みんなを守れる力を私は扱える。だから、私は続けたいの。だから、今はまだ家には戻らない......」



「......して、くれ」


「なに? お父さん」


「約束、してくれ。必ず、生きて帰ってくれ......。それが俺の、俺と母さんの願いだ」


そう言うと、父コウジはサクラを再び抱きしめた後立ち上がり、とぼとぼと家路へ向かっていった。サクラはそのだんだんと小さくなっていく父の姿をただ見るだけだった。











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