4:ドイツ本部 ~群生ファンタジア~

 財団所属してから数週間が経ち、フレイは日に日にその身体は筋肉質となり訓練でもサクラを打ち負かせるようになっていった。この日は、ようやくフレイのために用意されたスーツを着用してから初の模擬戦が行われていた。


「おりゃ!」


青く輝くスーツを着用したフレイが、ピンク色にバージョンを変えたサクラを背負い投げをしてサクラは目を丸くしていた。


「一本、取られたわね......」


サクラは二人きりの道場でつぶやきながら、驚きと悔しさで仰向けになって天井を見つめていた。


「立てる? サクラ......」


フレイは、サクラに手を伸ばすもサクラはその手を払いのけた。


「自分で立てる......」


彼女は小声で言い放ち、自分の力で立ち上がった。フレイは、その伸ばした手を持て余してそのまま体の前に収めた。サクラがタオルで汗を拭き、水分補給をしていると思い出したかのようにサクラが口を開きだした。


「そういや、今日休みなのに私の稽古に付き合ってよかったの?」


「スーツの調整、やりたかったから。こっちこそ付き合ってくれてありがとう。......ていうか、ここって休みってあるの?」


「いや、あるわよ。確かに言いたいことわかるけどさ......。そういやあんた、休みとかなにすんの?」


サクラは自分で行ったものの、なんでこんなやつの休日なんて気にしてるんだろうとという気持ちに陥っていた。フレイは、逆に質問の意味がよくわからないでいた。


「休日ってなにかするものなの? あまりよくわからなくて......。だから、あなたがしたいことを今はしてる」


「あんた、幼少期どんな育ち方したわけ? っていっても覚えてないか。......忘れて! じゃあ、どっか遊びにいかない? ちょっと、交流を深めたいっていうか。一応、先輩として気い使わなきゃだから......」


「それがバディのやることなら」


「だから、私はまだ認めてないし! いいから、行くわよ」


サクラはタオルを首周りに巻いて、フレイの手を引っ張る。フレイはそれを追いかけていった。更衣室で私服に着替え、サクラの赴くままにフレイは連れ出されていく。


「さあて、どこに行こうかな。ていうか、私もドイツ来てから遊んだりしてないんだよね。どこか、適当にカフェでも行く?」


そう言いながらも、サクラは日本にも店舗を構える「スターライトカフェ」に足を運んでいた。当然、フレイはそのことも知らないことである。


「おしゃれなとこ、知ってるのね」


「ま、まあね」


サクラは、機嫌を取り戻しつつ甘そうなモカを一つ。フレイはよくわからず、サクラと同じものを頼んだ。店員から渡されたものを二人は受け取り、カウンター席にゆっくり座った。



「のんびりすんのも、たまにはいいよね」


「そう、かな。サクラとは家と本部以外では話さないから落ち着かない......」


「それは、確かに......」


始めて仕事以外の場所で、仕事以外のことを話すという雰囲気になると急に気恥ずかしくなったサクラとその弱り切った姿に困惑しながらモカをすするフレイは終始無言の時間が続き、カップに入れてもらったモカの方がすぐになくなりそうになっていた。


「ん? 何の声?」


突如として異変を察知したのは、フレイだった。フレイが会計もせずに外へ出ると、そこには大量のカーバンクルに似たファンタジアが街中を暴れていた。そして、それらは以前に街中に放置していた水泡のような粒々から孵化していたようだった。


「え? あれって、カーバンクル・ファンタジア? 私が倒したはずなのに......」


フレイの分の会計を済ませてフレイを追いかけてきたサクラは、街の光景に唖然としながらも現場へ走り出していく。その様子を見てフレイもこぞって走り出す。


「まずは住民の避難を! 皆さん! 落ち着いて!! 教会へ避難して!!」


サクラは、とっさのことにも関わらずすぐに気持ちを切り替えてパニックになる住民をフェイクのシェルターのある教会へ誘導していく。その様子を見ながら、フレイは同じように住民に避難を促していく。


「ぐるるううああああああああ!!」


カーバンクルに似た小さなファンタジアは、カーバンクルよりも凶暴な見た目をしていて目も赤く、肌も爬虫類のようにゴツゴツとしていた。彼らはサクラ達を見つけるやいなや、一斉に走り出してサクラの方へ襲い掛かっていった。


「サクラ!! こうなったら!!」


フレイはリュックの中にしまっていたヴァルキリーブレスを腕に巻き、ボタンを押してスーツを着装した。駆け寄るも、サクラも同様にスーツに着替えていたようで、カーバンクルまがいたちを着装と同時に一気に吹き飛ばした。


「こいつら何? 管制室、誰かいる? 誰か、応答願います!」


『サクラ? こちら、技術部っす! こっちでスーツの緊急転送があってびっくりしたんだけど? ......それで、そこにいるファンタジアのことっすよね? 今、管制室に向かってるっす!』


フェイク本部から応答があったのは、技術部主任の天才少女とうたわれているモニカ・ハーベイルであった。彼女は若干15才でありながら、ロボット工学ではエキスパートで、クリーガーの生みの親なのである。


「え、技術部? てことはモニカ? まあいいや。とにかく、こっちはファンタジアがうじゃうじゃいて大変なんだけど!?」


『こっちでも至急調査してるっす! 今は指令もいないし、むやみに戦おうとしないで下さいっす! いいっすね?』


「そう言われても!!」


サクラたちの目の前では住民に危害を加えようとするファンタジアの軍勢が暴れている。フレイがそれをなんとか、けん制しているが引き留めるのもやっとの状態である。


「ちょっと、サクラ!? こっち手伝って!!」


「今行くからちょっと待ってなさい!!」


そう言うと、サクラはモニカに早口で自分の要望を伝えた。


「とにかく、モニカは指令とか緊急招集してきて!! 調査はその後でいいから!」


『......了解っす! 二人とも、それまで死なないで下さいっす!!」


モニカの心配そうな声をよそに、サクラはその回線をぶち切った。そして、向き直ってジャンプして、ファンタジアに囲まれているフレイと背中合わせになるように着地した。


「大丈夫?」


「正直、大変かも......。あのカーバンクルもどき、一体何なの!?」


二人が構えていると、ファンタジアが急に声を発し始めた。


「オレ、グリムリン! ヴァルキリア、絶対倒す!!」


「グレムリン!? なにそれ!?」


聞きなれない言葉に動揺するフレイに対して、サクラは次々に襲い掛かってくるグレムリン・ファンタジアを蹴散らしていっていた。


「どうでもいい! フレイ、集中して!! 二人でここを切り抜けるわよ!」


サクラの一言で、サクラはハッとしてサクラと共にグレムリン・ファンタジアを住民から遠ざけるようにしながら戦っていく。体重をかけて飛びかかる彼らに対し、フレイは蹴りを入れ、サクラは拳を入れて立ち向かう。だが、その時であった。突然として彼らは目くばせをしてサクラたちを正面にして集まっていく。妙に感じながらもフレイ達は防御の態勢を整えていると、グレムリン・ファンタジアはとてつもない悲鳴を浴びせてきた。その声の威力たるやフレイ達の耳をつんざき、行動不能にしたあげくヴァルキリアスーツのシステムにも不具合をもたらしていく。まだ活動時間内であったのにも関わらず、スーツはアラーム音と共にライン上に敷き詰められたLEDが点滅し始める。


「なに?? これ......。体がうまく動かない!!」


「ヴァルキリアスーツのメインシステムがダウンしてる! しかも、通信機器もノイズが多くて管制室と通信できない!! もしかして、電磁パルス攻撃!?」


管制室とも連絡が取れず、グレムリン・ファンタジアの攻撃になす術もなく二人はなんとか立ち上がるもスーツの重さに耐え切れず、2,3歩歩いては片膝をついてしまう。グレムリンたちがケタケタと彼女らを笑い、再び住民の元へ向かおうとしたその時である。遠くから、ジープが疾走してきてさらにグレムリン・ファンタジアたちをフッ飛ばしながらフレイ達を横切っていく。ハンドルを急旋回させて車を横づけしたかと思うと、車のハンドルを握っていたルイザ指令がロケットランチャーを取り出して複数のグレムリン・ファンタジアを殲滅していく。彼女がサングラスを外し、フレイ達に元に駆けつけてくる。


「二人とも、大丈夫? 遅れてごめんね!!」


「し、指令? どうしてここに!?」


「それは、ウチがここに連れて来たからっす!!」


助手席からは、金髪でポニーテールの眼鏡をかけた少女が二人の前に現れた。二人よりも幼いその容姿に、フレイは慌てふためく。


「あなた! 危ないわよ!!」


「いや、多分大丈夫。あの子が、モニカ・ハーベイル。私たちのスーツやクリーガーをメンテナンスしている天才技術士よ」


彼女は、持っていた大きな銃を持ってグレムリン・ファンタジアに対抗していく。


「ご説明どうもっす~。さて、やってやりますか! 着装!!」


掛け声とともに、モニカは左腕に着けていたフレイ達と同じヴァルキリーブレスのボタンを押した。すると、フレイ達のごつごつとしたスーツ感とは違うスタイリッシュなデザインラインの装甲と、肌の露出のない内部インナーが緑色の光ファイバーが発光する。


「これぞ! ヴァルキリースーツver.3.0! 略してV3スーツっす! じゃあ、いくっす!!」


そう言うと、サクラが万全の時くらいの高さまで飛び上がって腰にぶら下げていた小さな銃で下で荒ぶるグレムリン・ファンタジアへ攻撃していく。すると、彼らは感電したかのように体を硬直し始める。


「今っす! フレイさん! サクラさん!!」


モニカは、すぐに二人に円盤状のものを投げ入れた。その円盤は、ヴァルキリアスーツの予備バッテリーのようなものであった。サクラはすぐにそれに気づいて胸部に貼り付けた。すると、たちまちスーツのシステムが元に戻り始める。それを見ていたフレイは見様見真似で同じ場所につけてスーツを復活させた。


「あいつらを一気にまとめてトドメよ!」


「分かった!」


サクラの言葉を信じて、フレイは散り散りになろうとしていたグレムリン・ファンタジアを殴ったり蹴ったりして一つの場所へ吹き飛ばしていく。すべてのファンタジアを集めると、サクラとフレイは息を合わせるように高く飛び上がった。そして、全体重を足にかけた力強いキックで、見事全グレムリン・ファンタジアを全滅させたのであった。


「ふう......。なんとかなったわね」


胸を撫でおろすサクラだったが、その落ち着きもフレイの一言でまた空気がピリついた。


「気を緩めるのはまだ早いみたいだけど?」


フレイが顔を見上げているのを見て、サクラやルイザ指令が顔を見上げると先ほどのグレムリンたちが合体していって一つの大きなファンタジアへと変貌していた。


「こんなこと、想定外にもほどがあるんだけど?」


「まっず。モニカ、私達は先に戻ってクリーガーの緊急発進システムを!!」


ルイザが慌てているも、モニカは高らかに笑って見せた。


「はーはっはっはっ!! 大丈夫っす! こんな時もあろうかと、私達ヴァルキリー隊が緊急発進できるようリモコンを用意してきたっす! それでは......。招来せよ! インフェルノ・ブレイカー!! ポチッとな」


モニカが小さなリモコンに付けられたそれまた小さなボタンを押した。すると、地上がぐらぐらと揺れ始め、かなり遠方からクリーガーであるインフェルノブレイカーが自動操縦で目の前に立つ。そして、二人を迎えるように片膝を折って左手を地面に置いた。








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幻想戦機ヴァルキリア 小鳥ユウ2世 @kotori2you

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