2:ドイツ本部 ~相棒生活~

 フェイクドイツ本部の会議室で、フレイは突然目覚めた。彼女は、会議室のパイプ椅子に縄で手足を括りつけられて、身動きも取れないでいた。必死に縄をほどこうと、動かしていくと背後からサクラが拳銃を突きつけた。


「大人しくして。指令の質問にいくつか答えてくれたら、すぐ家に帰してあげるから」


サクラの冷たい声色に、フレイは怯えながら顔だけを彼女に向けた。


「一体何なのよ! ここはどこなの?」


「質問するのはこっちだっての......」


二人がにらみ合っていると、会議室の扉から一人の女性が入ってきた。その女性、フェイクドイツ本部指令ルイザが入室した途端、サクラは拳銃を戻して敬礼した。ルイザは気にせず袖にピンでくっついただけの白色の腕章の位置を正しながら、フレイの対面に座った。


「こんにちは、フレイ。私はFAIC本部指令のルイザっていいます。手荒な歓迎になってしまってごめんなさい。だけど君が何者なのか、それを知るまではその縄を解くことはできないの」


フレイはまじまじとルイザやフレイの背後にいたサクラを往復するように見た。自分の姿に似た何か、だが自分とは違う何かであると感覚的に察したが、なぜそう思うのかまでは自分でもわかっていなかった。

フレイはそのまま、首をひねりながら先ほどの彼女の言葉を思い出しながら口を開く。


「え、フェイク? なに? よくわからないんだけど」


「だから、質問してるのは!」


フレイのきょとんとした姿にいら立ちを覚えて、サクラはまた拳銃を構えるもルイザが手を前に出して彼女を抑えた。フレイは、その黒髪の女性ルイザの方をじっと見つめる。その様子を見たルイザは、少し照れながらもスーツの襟を正しながらフレイの質問に答えた。


「確かに、こっちの話もしないと信用してくれないか......。じゃ、簡単に説明するね。我々は突如として現れた怪物を退治する専門家だ。怪物というのは、君が戦ったスライムもどきがそう。彼らは現状、幻創生命体ファンタジアと我々は読んでいるんだけどね? サクラ、ビデオ映像を」


サクラはルイザの指示に小さくうなずき、今いる会議室にある映写機の電源とパソコンの電源をつけた。サクラは、パソコンを操作していくと映像が映り込んだ。それは、日本支部壊滅寸前の映像で謎の人型ファンタジアであるティターンもそこに映っていた。


「ファンタジアについて、分かっていることは2つ。彼らは遺伝子レベルで同じ生物であるということ。そして、彼らを裏で糸を引いている黒幕が今映っているティターンと呼ばれる人物よ。彼女は自分の私利私欲のため動いているらしいわ。正直、侵略より質が悪くて行動が読めないタイプ。私たちはそれらに対抗するために生まれた組織なの。どう? これで、私達のことはわかった?」


そう言うと、フレイはゆっくりとうなずいた。

それを見て、ルイザは優しく微笑んだ。フレイも同じようにぎこちなく笑うと、ルイザは続けて質問した。


「よし、今度は私の質問にあなたが答える番よ。あなたはどこから来たの?」


「わからない。気づいたら、ここにいたの」


フレイは少し寂しそうに答えた。そのしゅんとした姿に、ルイザは心を痛めた。


「そっか......。記憶喪失だったもんね。じゃあ、どうしてうちのロボット。クリーガーを勝手に操縦したの?」



「私が......狙われていると思って」


フレイは自信が無さそうにうつむいて話した。ルイザはそれでもきっちりと彼女の話を聞いた。そして、優しく彼女に聞いた。


「それは誰に? スライムにかい?」


すると、フレイはルイザ指令を信用したのか少し顔を上げて話した。


「はい。それで私が教会に逃げたら他の人が巻き込まれちゃうかもしれないし、立ち止まったり自分だけ他の場所に逃げるのも違うなって思い、あのロボットに乗り込みました」


ルイザはしばらくフレイを見定めるように見つめた。だんだんと近づいていき、立ち上がる。ルイザは彼女の青いメッシュの入った髪の毛を触り、その白く引き通った肌を撫でていった。一通り、満足したのかルイザは座った。


「君が嘘をついているようには見えないし、記憶喪失というのは本当だろうね。ただ、正義感があってスーツの補助なしでクリーガーを扱えるとなると、このままお帰りいただくのも宝の持ち腐れだと思わない? サクラ」


フレイをまたいで、ルイザ指令はサクラに話しかける。


「はぁ? 何言ってるんですか、指令!」


フレイはその間になおも座ってポカンとしている。

指令はサクラの反対を押し切り、再びフレイの顔を見て彼女の手を握った。


「私たちも全力であなたのおうちや、記憶を取り戻せるように努める。だから今は、一般人としてではなく、その勇敢な心で私たちに協力してほしい」


フレイに迷いはなかった。帰る当てもなく、ただ放り出されるよりかは自分の役に立てる場所にいた方が犠牲者は少ないと考えていたからだ。


「よろしく、おねがいします」


「よっしゃ! じゃあ、バディはサクラで決定ね。フレイ、彼女の部屋で暮らして頂戴ね」


「待ってください、指令! 私はバディもいりませんし、ルームメイトも必要ありません! それに、フェイクの寮くらいまだあるのでは?」


サクラは指令に近づいて反論していった。だが、ルイザ指令はフランクな調子で彼女をいなしていく。


「いいじゃない。私もちょうど実戦部隊の補充は考えてたとこだったし。あなただって、一人寂しく暮らすよりにぎやかの方が好きなんじゃない?」


「私じゃ、まだ実力不足だと言いたいんですか!」


「違うわよ。信頼してるから言ってるの。補充はヴァルキリアスーツやクリーガーの開発段階から決めてたことだし。あなたの実力は関係ない。いい? これは、命令よ」


「わかり......ました」



「じゃあ、フレイ。後は、サクラと仲良く基地を見学してて。後、明日から訓練するつもりでよろしく」


「わかった」


彼女の言葉を聞いて、苦笑いをしながらもルイザは会議室を出た。それに伴って、部屋はフレイ達二人きりでしんと静まり返った。しばらく沈黙が続いた後、サクラは少しぎこちなくフレイを縛っていた縄をほどいてくれた。


「あ、ありがとう」


「別に、私は命令に従ってるだけ。あと、私はあなたの事バディだともなんとも思ってないから」


「それで、バディって?」


「はあ、記憶喪失も大概ね......。いい? 指令はああいうけど、私は一人で十分なの! まあ、言っても無駄か。......さ、さっさと立って。着いてきて」


「どこへ?」


「もう! 早くしなさいよ! 鈍感なんだから......」


サクラは、フレイの腕を強く引っ張りながら基地を案内した。管制室や、ヴァルキリアスーツの保管庫。クリーガーのメンテナンスルーム、そして発進用カタパルト。一通り、流しで行った後サクラは更衣室で足を止めた。


「ここで待ってて。着替えるから」


「う、うん。わかった。でも、またどこに行くの?」


「家に帰んのよ! さっき指令が言ってたでしょ。シェアハウスしろって。ていうか、シェアハウスの意味わかる? 要は共同生活しろって......バディだから」


「バディならだいたいそうするの?」


「ああもう! あんたと話してると、おかしくなりそう」


そう言って、サクラはため息をつきながら更衣室に向かった。サクラが着ていた青の隊服から私服のひらひらとしたスカートとTシャツで戻ってくると、また彼女はフレイの腕を引っ張っていった。フレイはよろけながらも彼女の後をついていった。そのままドイツ本部のある教会から出て、西へ5㎞ほどバスで揺られた先にサクラの住む寮があった。


「さ、ここよ。この3階が私の家。ここはエレベーターなんて優しいもんはないから、階段であがるわよ」


「う、うん」


サクラたちは階段を上がり、3階の302とプレートのついた扉に立ち止まるとサクラはスマホを取り出してドアにかざした。すると、扉からガチャリと音がした。その後、サクラはドアノブを握って中に入った。



「ただいま~」


「ここがあなたの家?」


「そうよ。殺風景で悪かったわね」


サクラの言う通り、部屋には簡易的なキッチンと、リビングには一人用のソファとテレビ、畳敷の部屋には敷布団が敷いてあるだけで、飾り気も生活感もないものだった。


「ここに暮らしてるの?」


「たまに帰ってくるくらい。ほとんどは本部で過ごすことが多いわ。だから、ご飯もロクなもんできないから期待しないでね。まさか、ご飯がなにかなんて聞かないでしょうね」


「い、いや......」


サクラの威圧的な顔に、フレイは押し黙って床に座り込んだ。サクラは少し苛立ちながらも、記憶喪失にキッチンを荒らされるよりも自分で作った方が効率がいいと割り切って冷蔵庫にあるものを出して、適当にご飯を作り始めた。


「そうだ。ご飯準備している間、あんた机とか用意してよ。寝室に低いテーブルが立てかけてあるから。おねがいね」


フレイは立ち上がり、サクラの寝室に入って壁に立てかけてあった机を運ぼうとした。その時、フレイの目先には壁に貼り付けてあったサクラの叔父のリュウジが映った。


「この人、誰?」


「ああ、それ? 私の叔父さんよ。そんなのいいから、早く持ってきて! もうできるから」


「うん」


そう言うと、フレイは机をリビングに運び出してその足場を迷いなく組み上げた。


「はい、どうぞ」


サクラは、フレイの前に白いご飯と焼いたソーセージに目玉焼き、そしてみそ汁と言った朝ごはんのようなメニューを置いて行った。


「ありがとう」


フレイは、そんなこと気にせず嫌味も言わずに綺麗な目で礼を言ったこともあってサクラは余計に彼女を気味悪く感じていた。というより、その純粋さが内心羨ましいとも思っていた。


「あんた、机出すくらいはできるのね」


フレイもサクラも『いただきます』の掛け声もなく、最小限の会話のようなものを差し込みながらご飯を食べていく。フレイはサクラからもらったスプーンを持ちながらサクラの言葉に答える。


「これの事? まあ、なんとなく」


「......あっそ。それで、これからどうすんの?」


「どうするも、できることをするだけ。明日の訓練に備えて休息を取る。それが命令でしょ?」


「......。あんたがよくわからないわ」


サクラが首をかしげるも、フレイは気にせずにみそ汁やソーセージを口にした。一通り食べ終わり、サクラの指示を聞きながら二人で皿を洗った。そして、二人は狭い敷布団の中で目を閉じたのであった。




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