ドイツ本部編

1:ドイツ本部 ~最後の希望~

 日本支部壊滅後、ドイツ本部はファンタジア殲滅へ向けて大型クリーガー『インフェルノブレイカー』を着工。そして実戦に向けて発進された。その一方で、ファンタジアの攻撃が止まない中、空から一筋の隕石のようなものがドイツ北西部へ飛来した。そこはまさしく、インフェルノブレイカーと大型キングスライムの最前線だった。


「くっ......! 攻撃が効かない!!」


苦戦するサクラをよそに、飛来した隕石はそのまま最前線近くに落下。その衝撃に伴った激しい光で一時的にキングスライム・ファンタジアが急に大人しくなった。


『サクラはそこで待機! 調査班、あの隕石を探して! あれに何かある気がする......』


 ルイザ指令は、その一部始終を確認して原因を探るべくフェイク調査職員と軍人数名を現場へ派遣した。彼らが光の差した方向へ向かうと、道端で倒れていた女性を軍人が発見した。その軍人は彼女を揺り起こそうとするも、まったく目を覚まさない。


「起きなさい、起きなさい!!」


ようやく目が覚めたと思うと、活動を停止していたスライム・ファンタジアが彼女に気付いたかのように動き出した。目覚めた彼女は、いきなりの惨状と謎の巨大生命体を目にして、金色に輝く髪を揺らして混乱していた。軍人はパニック状態になっている彼女のそばに座り、ゆっくりと落ち着かせる。


「落ち着いてくれ。 君、ケガは?」


彼女はその青い瞳でぼんやりと、軍人のボロボロになった顔や服を眺めながらゆっくりと頷く。


「ない、けど......。なにも覚えてないの。どうして私はここに倒れてたの?」


彼女はどうやら記憶喪失のようで、彼女はすぐに自分の体を見ていた。初めて自分の体を見ているような不思議な眼差しに、軍人はさらに質問する。


「記憶喪失か? 名前は憶えてるか?」


「大丈夫。フレイ、フレイ・キールウェイ。でも、それ以外はなにも」


彼女が名前を言うと、軍人の男はホッと一息をつく。だが、状況は変わらない。ひび割れた道や家、なにかで燃えて煙が立つマンション。その光景を目の当たりにして彼女はおびえるも、フェイク職員は軍人の腕に添う彼女の背中の方にある教会を指さした。


「フレイ、よく聞くんだ。ここから走って、近くの教会へ行くんだ。そこが我々が管理する避難所になっている。なにも見ず、ただひたすらに走るんだ。いいな」



「あなたはどうするの? それに、この状況はなんなの? 大地震でも起きたの?」



「質問はなしだ。僕のことも心配しなくてもいい。だから、君はすぐに教会へ行くんだ!!」



彼の言葉と同時に、ドンという地響きが鳴った。職員はとっさに、耳に付けていた通信装置に手を当ててドイツ本部と連絡を取ろうとする。


「本部、応答願います。光の先で少女を発見! 至急避難所へ向かわせます! 本部、こちら捜査隊! 本部! ワーグナー指令!?」


フレイは職員の仕草を興味津々に見ていると、軍人が彼女の腕を抱えてもう片方の手で彼女の頭をかばいつつ、職員のを指さしていた教会へ向かう。炎は街中を赤く染めるほど燃えている。フレイと軍人は、瓦礫を避けながら遠くに見える十字架の折れた教会へと向かった。


ところが、後数メートルというところで、彼女の背後で巨大な影が動く。


 彼女は軍人の腕を振り払い、思わず足を止めて振り向いた。そこには、インフェルノブレイカーが大通りとその道に並ぶ民家を壊しながら倒れていくのが見えた。もちろん、フレイはあれが何なのか分からずに大きな鉄の塊が動いていると目の前の光景に困惑していた。


スライム・ファンタジアは、地上の人間など素知らぬフリでヘビやミミズのように這いずり、うねうねと触手を出してインフェルノブレイカーに対して威嚇しているようだった。


「なに、あれ」


地上で見上げるフレイは、その二つの存在を不思議そうに見続ける。状況が状況だと言うのに、のんきなものだと軍人は呆れ果てながら彼女の腕を引っ張る。


「くそ! いいから早く避難所へ!!」


フレイが軍人の言葉に耳を貸さずに彼らの姿に見入っていると、スライム状の生物『スライム・ファンタジア』の方が彼女の方を見つめた。見つめたと言ってもそれには眼球はないのだが、そう表現せざるをえない感覚を彼女は感じ取った。


「......狙われてる? 私が......?」


スライムの感情のない頭部にフレイが見惚れていると、キングスライムは何かに怯えているかのように彼女へ向けて触手を素早く伸ばし始めた。フレイは心配から後ろの教会に振り返って立ち止まってしまう。


「あぶない!!」


隣にいた軍人の言葉は、フレイに届くとすぐに彼女は声にならない叫びをあげた。


「!!」


 フレイは隣の軍人以上の瞬発力で、触手を回転しながら避けていった。だが、軍人は彼女を庇おうとして、瓦礫と触手の餌食となってしまう。触手は、息も絶え絶えな軍人に興味を示さずに地面をえぐりながら方向を変えていきフレイを探すそぶりを見せた。あれが教会に向かっていたらと考えるただけでフレイは鳥肌が立っていた。


「あの人、一体どうしたんだろう。......とにかく、教会から離れないと」


自分が狙われている以上、多くの人が逃げている教会へ逃げることはできないと考えたフレイは瓦礫と煙が散乱するこの街を当てもなく歩いて行った。その一方で、キングスライムの伸ばした触手は、フレイを見つけられずにまだふらふらとその先端を左右前後に振っている。


「遠くの教会を目指す? いや、土地勘もないのにどうすれば......」


 彼女が迷っていると、フレイの目に再びあの鉄の人形が映る。―瓦礫に倒れて動かなくなったあれで戦えるのか? そもそも、人間が乗っていたのか?― 不安や疑問を感じながらも彼女は、クリーガーの元へと走った。


「こうなったら、やるしかない!」


 フレイはクリーガーの足元から上り、あらゆる場所を触る。すると、レバーのようなものがクリーガーの丸い胸元の下あたりにあった。それを引っ張ってみると、その胸元がガバッと開く。中を覗くと、頭から血を出している女性サクラ・ヤマモトが座っていた。


「もしもし? もしもし!?」


フレイの声掛けに、サクラはうなるばかりで受け答えできそうになかった。しかたないと思い、フレイは自分の服を引きちぎってサクラのピンクの髪をあげて頭に巻いた。そしてフレイはサクラを抱え、そのままゆっくりと操縦席の脇にある空間にそっと置いてあげた。


「乗り込んだのはいいけど、どうすればいいのやら......」


 彼女は操作方法もわからずも、なんとなくひじ掛けの先にあったレバーを思いっきり押し倒した。すると、ゴゴゴという響きと共にモニターに映ったカメラの目線が上がっていく。クリーガーは奇跡的に立ったのだ。さらに、押し倒したレバーの横にボタンがあったので押してみるとどこからともなく、大砲のようなものが発射された。サクラが目の前のモニターを見ると、ミサイルがスライムめがけて打ち出されていくのが見えた。


「攻撃した!? あれは一体......」


ミサイルはスライムの体内に入るやいなや、冷凍庫に置いた水のように凍っていった。原理も原因もわからないが、フレイはうまくいったと内心ガッツポーズをして叫んだ。


「いけえええええ!!!」


フレイは叫びと共にあらゆるレバーを引きまくり、クリーガーの腕を振り回した。クリーガーの腕は、民家をめちゃくちゃにしながらスライムをぐちゃぐちゃにした。しばらくすると、スライムは沈黙した。


「や、やったの? 私、あのスライムを倒したのね!!」


手を広げて喜んでいると、後ろからうめき声が聞こえる。

振り向くと、元々クリーガーに乗っていた桜色の髪の女性―フェイクドイツ本部に異動していたサクラ・ヤマモト隊員―が起き始めた。


「あ、あなた! 大丈夫? 平気?」


「え、ええ。大丈夫です、指令......。あれ、誰? えええ!? なに? あんた誰よ!」


「え? 私、フレイだけど。あなたこそ何者?」


「私はサクラ。このクリーガーの......。って! ちょっと、あなたどこからきたの!?」


彼女はおもむろに拳銃を取り出した。

そうすると、フレイは不思議そうに拳銃を見つめた。

サクラは少し困惑するも、そのまま撃鉄をガチャリと起こしてフレイの額に当てた。


「離れなさい! そのまま、おとなしく手をあげなさい!!


フレイはわけもわからず、彼女の言う通りに手を挙げる。

サクラはそのまま拳銃を突きつけたまま、逆に質問しかえそうとした。


「貴方、何者? どうやって、私の......。いや、いいわ。本部で尋問する」


サクラはそのまま拳銃を握ったままフレイの首筋にドンと殴った。その衝撃に耐え切れず、フレイは意識を失った。二人はお互いが何者なのか、わからないままサクラの所属するフェイクドイツ本部へと向かっていった。



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