第14話出会いは魔術師 (10) 

ミホ②


 私は目の前に座っている青年、いや、マレットさんを見ていた。

長身で、長髪より短めで、モデルに普通になれるレベルの容姿。

しかし、いまだに敬語を使ってくるギャップがすごい。たぶん、マレットさんの方が年上だから、むず痒い。

 

 紅茶も2杯目が終わったところで、マレットさんが急に立ち上がった。

「あの~そろそろ帰らせていただきます。。」

恐れていたことが起こった。

今まで食事と紅茶を出して引き留めていたが、相手から言ってくるとは。

「あ、あの。まだ、紅茶ありますよ。」

何とか引き留めたい。

「あ、大丈夫です。」

あっさり断られた。

マレットさんは、玄関に向かって歩き出した。

「泊まる場所は決まっているんですか?」

私は必死になっていた。

少しの沈黙の後、彼が言った。

「一応決まってます。」

ど、どうすればいいんだ、私。もう少し引き留めたい。

 ふと、近所のおばさんの話を思い出した。

たしか男性は、腕を掴んで歩み寄り、上目遣いをしてある言葉を言えば引き留められるらしい。私は実行に移し、教えてもらった言葉を言った。

「デ、デザートが終わってません♡。」

ハートは込めたつもりはないが。

本当に引き留められるのか?といぶかっていたが、マレットさんが困った顔で私を見返してきた。

作戦成功か?

マレットさんが口を開いた

「たぶん、その言葉は恋人や夫婦同士で言う言葉だと思うんですけど。。」

・・・

 ・

 ・

・・・はい!?!?!?え、え、え、え、え~~~ーーーーーー。

急に顔が熱くなり、羞恥で今にも倒れそうだ。

え?、まさか『デザート』って…。エッ…いや、駄目よ私。そんな変な考え持っちゃ。

どうしよう。マレットさんの目を直視できない。

私はそのまましゃがんでしまった。

「そ、その~行くんで。今日はありがとうございました。」

マレットさんの落ち着いた声を聞いて、私はいったん平静さを取り戻した。

え!、もう行っちゃうの。こんどはそんな感情が沸き上がる。

引き留められなかった。おばさんの嘘つき!

「このお返しはいつかするので。美味しいご飯と紅茶、ありがとうございました。」

「もう少しゆっくりしていってもいいんですよ。」

ダメ押しで言ってみる。

「いえ、十分お世話になりました。ありがとうございました。」

 私ってこんなにわがままだったんだ。

今まで隠していた気持ちが一気に感情となって出て行く。

ここで帰らせてしまったら、きっと後悔する。

なぜ、そう思っているのか分からない。でも、心の奥が騒いでいる。

 しかし、パニックを起こしていた私は、自分の胸にしまい込んいた、聞いてはいけないだろうことを聞いてしまった。

「マレットさんって、ですよね?」

           ・

           ・

           ・

長い長い沈黙。

靴を履こうとしていたマレットさんは、驚いたように私を見た。

「そ、そんなわけない…でしょ。」

あきらかに動揺しているマレットさん。

「魔術師ですよね?」

もう一度聞いた。

あぁ~、言ってしまった。これだけは言わない。彼と会った時、そう決めたのに。。

マレットさんは、顔を引きつらせながら聞いてきた。

「突然、どうしてそんなことを言うんですか?」

ためらいながら私は答えた。

「私は、人と魔術師を見極める『』を持っているんです。」

 マレットさんは、ゆっくりと私の目を覗き込んだ。すると、急に全身に悪寒が走った。

逃げたいけど逃げれない。そんな感覚が私を襲った。

体全体が、金縛りにあっている。


マレットさんが何か呟いた。

その瞬間、景色が変わった。

玄関の廊下にいたはずの私は、なぜか電気の消えた台所の壁に寄りかかっていた。

首には冷たい金属のとがった感触。

前を見ると、ナイフを持って冷たい目で私を見るマレットさんがいた。

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