殺戮の魔王

 ボクとケンは次々と魔族の国を潰していった。


   最初の国は、欲張りな国だった。

   次の国は、人食いの国だった。

   3番目は、怒りに溢れた国だった。

   4番目は、怠け者の国だった。

   5番目は、いやらしい国だった。

   6番目の国は、やきもちやきの国で、皆疑っていた。

   最後の国は、威張り散らす人ばかりの国。


 どこの国も魔族が支配していた。ボクとケンはたくさん魔族を切り刻んだ。呪いもかけた。呪いのせいかボクの体の先端が、クマのぬいぐるみみたいになってきた。


   足首までが、クマの足。

   肘から先が、クマの腕。

   両方の耳が、クマの耳。

   鼻の頭が、黒いビーズ。

   髪の毛2割が、ボアのフワフワ。


 それでもボクは人間さ。心は正しい人間だ。


 ボクたちは7つ目の王国で地図を見つけた。こんな小物の王じゃない、倒すべき真の魔王のお城の地図を。


 クマのぬいぐるみの剣で魔物を切り裂きながら魔王城を目指した。「いやだ! 気持ち悪い」とケンが泣き叫ぶ。うるさい! いい加減慣れてくれよ。気絶されると切れ味が悪くなるから、どんなに喚いていても無視して剣を振り続けた。



 やっとの思いで魔王城にたどり着いた。廃墟のようなお城。蔦が絡まり放題。門の前には、ボロボロの服を着た、キレイな女性が2人立っていた。


「「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」」


 ボクたちは最上階の部屋に案内された。王座には少女の姿をした魔王が座っていた。


「ああ。敵対する気はないからそんなに殺気を出さないでくれないか。戦ったところで何も生み出さないからな。初めまして。ボクがここの代表のソーサー・シーフ・レイだ。レイとでも呼んでくれ。よろしく、勇者殿」


 思っていたのと違う! どうしたらいいんだ?


「ああ。戦いに来たんだよね。でもそれは、そっちの都合だよね。それに戦う必要がなければ平和的に解決したほうがいいと思うんだ。どうかな?」


 ボクはどうしたらいいんだろう。まさか魔王がこんな小さな女の子だと思ってもいなかったし。


「ああ。ボクの事、魔王って思っているんだよね。失敬失敬。みんな、ステータス開いて」


 まわり中から「ステータスオープン」と声が上がる。


「どうぞ。ご覧ください」


 全員種族名は「エルフ」だった。



「魔族なんてどこにもいないのさ」


 レイは言った。じゃあ魔物は?


「魔物? あれは魔力持ちの動物ってだけさ。ボクたちが操っている? ハハハ、まさか。じゃあ、人間が動物を操れるのかい? あいつら勝手に食い合いしているのに? 自由に生きている動物も魔物も操ることなんてできるわけないじゃないか」


「そういわれればそうだね」


「人間はすぐ死ぬし、都合の悪いことは忘れるし、都合よく歴史をかえるんだけどさ、ボクたちは人間から狩られていたんだよ」

「え?」


「ほら、僕ら綺麗だろ? 魔法使えるって言ってもMPが無尽蔵にあるわけじゃないじゃん。捕まって奴隷にされるんだ。欲深き人間にね。だから戦ったんだよ。そうしたらいつしか『魔族』とかよばれるようになってね。まったく勝手な話さ」


 どういうこと? 


「戦わなくていいなら戦わないさ。人間なんて役に立たないんだから。ボクらは静かに暮らせればそれでいいんだよ。この城欲しけりゃくれてやるよ。じゃあね勇者。ボクたちはもっと奥に住み家を変えるから、君はここに住むといいよ」

「なんで? ボクだってこんなとこいらないよ」


 いつの間にか大勢いたエルフはいなくなっていた。ここにはボクとレイだけが残っていた。


「あはは。だって君、魔王になってくれるんだよね。君の事は最初から見ていたよ。この地に転生した時からね」

「え?」


「不思議な魔力のうごきがあったから、魔法で監視していたんだ。すごいよ君は。罪のない人々を次々殺しまくっていくんだから。7つの国を滅ぼした魔王様。まもなく君を倒しに勇者がここに来るよ。新しく転生した勇者がね」

「勇者はボクだよ!」


「あはは。ステータス見てごらんよ。最近開いてないでしょ? 強くなりすぎてさ」


 ボクはステータスを開いた。


  名前 クマッキー

  性別 男性

  HP  1866352/2000000 (MAX)

  MP   1999920/2000000 (MAX)

  称号 元勇者 魔王 自動回復 妖刀使い


  名前 ケン

  性別 不明

  HP  1582264/2000000 (MAX)

  MP 2000000/2000000 (MAX)

  呪術 ディザイア(欲望)

  称号 妖刀 呪われし武器 自動回復 魔王専用の剣


「魔王?」

「あれだけ殺せば魔王の称号も付くさ。おまけにレベルMAXで自動回復付きか。誰にも倒せないなこりゃ。あはは。これでボクたちは魔族と言うレッテルから外れることが出来るよ。ありがとう元勇者様」


 レイがそう言うと、扉がバンッと蹴り開けられた。


「ここか魔王! 俺たちは貴様を倒しに来た。そこの女性を解放し俺と戦え!」

「えっ?」


「きゃー、勇者様。助けて―(棒)」


 レイがわざとらしく叫んだ。


「卑怯者め! 人質などと! 恥を知れ、クマのバケモノ!」


 ボクの手が、足が、顔が、いつのまにかクマのぬいぐるみ化していた。人間の体にクマの手足と顔。あはははは。確かに魔王にしか見えないね。

 レイはボクから離れ、勇者のもとに駆け寄った。


「ありがとう勇者様。私はエルフのレイです。エルフは魔王につかまっています。みんなを助けて下さい」

「そうか。心優しきエルフ殿。俺たちが種族全員助けてくれましょう」


 どういうことだよ。勝手に悪者にして。


「早く逃げなさい。ここは俺たちに任して!」

「はい!」


 そうしてレイは飛び去って行った。ボクに悪役を押し付けて。

 (これでエルフは良い種族になったわ。ありがとう)

 レイが魔法でメッセージをくれた。


「さあ死んでもらおうか魔王!」


 勇者が切りかかって来たが、全然痛くない。ボクはぬいぐるみの剣をブンと振るった。


 勇者と仲間2人が真っ二つになった。残りの3人が信じられないような目をして呆然と立っていた。


「あはははは。仕方ないよね。殺らないと殺されちゃうんだから」

「そうだね。うふふふふ。仕方ないよね」

「あはははは。そうだよね」

「仕方ないんだ。そうなんだよ」


 やっとケンがわめかないでいてくれるようになった。


「こいつ! うわあぁぁぁ—————」


 勇者の仲間の一人が切りかかってくる。残りの二人は逃げ出したのか? まあいいや。ボクは切りかかって来た女を捕らえて本能のまま犯した。


「や、やだ! やめろ! いや—————! 殺せ! 殺して—————」


 あはははは。人間なんてこんなもんだろう? ボクはぬいぐるみだったんだ。人間の事はこの世界でいっぱい学んだ。みんなこうしていたよね。これが人間なんでしょ。あはははは。


 笑いながら女を犯し続けた。



「お腹がすいたな」


 ボクは町に行って赤子をかまどで焼いた。程よく焼けた赤子はとてもおいしかった。


「あの町で食べておけばよかった」


 町の人が、遠巻きにボクを見ている。うるさいな。ビュンと剣を振って五六人殺した。


 あはははは。


「たまに食事にくるよ」


 そういって、家にあった食べ物をかっさらって城に帰った。



 最初にこの国にボクたちを転生させた女の人が、ボクたちの前に現れた。

 ボクたちのお陰で、エルフは迫害されることがなくなったそうだ。

 人々はボクを恐れて、団結し合い、自堕落な生活を捨て、一生懸命に生きるようになったんだって。よかったね。

 ケンは女の人に「早く殺してください。次の世界に行かせてください!」泣きながら頼んだみたいだけど断られていたよ。「あなたを倒す勇者があらわれるといいわね」って無茶なことを言われていた。


 あはははは。ボクが君を殺させないよ。

 ボクたちはいつまでも一緒だよ。

 あはははは。楽しいね。


「お礼に、赤ちゃんのお肉をごちそうしましょう」


 そう女の人に行ったら、「いらない」と断られた。せっかく御馳走しようと思ったのに。

 腹が立ったので、ブンッと剣を振ったら、女の人は真二つになったよ。


 あはははは


 ケンが泣き叫んでいる。楽しいね。愉快だね。さあ今日も一緒に街にいこうかケン。ケンがもっと泣き叫んだ。


 あははははははははははははははは


 ボクの姿は、すっかりクマのぬいぐるみになっていた。

 そして人々からは、殺戮の魔王と呼ばれるようになった。


          【BAD END】

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僕はぬいぐるみのクマ。異世界転生したよ。 みちのあかり @kuroneko-kanmidou

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