暴食の祝宴

 町を出て野宿をする。ボクの腰に下げているぬいぐるみのクマの剣が正気を戻した。


「ウワ―。僕は何をしたんだ! あ—————」


 まったく、うるさい! ボクはきちんと言ってやった。


「魔族を殺しただけだよ」

「あれは人間だよね!」


 どっちでもいいだろ! どうせ殺し合う人間だ!


「ほら。君の願いがかなったじゃん。スパスパ魔物を倒したかったんだろう?」


 あの白い世界でそう言っていたよね。ケン、君が望んでいたことじゃないか。


「君の願いを僕が叶えているんだ。ギャーギャー言われても困るよ」


 剣状態の先についているぬいぐるみの頭をバンバン地面に叩きつけて黙らせた。早く気絶しろよ!

 大きなうめき声が小さくなって、ケンは気を失った。躾は大変だね。



 小さな村に着いた。魔王の首と王冠を見せたら村長が出て来た。御馳走と部屋を用意してくれたので、ボクたちは久しぶりにゆっくりと眠ることが出来だ。


 やっぱり、人間の国はいいな。


 早く王に届けた方がいいと村長がボクたちに言ったので、翌日簡単な地図を貰って王国を目指すことにした。首はどんどん臭くなっていった。


 村長は食べ物を沢山くれて、「この村は、あなた達に逆らいません。必要な物は食べ物でも金貨でも女でもなんでも差しだします。なにとぞご容赦を」とボクたちに言った。食べ物とお金ははありがたいけど女ってどういう事だろう? その時、隠れていた魔物が襲い掛かってきた。ボクはケンを振り上げ、魔物を一刀両断にして見せた。ケンは相変わらず「ウギャー」と叫んでいたが、その声を聞いた村人たちは青い顔をしてボクたちを見ていた。


「ごめんね、これ妖刀なんだ。声くらい出てもしょうがないよね」


 ボクがそう言ったら、村長始め村人全員が涙目になってひれ伏した。

 なぜか、食料と金がもっと出て来た。


 「ボクにくれる予定なら最初から全部出せばいいのに」


 そう言ったら、「すみません! すみません!」と大声で謝られた。

 面倒くさくなったので、そのまま村から出て行った。





「魔王を倒して来た」


 城壁を守る兵士に首と王冠を見せた。「お待ちください」と門番が言い一人駆け出した。


「こちらでお待ちください」


 部屋に案内されてあの時の状況を説明した。兵士は青い顔をして首を受け取るとここで待っているようにと見張りを付けて出て行った。



「よくやった! 褒美を取らせよう!」


 王様はボクをほめてくれた。


「これであの国は私の物だな。すぐに兵を出して城を押さえろ。ああ、1000も出せばいいだろう」


 王様は魔族の国を人間の国にしようと頑張るみたいだ。いいことをしたなとボクは思った。


「この国は『美食の国』と呼ばれている。明日は勇者のために晩餐会を開こう。ぜひ出席してくれ」


 やっぱり人間の国はいいな。王様もまともだ。客室を用意してもらえるし、ご飯もおいしい。ボクはゆっくりとベッドで眠った。剣は壁に立てかけたよ。僕もベッドがいいって言ってたけど、一緒に寝たら危ないよね。



 次の日、ボクはお風呂に入れられた。一緒に剣も洗ってやろう。血まみれになったぬいぐるみはお湯につけるとすぐにキレイになった。不思議だけど便利だね。かわかしたら、ふわふわもこもこの、クマのぬいぐるみに戻った。


「きもちいいねえ」

「きもちいいねえ」


 ボクたちは久しぶりに楽しく笑った。人間の国はやっぱり素敵だ。

 お風呂最高! 御馳走最高!


 そういったら「僕も食べたいのに」とすねられた。


「ぬいぐるみの剣がどうやってご飯をたべるの?」


 そう言ったら黙ってしまった。



 貴族の服を着せられて、ボクはパーティーに出た。もちろんケンも一緒だよ。

 大勢の人たちと、たくさんの御馳走。

 会場の真ん中には大きな樽があった。


「あれはなんですか?」


 ボクが樽を指差して聞くと、料理を運ぶ人が教えてくれた。


「あれは、乾杯のためのワインが入っているワイン樽ですよ。まもなく皆様に配りますので、少々お待ちください」


 ふ~んと説明を聞いたら、音楽が鳴り王様が出て来た。


「今日は素晴らしい日だ。憎き隣国の王が勇者によって征伐された。さあ皆で勇者を讃えようではないか」


 音楽が流れる。ボクは女の人に手を引かれ王様のわきに連れて行かれた。

 みんなが拍手をしてくれる。ボクもケンも嬉しくなった。

 ボクたちは正しいことをしたんだ。


「さあ、勇者のために美食の国の最高の料理を用意した。まずはワインの仕上げをしよう」


 みんなが歓声を上げた。音楽が流れ、手拍子が始まると、客席の後ろの扉、ボクの正面にある扉から汚い格好をした女の人が赤ちゃんを連れて入って来た。

 王様の前まで進むと、赤ちゃんをメイドさんに渡した。


「これはお前の子か?」


 王様が聞くと、「はい」と女の人は答えた。


「やれ」


 執事さんが女の人に銀貨を渡した。嬉しそうに女の人は出て行った。


 赤ちゃんはグルグルとタオルを何重にも巻かれた。


「何をしているんですか?」

「ああ。おもらししても汚れないようにしているんだよ」


 御馳走があるから、臭わないようにしているのかな? そう思っていたら足にロープを付けられ樽の上に逆さ吊りにされた。頭が樽の中に入る。そのまま頭を切り落とされた。


 樽の中に勢いよく血が噴き出す。ワインと血が混ざるように男の人がグルグルと大きなヘラでかき回す。


「美食も最高なものを追求すると、人間の赤子になるんだよ。これほどの美味はないな。肉は柔らかく、血は少しの濁りもない。さあ、丸焼きも用意してある。心行くまで楽しんでくれ」


 王様はそう言うとワインを配るように命令した。




 なにがおきているんだ?



 みんなが乾杯をしておいしそうにワインを飲み干す。肉を食べる。貪りついいているこいつらは本当に人間なのか?


 

 始めは貧しくて食べ始めた赤子食は、いつしか美食として貴族の間に流行っていった。貧乏人は子供を売るため妊娠し、間引きするように貴族に売った。美食に取りつかれた国では、当たり前の光景だったが、クマとケンには異常な光景にしか見えなかった。


「こいつら、魔族なんじゃない?」

「そうかも」


 ボクは王様の首を刎ねた。そのまま逃げ惑う貴族を次々に刺した。

 ケンが「ディザイア」と呪文を唱えた。ケンがはじめて自分で唱えた呪術は、ボクが唱えた時より何倍も強く効力を発した。


 刺されていない大勢の貴族やメイドや音楽家たちが、次々と倒れている王様や貴族の体をかじる。


「生け作りだ」

「新鮮だ」

「おいしい」


 ありつけない貴族たちは会場を出て、次々に町の人たちを襲った。訳が分からない町の人たちは、最初はやられっぱなしだったが、次第に包丁やシャベルや金づちなど身近な刃物や工具を武器に、貴族と戦った。


 ボクたちもどんどん切り倒していったよ。


「あはははは。魔族を倒すよ」

「うん。頑張ろうね」


 町は血だらけになった。

 ぼくは魔族の王、魔王の首と王冠を持って町を出て行った。


 どうやらここも魔族の町だったみたいだ。

 一体、どこに行ったら人間の王国があるんだろうね。


 血だらけになったぬいぐるみの剣のケンは、疲れたのか眠っていた。

 

 

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