欲望の王宮

 ぬいぐるみの剣を振り回し、出てくる魔物を倒しながら歩いていたら城壁に突き当たった。ケンはギャーギャーうるさかったが、「人に聞かれたらどんな目にあうか分からないぞ」と言ったら黙った。まったく。最初から黙ればいいのに。


 門を通ろうとしたら、門番に止められた。身分証も金もないやつは入れないそうだ。仕方がなく休んでいると、「魔物だ! 狼の群れが来るぞ!」と叫ぶような声が聞こえた。


 ドドドドドと地響きが聞こえたかと思うと、50頭ほどの狼の大群が門に向かってやってきた。門番が門を開けようとしたが、中からカギが掛けられていた。


「助けてくれ! 入れてくれ—————」


 ドンドンと叩きながら叫ぶが締め出されたようだ。


 ボクはクマのぬいぐるみの剣になったケンを構え、狼と戦った。


「ギャー」と言う声と共に門番2人が狼にかじり殺されている。


「ウギャー。止めて! 気持ち悪い!」

 相変わらずケンがうるさい。


 呪われた剣が触れると、狼は真っ二つになる。

 呪われた剣が掠ると、気がおかしくなるのか仲間同士戦い始めた。


 見る見るうちに絶命する狼。ギャーギャーうるさいケン。


最後に残った気の狂った狼を真二つに斬ると、ケンは気を失ったのかやっと静かになった。



 一時間もたったころ、ようやく門が開いた。兵士がぼくに声をかけた。


「この惨状は……。お前がやったのか?」

「ああ。他に誰がいる?」

「身分証は?」

「この戦いで無くした」


 ボクは嘘を付いた。兵士は訝しがったが、「来い」とボクを門の中に来るように言った。



 報奨金をもらい、冒険者登録をしたボクは、金を稼ぐために魔物を狩り続けた。

 この町は治安が悪い。人々は貧しく重税に苦しんでいた。盗み、騙しは当たり前。みんな死んだような目をしていた。

 ボクはすぐにランクが上がった。人々を苦しめる魔物を簡単に狩り続けていたから。もしやと思ったギルド長が魔法使いを呼んでボクを鑑定した。


  名前 クマッキー

  性別 男性

  HP  6724/6800

  MP   5200/5200

  称号 勇者 妖刀使い


 ギルド長は歓喜した。ボクの事を希望だと褒めてくれた。そしてこの町中に、ボクが勇者だということはすぐに広まった。

 そして僕は王様に呼ばれた。



 お城はキラキラしていた。きれいに着飾った人々がボクの着ている服を見て目をそらした。「汚らしい」「平民が」そんな声も聞こえた。


「武器の持ち込みは禁止です」


 ボクが持っている剣を見て兵士が言った。ボクは「ぬいぐるみですよ」と剣を見せた。

 兵士は笑った。「子供にはお似合いだな」そういってそのまま通してくれた。



 王様の前に連れて行かれ、頭を押さえつけられた。王様は「お前が勇者か。儂のために魔王を退治するんだ」と言ってお金をくれた。


 20000ゴールド。日本円にして20000円。信じられなくて王様の顔を見た。


「なんだ、足りないと申すか。これだから平民は」


 ボクは王様や取り巻きの着ている服を見て思った。ああ、こいつらが魔物だ。こいつらがいなくなれば町中の人たちが救われるんだろう。


「なんだその目は。早く出て言って魔王を退治するんだ。成功したら50000ゴールドを渡そう」


 ボクは立ち上がり、ボクの頭を押さえつけた従者の首をねた。


  「うわぁ——————————、人殺し—————」


 しーんと静まり返った大広間に、ケンの叫びだけが響いた。


「反逆者を捕らえろ!」


 われに返った騎士団長が声を限りに叫ぶ。向かってくる兵を剣で切り裂く。


  「やめて—————、殺さないで—————」


 ケンが叫ぶが仕方ないんだ。殺らなければ殺られる。正当防衛だ。


  「うわぁ—————、嫌だ—————、気持ち悪いぃぃぃ!」


 剣がブルブル震え出した。聞いたことのない声で「妖刀の呪われし力が解放されました」とナレーションが流れた。


 「ステータスオープン」



名前 ケン

  性別 不明

  HP  228041/240000

  MP 1000/1000

  呪術 ディザイア(欲望)

  称号 妖刀 呪われし武器



 呪術と言う項目が出来ていた。分からないけどディザイア欲望の呪いと叫んでみた。


 剣から妖しげな香水のような匂いがホール一面に流れ出した。

 香りを嗅いだ者たちの目がトロンと沈んだ。


「羨ましい」

「憎らしい」

「俺によこせ」

「お前を引きずり下ろす」


 隠していた本心があらわになる。誰もが下を蔑み、上を羨み、あわよくば成り上がろう、引きずり降ろそうとしていた。その欲望が解放された。


 貴族は王に群がり、服を掴み、引っかき、殴り、蹴り、指を折り、腕を折り、目に指を突き刺し、髪を引き抜き、ありとあらゆる痛みを与え続けた。


「お前さえいなければ」

「お前の御機嫌取りなどしたくねーんだ」

「無茶な命令ばかり言いやがって」


 喚き泣き叫び命乞いをする余裕もなくなりながらいたぶられ続ける王様。そんな貴族たちを剣で切り裂き突き刺す兵士達。


「いいようにこき使いやがって」

「お前らばかりいい目にあって」

「俺の部下を前線送りにしたのはお前か!」


 王を助けるでもなく、憎しみで剣を振るう。死んだ貴族が身に着けている宝石や金を取り合う女性たち。取った取らないで本気の奪い合いが始まる。

 その女性に使用人達が群がる。ドレスを引きちぎり犯そうとする。



 その姿を見て、ボクは「やっぱりここにいたのは魔物だったんだ」と納得した。



 ケンは、「人を刺した。人を殺した」と喚いていたが、「あれは魔物だよ。人のためになったんだよ」と言いつづけた。だんだんケンも、そう思えるようになったのか、少しづつ落ち着いてくれた。


「ふふふふふ、あれは魔物だよね。マモノ・・マモノ・・・」


 ケンは楽しそうに笑うようになった。そうだよ、あれは魔物だよ。


 ボクは、魔物の王様、「魔王」の首をぬいぐるみの剣で切り取った。

 隣に落ちていた冠を頭にかぶり、魔王の髪を掴んで外に出た。




 ボクが頭を見せると、「おおー」と歓声が上った。


「魔王は討ち取ったよ! 魔王城には、財宝が眠っているよ! みんなで仲良く分けてね」


 ボクがそう告げると、そこに集まった人々は一斉に魔王城に走っていった。中では奪い合いと殺し合いが始まった。


「な〜んだ。城の中だけじゃなく、この町の人全部が魔族だったのか」


 ボクとケンは、町にいる魔族を全部切り刻んだ。


「あはははは。魔族が死んでゆくよケン」

「うふふふふ。いい気分だね〜クマ」

「あはははは。クマは君だろう」

「うふふふふ〜」

「あはははは〜」


 切りながら二人で笑った。

 人の役に立つのって、なんて素敵なんだろうね。


「ディザイア!」


 妖刀のマジックポイントが無くなるまで呪術を放った。


 まあ、そんなことしなくても所詮魔族だ。勝手に殺し合いを始めるんだろう?


 ケンはMPの使いすぎかぐったりとしているけど、たぶん大丈夫だろう。


 僕達は魔物の町を去り、新しい人間の町を目指した。

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