第8話 ドロップアイテム、そして……

 結局俺は拾った剣を装備して、モンスターと戦っていた。多少錆びているとは言え、その攻撃力は申し分なく。そのへんの雑魚敵なら一撃で仕留められるほどの力があった。そこで一匹のスライムを倒した後……消滅する前にそいつは、何枚か葉っぱのようなものを落として。


「何か落としたぞ?」


「序盤のドロップアイテムと言えば薬草だね!」


「薬草か……」


 呟きながら俺は近づき、一枚それを拾い上げてみた。そして彩花に向かって、その葉っぱを差し出してみて……。


「食べてみる?」


「いらないいらない!! 私、ほうれん草とか小松菜とか食べれないから!」


 そう言って彩花は拒絶するように、ブンブンと両手を振るのだった。


「……じゃあお前、回復出来ねぇじゃねぇか」


「私には回復魔法があるから! 食べなくて大丈夫なの!」


「そういやそうだったな……」


『レイちゃんかわいい』

『ルイ、食え』

『お前が食うんだ』

『毒見しろ』

『食レポ配信来るー!?』


 コメントは俺が食べるところを期待しているらしい……今更だけど、ゲームのキャラってよく平気でドロップアイテム使えるよな。モンスターが持っていた物なんだから、絶対汚いし。実際、この薬草らしきアイテムもちょっと汚れてるしな……。


 水魔法でも使えれば洗うんだけど、それも出来なさそうだしな……はぁ。俺はため息を吐きながら、薬草に付いていた土をパッパッっと手で払って。


「分かったよ……俺が食ってみるって」


 そう言って俺はそれを口に含むのだった。含んだ瞬間、苦味を感じたが……我慢して咀嚼していくと、次第に身体が暖かくなるような気がして……!


「どう?」


「…………うん。苦いし、土の味もするけど……若干。ほんっとに少しだけ、身体が楽になった気がする」


「『めちゃくちゃ回復した! 元気になった!』みたいな感じは無いんだ」


「まぁ……」


『マジでただの葉っぱの可能性があって雷』

『プラシーボ効果ってやつ?』

『まぁケガしてないしな』

『HPが見えないの不便やね』


 確かにステータスが見えないと、回復した実感も無いよな……いずれ見れるようになったりするのだろうか? そして彩花は、残りの落ちていた薬草を拾い上げて。


「ま、類は両手塞がってるみたいだし、残りの薬草は私が持っておくよ!」


「ああ、助かる……でもお前使う気無いなら、持つ意味無くねぇか?」


「大丈夫! いざという時は、類の口にぶっこんであげるからさ!」


「…………そん時は優しくしろよ?」


『えっ』

『えっど』

『えっど』

『エッッッッッッ!???』

『お前がぶち込まれる側なのか……(困惑)』

『まーたイチャついてるよコイツら』


 ──


「だいぶ進んできたな……」


 第二層は第一層よりも広いらしく、2、30分歩いても次のフロアに続く階段は見つけられなかった。それで大きな荷物を背負ってる彩花は少し疲れが溜まったのか、壁に寄りかかって。


「そうだね……ね、さっきもここ通らなかった?」


「そうだっけ?」


『通ってたぞ』

『迷ってないか?』

『来た道にパンくずを落としておくのだ!』

『ヘンゼルもいます』

『モンスター湧かないように松明ちゃんと置いてけよ?』

『スティーブも見てます』


 確かにこれから先、もっとダンジョンが複雑になっていくのなら、迷わないよう対策を考えておく必要があるかもな……まぁ俺はもう行く気無いけど。


「ナビ系のスキルでもあれば良いんだけどねー。類、サンダーの他に魔法使えるようになったりしてない?」


「いや、全然……レイは?」


「私もこの回復だけだよ……ふっ!」


 そして彩花は緑のオーブを生成し、手首のスナップを使って俺に投げてきた。


「……あ、玉飛ばすの早くなったよ!」


「意味あるのかそれ?」


「あるよ! 回復の速度も早くなるし…………」


「……どうした?」


 急に彩花が固まってしまったので、俺も足を止めた。見ると彩花は耳をすます格好を取っていて……。


「……ね、類。なんか羽音が聞こえない?」


「羽音? ズバキーのものか?」


「いや、それよりももっと大きい気がするよ!」


 ズバキーよりも大きい……? ちょっと想像が出来ないな。そして何より……。


「……なんかすげぇ嫌な予感がするんだけど」


「でも行ってないのはあっちだけだし。ちょっと覗くだけ覗いてみない?」


「……」


『見たいね』

『行こう!』

『剣もあるし行けるっしょ』

『妖精が飛んでるかもしれないぞ』


「まぁ、やばかったら逃げれば良いからさ!」


 コメントも含め、みんな乗り気らしい。俺はあまり進みたくなかったのだが……この先に階段がある可能性だってあるし。彩花の言う通り、勝てなそうだったら逃げれば良いか……そう思った俺はこう口にしていて。


「確かにそうだな。見るだけなら危険じゃないかもしれない」


「よし、行こ!」


 決心した俺らは、その羽音のする方に足を進めていった。そしたらどんどんと羽音は大きくなってって。そして曲がり角に差し掛かった所で…………俺らはとんでもない光景を目の当たりにしたんだ。


「なっ……!?」「あ……あが……!?」


 超巨大な緑色のカブトムシみたいなモンスターが、縦横無尽に飛び回っていたのだ。体長はパッと見3、4メートルはあって、大きな触角に鋭い牙が付いているのがこの場からでも見て取れた……身の危険を感じた俺は、すぐさま振り返って。


「や、やべぇってアレ……!!? 早く逃げるぞ!!」


 来た道へと引き返そうとした。一歩後ろから撮影していた彩花は、俺よりも先に逃げれたはずだが……道の途中で止まっていて。


「……ね、類!? 出れないんだけど!」


「はぁあっ!? お前、何を言って……!!?」


 何を馬鹿なことを言ってるんだと、そのまま俺は手を引いて進もうとした……が。


「痛っ!」「痛あッ!」


 壁にぶつかった感覚がして、俺らは倒れ込んでしまった。急いで立ち上がって前を見るけれど、そこには壁なんて無くて……。


「ど、どうなってんだこれ……!?」


「透明な壁があるんだってば!! ここから逃げれなくなってるんだってば!!」


『……マジ?』

『ヤバいやばいやばい』

『これってまさか』

『ボス戦か!?』

『逃げれないの!?』


 ……デカすぎるボスっぽいモンスター、マップ端のエリア、そして突然現れた透明な壁……ここから導き出される答えは、一つしかなくて。


「強制ロック……ってことか!?」

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