第7話 宝箱だよ!
そのまま第二層を進んで行くと、俺らは行き止まりにぶつかった。だがそこには一つ、赤色に装飾された箱が置かれていて……。
「わっ、宝箱だよ!」
「マジで訳が分からないな……」
まだモンスターとかは、突然変異的なアレで誕生してしまった生物とか、色々と考えようがあるけれど……宝箱が置かれているのは、もう誰かが作為的に設置したとしか考えようが無いんだって。やはりダンジョンは、誰かが作ったものなのか……?
……いや、こんな巨大な迷宮、人間が作れるはずがない。しかもダンジョンはここだけでなく、全国、全世界に突如出没したんだぞ? こんなの、俺らの常識が通じる訳が無い……つまり考えるだけ無意味だってことだ。
『宝箱!?』
『マジでゲームみたいで雷』
『開けようぜ!』
『店で買った武器が宝箱から出てきたらショックだよな』
『分かる』
そんなRPGあるあるネタに、彩花は軽く笑って。
「あははっ! ……ね、もしかしてダンジョンって、神様がふざけて作ったのかもね?」
「それを完全に否定出来ないって所が恐ろしいよな……」
そして彩花は宝箱に近づいて、しゃがんでみせた。そのまま俺の方を振り返って。
「とりあえず開けてみよっか!」
「いやでも……罠だって可能性もあるだろ?」
「ミミックってこと?」
「ああ」
ミミックとは宝箱に擬態する系のモンスターのことである。ミミックは色々なゲームに登場するから、知名度は結構ある方だとは思うよ。まぁ……こいつのことはみんな嫌いだろうけど。
『ミミックは心臓に悪いからな』
『ミミカスがよ……』
『鑑定出来るスキルみたいなのがあれば良いんだけどな?』
『レイちゃん、飲み込まれないように気をつけて!』
飲み込まれるって……縁起でもない。でもマジでこれがミミックなら、人一人ぐらいはすっぽり入りそうな大きさしてるよな。想像しただけでビビってしまうよ……だが、彩花はそんな恐怖など見せず、宝箱をベタベタと触って。
「多分大丈夫だよ! そういう騙す系の罠は、だいたい慣れてきた中盤辺りで出てくると思うから!」
「め、メタぁ……」
どうやら彩花はもう完全にゲームの世界だと思い込んでるらしい。でもゲームみたいに命は無限じゃないんだから、もう少し警戒心は持って欲しいんだがな……。
「開けるよ!」
そして彩花は俺の有無も聞かず、宝箱を開いた。そこに入っていたのは……銀色の剣であった。でも剣と呼ぶには若干短くて……ちょっと錆びてて。皆が想像するような伝説の剣とかでは無かったんだ。俺は宝箱を覗き込んで、言葉を発す。
「これは……剣だな」
「おおー、一気に勇者っぽくなるね!」
「でも俺ら魔道士だしなぁ」
自称だけど。
「まぁ持ってみようか……」
そう言って俺は、宝箱に入ってた剣を手に取った。意外にそれは見た目より重量があって、ずっと構えていると疲れそうになるが……それでもゴルフクラブよりかは、頼りがいのある武器だろうな。俺は牙突の構えを取ってみた……。
「おお! 様になってるね!」
「まぁ……男ってのはみんな傘を剣に見立てて、散々イメトレしてるからな」
『雨の日の学校帰りの小学生か?』
『巻き込むな』
『でもみんなやるよね?』
『ガトチュ☆エロスタイム!』
『ノーコメもありや……』
そんな俺を見てか、彩花も両手を差し出してきて。
「ねね、私も持ってみたい!」
「ああ、いいぞ」
そのまま俺は彩花に剣を手渡した。そしたら彩花は一気に手を震わせ……。
「おっ……重っ!!?」
そう言って、数秒だけ剣を持った後、彩花は地面にそれを投げ捨ててしまったんだ。俺は訝しげな顔で尋ねる……。
「え、そんなに?」
「そんなに!! よく類持てたね!?」
「……」
俺はしゃがんで、彩花が投げ捨てたその剣を拾い上げるが……別に持てない程の重さは感じられなかった。そのまま剣を肩に担いで、俺は言う。
「いや、大げさだなぁ。ちょっとは重いけど、そんな震えるほどじゃないって」
「……ホント? マジ?」
「うんマジ。いくら女子だからって、そこまでか弱いアピールしなくても……」
「いや!! 私そんなことしないってば!! めっちゃ重いから!!」
そして奪い取るように彩花は俺が持っていた剣をひったくって、持ち上げようとした……が、また重さに耐えきれず剣を落とした。更にリベンジしようと、またその剣を拾い上げようとする……が。
「ふーーーーーーん!!!」
「……」
もうそれはびくともしていなかった。横から割り込んだ俺が持ち上げると、彩花は絶望したような声を上げて……。
「ば、バカにゃ…………」
「……もう一回聞くけど、わざとじゃないんだよね?」
「うん!! 私本気でやってるから!!!」
「うーん……」
どうやらマジらしい。俺は少し考えてみるが……納得出来るような答えは思いつかなかった。持つ人によって重量が変わる剣なんて存在するのだろうか? まぁダンジョン内ならあり得ないとは言い切れないけど……と、考えたまま顔を上げると、彩花は何か思いついたような表情をしていて。
「あっ、もしかしてさ……装備出来る人が限られてるってことじゃない?」
「えっ?」
「ほら、ドラクエでもあるじゃん! エッチな下着は着ようと思えば誰でも着れるのに、女性キャラしか着れない……あれと一緒だよ!」
「…………いや頑張っても着れないって。サンチョが装備してたら嫌だろ」
『雷』
『雷』
『雷』
『雷』
『雷』
『もう完全に草使ってるやついなくて雷』
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