第5話 レイちゃんがぁ! 画面端ィっ!

 ────前回のあらすじ。手からサンダーが出た。


「凄い……凄いよ、類! 本当に魔法使いになったんだね!」


 彩花の驚きは収まって……俺が魔法を放ったことを受け入れたらしく、目を輝かせながら俺の手を掴んできた。だが当然、俺はまだ受け入れられるはずもなくて……。


「い、いやいや……そんな訳が……」


『ある』

『あるんだな、これが』

『それがありえるかも』

『じゃあ俺らが見たのは何だったんだ?』

『ダンジョンだし魔法くらいあるだろ』

『もう一回見せて!!』


「あり得ないって……」


 半笑いで俺は言うが、いつの間にかコメントも魔法の存在を認めているムードになっていた。もちろん魔法を放った張本人の俺が一番信じなきゃいけないんだけど、やっぱり魔法の存在が信じられなくて。それでもまだ手の痺れは残っていて……。


「うーん、じゃあもしかしてだけど、ダンジョンにはレベルの概念があるんじゃない? 類がスライムを倒して、レベルアップしたから魔法が使えるようになった……って考えたら結構納得しない?」


「……」


 レベルね……そんなのゲームでしか聞いたことのない設定、にわかには信じがたいが……確かに俺が魔法を使えるようになったのは、スライムを倒してからだし。その考えはあながち間違えじゃないのかもしれない……他の仮説も出て来ない以上、ひとまずそれを信じるしか無いようだ。


 そうやって何とか自分を納得させた俺は、彩花にこう話をして。


「……じゃあ。アレやってみる?」


「アレって?」


 俺は手を開くジェスチャーを見せる。そしたら俺の言いたいことは伝わったようで……二人目を見合わせて、一緒に言葉を発した。


「「……せーの、ステータスオープン!」」


『…………』

『?』

『何してるの?』

『たのしそう』


 ……だが何も起こらなかった。予定では、俺らのステータス画面一覧が表示されるはずだったんだが……。


「……出ないね?」


「流石にそこまで都合よく出来てないっぽいな……」


 まぁ何も起こらなくて、少し安心している自分がいるのも確かなんだけど……とにかく本当にレベルという概念が存在するのなら、それをハッキリさせなきゃならない。そう思った俺は、彩花にこんな提案をしてみたんだ。


「……とりあえずレイも戦ってみるか? お前もレベルアップしたら、何か技が出せるかもしれないし」


「いいね、やるやる! じゃあ撮影は任せたよ!」


「ああ、分かった」


 そしてスマホを渡してもらい、彩花も仮面を被ってカメラの前に立った。仮面の状態とは言え、VTuberのレイが生身で出てくるのは恐らく初めてのことである。


「じゃあ私も参戦するからよろしく! 素顔見えても絶対切り抜かないでよ!」


『かわいい』

『大丈夫かな……?』

『いざとなったらルイを盾にしろよ』

『レイちゃんちっちゃいww』

『この姿も黒魔術で見せてるんでしょ?』


「そ、そう! この姿も黒魔術で乗っ取ってるやつだから! 私じゃないからね!?」


「レイ、正面にスライムがいたぞ」


 言いながら俺はゴルフクラブを投げ渡す。彩花は慌てながらもそれを受け取って。


「わっ、うん! 行くよ!」


 スライムの方へと駆け出していったんだ。俺は背後からついていき、その様子を撮影していった。そこでは彩花が、慣れたようにスライムをクラブでぶん殴っていて。


「いっけぇー! てやぁー! そこっ、そこだっ!」


「なんで格ゲーみたいなコンボしてんだお前……」


「ねぇ! 下段めっちゃ入るよ!」


「スライムにそういう概念無いから」


『草』

『草』

『草』

『草』


 そして彩花はスライムを吹っ飛ばし、壁に叩きつけた。見た彩花は、すかさず追い打ちをかけて。


「近づいてぇ……レイちゃんがぁ、画面端ィ!」


「それ言いたいだけだろお前」


 そしてレイの攻撃によりスライムも絶命したようで、さっきと同じようにその場から消滅したんだ。彩花は振り返って、笑顔で言う。


「やった! 倒したよ!」


「ナイス」


『おめでとう!』

『やるね~』

『強くて草』

『ルイより強いんじゃない?』

『ルイ、もう帰っていいぞ』


 コメントからの煽りなんかより、俺には気になることが……。


「さて……どうだ? 何か身体に変化はあるか?」


「いや、特に何とも……んっ!?」


「どうした」


「でっ…………出そう!」


『え』

『あ』

『エッ!!!!!??』

『エッッッッッッ!!???』

『レイちゃんのはガチで使えるからまずい』

『保存した』


 倒した場所に近づいた途端、彩花も俺と同じように力が湧き上がってきたらしい。やっぱりレベルがあることは、ほぼ確定か……。


「……って、なんでこっち向けてくんだ!?」


 彩花を見ると、震えながらこっちに手を向けていた。つまり俺に向かって魔法を放とうとしているのは明らかで……。


「い、いや! これはなんか類に向けなきゃいけない気がするの!」


「何だそれ!? それで火とか出てきたら、マジで洒落にならないぞ!?」


「良いから受け止めて!!」


「ちょ、止めろ……!!」


 俺は慌てて自分を守るポーズを取る。そして彩花の手から何か光が溢れて……!


「…………? 何だこの緑の塊は……」


 おそるおそる目を開けると……彩花の手からは何か緑色の丸いオーブ? のようなものが放たれていた。そしてそれは空中にプカプカとゆったり浮いていて……。


「……ね、こんな○ケモンいたよね?」


「いや知らんけど……」


「ちょっと触れてみてよ?」


「い、いや……怖いから嫌だ」


『草』

『ビビるな』

『逃げるんすか?』

『レイの愛、受け止めろ』


 いくら彩花から放たれた魔法とは言え、こんな謎の物体に触れるなんて……恐怖でしか無いんだけど……。


「お願い! ちょっとだけでいいから!」


「…………はぁ。分かったよ」


 この状況、断れそうにもないし。やるしかないようだ。


「行くぞ……」


 そして俺は勇気を持って、その物体に触れたのだった……。


「……どう?」


「うん……なんか……若干身体が軽くなった気がする」


「じゃあこれ、回復魔法ってこと?」


「多分……でもなんかパッとしないな」


「……類みたいにド派手な魔法じゃなくてゴメンね?」


「……もしかして怒ってる?」


『草』

『喧嘩しないで』

『黒魔術師じゃなかったの?』

『ヒーラーだと!?』

『僧侶枠だったか』

『俺もレイちゃんに治療してもらいてぇなぁ……』

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