第34話  肉肉肉肉の宴

「な、なあ聖女さん! 本当に1人で大丈夫なのか!?」

「問題ありません、むしろ好都合です」


 鉱夫さんたちの宿舎を飛び出した私は前を走る1人の鉱夫、アンドレさんの後を追います。

 二日酔いのマウさんはユインシアさんに預けました。

 手伝ってくれるのはとても嬉しくありがたいのですが、休ませてあげましょう。

 1人の方が今は動きやすいという事ももちろんあります。


「それに貴方も姐さん、ユインシアさんを危険に晒すのは本意ではないでしょう?」

「聖女さんあんた、良い人だなぁ……」

「ええ、聖女ですから」

「くそう! 教会の司祭もあんたみたいならリリィも……」


 そういえば、彼はまだあの偽教会と司祭の事を知らないんでしたね。

 口外するかどうかの判断はユインシアさんに任せ……あれ?


「あの、リリィ……さん、とは?」

「俺の彼女だよ! ある日、教会に消えちまったんだ!」


 走りながら怒るアンドレさん。

 ユインシアさんが言っていた弟分が彼で、恋人さんがリリィさんでしょうか。


「俺にはもったいねぇぐらいに良い女だったのに、どうしてリリィだけ……!」


 悔しそうに顔を歪めるアンドレさんですが、彼の言葉に気になる点がありました。


「あの、リリィさん……とはどういうことでしょうか?」

「他の行方不明になった連中は全員鉱夫なんだ! なのにリリィだけが……」


 初耳でした。

 それと同時に、この街に訪れた時の事を思い出したのです。

 ゴロツキの街と聞いていたのに出歩いている方は女性が多かった事を。


「その話を詳しく――」

「着いた! 聖女さん、あそこ……だ?」


 私の言葉を遮ったアンドレさんの言葉と、足が止まりました。

 それにつられて私も足を止め前方を、見てしまいました。



「止めろぉ! くんじゃねぇ!」

「ヘッヘッヘッヘッヘッヘッ!!」

「うぎゃあああっ! たす、助けてぇっ!?」

「うへへへへ! うへ! うへへへへへへへへへっ!!」

「親父! 待て! 俺だ! 何の冗談だこれ!?」

「お前が、お前がいけないんだ! お前がっ! 死んだ母さんに似てるからお前ガッ!!」


 地獄絵図、でしょうか。

 逃げ惑う若い鉱夫さんたち。

 それを追う、明らかに正気を失っている中年の鉱夫さんたち。

 捕まった若い鉱夫さんは組み伏され、その身体を中年の鉱夫さんが弄んでいました。


 髪、顔、目、鼻、口、首、肩、腕、肘、手、胸、腹、腰、股、尻、腿、膝、足。


 それはもう、全てを。


「――あの、アンドレさん。殴りこみ、と、聞いたのですが」

「あ、あぁ……何だよこれっ!?」


 どうやらこの酒池肉林、いえ……肉肉肉肉鉱夫さんたちの宴はアンドレさんが助けを呼びに来た後の出来事の様です。

 ええ、まあ、はい。

 こういうの、私は寛容しますけど。

 ルーチェでも司祭のお爺様たち同士の中に何人かいました。

 見習いのシスターさんたちも特別仲が良い方々もいたり、やたら慕ってくれる方もいましたので。ちょっとボディタッチが多かった気もしますけど。


 うわ、あの鉱夫さんなんて3人掛かりで――。


「おんな?」

「オンナ?」

「女?」

「オンナァ!」

「アンドレェ!」


 見つかりました。

 見つかってしまいました。

 アンドレさんが叫んだせいで一斉に、正気を失った鉱夫さんが此方を見ました。

 しかもなんだか言語が、知性が、獣に堕ちきっています。

 さっきまで喋れていた方も、単語しか発していません。

 あと、隣にいるアンドレさんを狙う方もいました。

 何故?


「アンドレさん、離れてください」

「え、でも聖女さんあんた!?」

「安心してください」


 腰のベルトにかけた二振りのメイスを持ち、構えます。


「殺しはしません」


 上半身裸が基本の鉱夫さんたち。ですが襲い掛かってくるのは秘部を曝け出したり全裸だったりと様々。

 醜い、とても醜い。

 知性を失う事は人として最大の禁忌。

 神に祈る心を、失うのですから。


「潰します」


 この場に、マウさんとユインシアさんを連れてこなくて本当に良かったです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る