第30話 攫い浚い(さらいさらい)
ワタシこと、モルテラ・デスサイスは何処かもわからない建物の中に閉じ込められていました。
最初は雨風しのげて暖かく、定期的に美味しいご飯も食べれて快適でしたがそれだけです。外に出られないのでとても暇。
しかも定期的にこの建物が揺れる程の爆発音が聞こえてきて、とても気が休まる環境ではありませんでした。
「師匠! わたしは今日、運命の出会いをしたっす!!」
「へぇ」
ワタシを攫ったサキュバスことルドヴィ。
そろそろお腹が空いたなぁと思っていた所に大慌てで戻ってきたかと思えば、突然大はしゃぎ。意味がわかりません。
ピンク色の瞳が輝き、大きな蝙蝠の翼がパタパタと動き、先端がハートマークみたいな黒い尻尾をブンブンと振っています。
見た目だけで言うのなら妖艶で誰もが振り向く蠱惑的な女性なのですが、今の彼女はどっからどう見ても大型犬にしか見えません。
そういえば人間界に追放されてから、まだ本物の犬を見た事が無いんですよね。
天界に送られてくる人間の魂と共にいた犬の魂なら見た事があるのですが。
「あの麗しいお方こそ、わたしの運命の相手っす……! そう、これは運命っす!」
「へぇ」
運命としか言葉を知らないのでしょうか。
何があったかは知りませんけど、こんなに執心というか熱中をしている姿を見るとやっぱりどこかシャリーネに似ているなと思います。
ワタシの話を聞かない所とか、おっぱいが大きい所とか。
くぅ。
「ああ、やっぱりこの街を根城にして正解だったっす! 何故か居心地が良いんすよねこの街!」
「へぇ」
そういえば、外に出れなくて暇していた時にある変化がありました。
ワタシのおへその下に光る、あの
『998784』が『998776』へと。
これはつまり、シャリーネがまだ生きているという事に間違いありません。
ルドヴィに攫われたワタシを救おうとして崖から落ちたあのトンデモ聖女がまだ生きていたのです。いえ、まあ、信じてましたけど、はい。
シャリーネが死ぬところなんて想像出来ないんですよね。
例え死んでも蘇ってきそうです。怖い。
「ああ、感動っす……ハッ!? こうしちゃいられないっすよ師匠!」
さて。
このワタシを師匠とか、クソビッチ神とか呼んでくる勘違いサキュバスをどうしたものでしょうか。
力で勝てないのは実証済みです。
ローブを剥ぎ取られ、ワタシのお腹に光る数字をじっくりと見られました。
ワタシでは彼女に勝てません。
やっぱりこういう所もシャリーネに似てますよね。
主に悪い所が、特に。
「あのお方に似合う立派な淫魔になる為に、やるっすよ師匠!」
「はぁ……え?」
腕を掴まれました。
既視感、嫌な予感。
「今からこの街の男を引っ掛けるっす! ナンパっすよナンパ!!」
「なんでぇっ!?」
久しぶりに飛び出すお外は星の光が綺麗でした。
支離滅裂と言うか理解不能、サキュバスはいったい何を考えているのでしょうか。
そしてその行動にワタシは必要なのでしょうか。
助けてくださいシャリーネ、早く。
ルドヴィがワタシに直接何か害を加えるとかは無いのですが、一緒にいてとても疲れるし頭が痛くなります。
悪い子、では無いと思いますけど。
「さあ師匠! そのクソビッチテクを教えてくださいっす! クソビッチ師匠!!」
訂正、最悪でした。
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