第22話  クソビッチ神

 ワタシの前に並ぶのは温かい豪華な料理の数々でした。

 ふかふかの絨毯、柔らかい椅子、壁と屋根があるちゃんとした家。


「ささ、師匠! 好きなだけ食べてくださいっす!」


 神って、良いですよね。

 不肖ながらこのモルテラ・デスサイス、人間界に追放されてから初めてそう思いました。

 振り返ってみても、シャリーネに出会った事意外はロクな事が何一つありません。


「そんな、サキュバスの施しなんて……もぐもぐもぐ」


 美味しい!


「お気に召してくれたようで何よりっす!」

「ふ、ふん……この程度でアナタがシャリーネにした狼藉を許した訳ではありませんよ」

「あの人間、勝手に追いかけてきて勝手に落ちていっただけっすけど」

「……もぐもぐもぐもぐ」


 そう言われると何も返す言葉が無いワタシでした。

 助けてもらう側のワタシからしてもあの時のシャリーネはとても怖かったので。

 味がしっかりついたお肉をお口いっぱいに詰め込みます。

 美味しい。


「はぁ……やっぱり神はこっちの口でもよく食べるんすねぇ」


 さて、そろそろこれ、どういう状況なのか美味しいお肉と一緒に考えなければいけない気がしました。

 まず目の前にいるのがワタシを攫ったサキュバス。

 腹立つぐらいスタイルの良い身体に露出の凄い黒革拘束衣ボンデージで、ピンク色の髪と瞳を持った、黒くて太い2本角のサキュバス。

 確か名前は、る、ると……。


「さあ師匠、そろそろこのわたしを、ルドヴィ・マリストラを弟子にする気になったっすか!?」


 なんとも良いタイミングで名乗ってくれました。

 るどう゛ぃ。

 ルドヴィですね、はいはい。

 許可してないのにずっと師匠って呼んでるのはつっこんだ方が良いんですかね。

 余計面倒になりそうなので聞かないでいっか。


「師匠! 私は感動したっすよ!」

「もぐもぐ」


 シャリーネとはまた違った元気さを感じます。


「あの時の師匠を見た時、わたしに衝撃が走ったっす!」

「もぐもぐもぐ」


 どうしてサキュバスなのにこんなにワタシを慕ってくれるのか謎ですけど、お腹を満たすまでは聞かないでおきましょう。


「あれはまさしく神っす! よっ! 神師匠!!」

「もぐもぐもぐもぐ」


 ま、まあ?

 神と呼ばれて悪い気はしませんが?

 だって神ですし?

 もっと呼んでも良いんですよ?


「いやあ、師匠のようなクソビッチ神が人間界こっちにいたとは驚きっす!!」

「ぶふぉおあっ!?」

「うわぁ! 大丈夫っすか師匠!?」


 な、え……は?

 今、何て言いました?

 クソビ……え?


「あ、あの……今、何て?」

「え? 師匠に会えて驚いたって」

「ワタシをなんて呼びましたか!?」

「クソビッチ神っす!」

「はあああああああああんっ!?」


 クソ、クソビ、クソビッチ?

 え?

 不敬?


「そんなに喜んでくれるなんて……嬉しいっす!」

「ど! こ! が! で! す! か!」


 シャリーネ! 助けてください!

 このサキュバス、アナタと同じで話が通じないんですけど!


「そう、あれは数日前の出来事っす……」


 勝手に語りだしました!


「あれはまだルーチェ領の、滅んだ村の近くあった湖での事っす……」


 滅んだ村って、ゴーストが入れ食いだったあの村の事でしょうか。

 湖で、何かありましたっけ?


「わたしは見たっす!」


 ルドヴィは勢いよく立ち上がりました。


「師匠のお腹で光るあの数字を!」

「……お腹?」


 お腹をさすります。

 美味しいお肉でお腹はいっぱい。

 数字は、十中八九あの死神長につけられた数字でしょう。

 ワタシが天界に戻る為に送らなければいけない魂の――。


「莫大な数の男を食ってきた淫らな証、そう淫紋ならぬ淫数をっ!!」


 ――そうそう、淫数……は?


「はぁっ!?」


 何を勘違いしてるんですかこのサキュバスは!?


「もう一度見せてくださいっす!」


 ぐいっと近寄ってきました。


「嫌です! それに淫数とかいうふざけたものではありませんよお!!」

「またまたぁ、ご謙遜を! 大丈夫、恥ずかしがる事じゃないっすよ! 師匠」


 手を伸ばしてきました。


「誰が師匠ですかぁ!!」


 ワタシはそれを阻止します。


「一目見て確信したっす! クソビッチ神の師匠についていけばわたしも立派なサキュバスになれるって!!」

「不敬! 不敬! 不敬! 不敬! 不敬! 不敬! 不敬! 不敬! 不敬!」


 助けてくださいシャリーネ!

 ひょっとしたらアナタより話が通じないかもしれません!!

 あと力がとても強いです!!

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