第21話  少女2人

「シャリーネちゃんの身体、やわらかぁい」

「あの、あまり……その、変な所を触らないでください」

「いいじゃん、友達なんだから」


 友達とは?

 狭いベッドの上、薄いシーツの中。

 裸で寝る私たち。

 マウさんが私に足を絡め、抱きついてきています。

 その手が私の肌を這うように蠢き、少し、いえ、かなりくすぐったいです。


「柔らかいし、温かいし、良い匂い。へへ、ボクが男だったら襲っちゃうね」

「もう襲われているようなものですけど」

「いいじゃん。ボク、盗賊だよ?」


 友達とは?

 首筋にかかる息がくすぐったくて。

 そういうマウさんからも、甘い匂いがして。


「友達って、こんな事までするんですね」

「いや、しないけど」


 友達とは?


「ボクがシャリーネちゃんを好きだからしてるんだよ」

「好かれる理由ありました?」

「そりゃあ、山のように。あ、シャリーネちゃんのお胸のように」

「流石に気持ち悪いです」

「えへへぇ」


 私の胸に顔を埋めてきました。


「マウさんは、ずっとここにいるのですか?」

「まあ、それなりには」

「何故ですか?」

「……世界を、知りたかったから」

「ここが何処かわかりませんが、国境付近なら山奥の気がしますけど」

「……そういうシャリーネちゃんは?」


 私の胸から顔を出し、マウさんが見上げてきます。

 言いたくないのでしょうか、少し声が弱弱しく感じました。


「私は、追放された身ですので」

「追放!? 聖女なのに!?」

「うるさっ」


 グイッと、マウさんの顔が近づきました。

 そのくりっとした黄金色の瞳が、高い鼻が、吐く息が、触れ合う距離まで。


「神託に従い、お父様に大鎌を振り下ろしたら追放させられてしまいまして」

「……ほぇ?」

「私にもっと力があれば、あの時確実にお父様の魂を天に……」

「待って待って!」


 マウさんに止められてしまいました。

 ここからモルテラ様と運命の再会を果たす、奇跡の始まりだというのに。


「お父様って……ルーチェの大司祭の事だよね!?」

「はい」

「それよりも、自分の親に刃を向けたの!?」

「はい」

「何で!?」

「神のお告げがありましたから」

「聖女こわぁ……ウケる」


 ボスンとベッドが揺れ、隣にマウさんが寝転びました。

 まだ身体を上手く動かせない私は、ベッドの上で暴れる彼女を見る事しかできません。


「……良いなぁ、シャリーネちゃん」

「良い、とは?」

「ボクも……それぐらい勇気があればな、って」

「……お聞きしても?」

「うーん、やだ」

「そうですか」

「聞かないの?」

「無理には聞きません。話したい時、近くに私がいれば聞きますから」

「……シャリーネちゃん、すきぃ!」


 また抱きつかれました。

 ベッドの中のマウさんはとても人懐っこくて、まるで妹が出来たみたいです。

 聖女の末席で、一番年下だった私。

 少しだけ、新鮮で、嬉しく感じます。


 年下と言えば、モルテラ様は大丈夫でしょうか?

 とても心配です。

 今すぐにでも助けに行きたいのですが、今の私は無力。

 どうか、今晩だけは傷を癒す事に専念する私をお許しください。

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