第23話  救い(事後)

 よく晴れた、快晴の空。

 山を登るごとに緑の木々は減っていき、岩肌と土の色が増えるにつれて蒸し暑さも消え涼しくなっていきました。


「シャリーネちゃん昨日は死にかけだったのに、もうそんなに動けるんだ!」


 新緑色の髪をサッとかいたマウさんが私に拍手を送ります。

 左側だけ伸びた特徴的なケープマントと盗賊衣装はこの山道だって何の区も無く進めるでしょう。


「凄いねぇ、癒しの奇跡って」


 そう思うのは私の手足に纏ったガンドレッドと鉄靴サバトンが原因でした。

 流石に山登りをするとは思ってもいなかったので。


「よろしいのですか? お手伝いしていただいて」

「いーのいーの! えっと、今朝言ってた……もる、もる」

「モルテラ様です」

「そうそう、モルテラちゃんを探すんでしょ? せっかく友達になれたんだから、見つかるまでは手伝うよ。もっとシャリーネちゃんと一緒にいたいし」


 中性的なその笑いは、マウさんが一瞬だけ男性に見えてしまう程に爽やかなものでした。

 濃艶のショートパンツから伸びる長い足、その長身。

 着る衣服によっては女性だと気づかないかもしれません。


「ありがとうございます。このご恩は必ず返しますので」

「そんな畏まらないでよ」

「ですが……」

「だってさぁ」


 マウさんは鼻で笑いながら私の足元を指差しました。


「そんな死屍累々のど真ん中で言われても怖いだけだって。聖女なのに凄い光景なんだもん、ウケる」


 忘れていました。

 足元に転がっている計8人の筋骨粒々な男性たちの死体。

 彼らはここらを縄張りにしていた山賊らしく、有無を言わさず襲ってきたので救わせていただきました。


「ルーチェの聖女が強いって噂、本当だったんだね」

「マウさんこそ」


 マウさんの背後にも6人の男性が永遠に眠っています。

 その全てが等しく首を斬られていました。


「やっぱり山賊は品が無いよね、ヤダヤダ」

「盗賊と違うのですか?」

「違うよ! ボクは誇りを持って盗賊やってるんだ! こんなあぶれ者とは違う!」

「失礼いたしました」

「そこは盗賊じゃなくて皇女でしょって返してよ!」


 昨日からの付き合いではありますが、たまにマウさんが面倒くさく感じます。

 ですので話題を変えましょう。


「この方たち、賊にしては身形が良いように感じますが」


 森で会った4人の賊と違って、ここにいる全員がそれなりの服と武具を持っていました。

 それに身体つきもしっかりしていて、食には困っていなさそうです。

 あ、腰袋に沢山のドラギルト銀貨が入っていました。

 頂戴いたします。


「十中八九、鉱夫くずれだろうね」

「鉱夫、ですか?」

「うん。夕暮れまでには着くと思うよ。ドラギルトの端にある鉱山街ロスレーに」

「ロスレー……? 聞いた事ありませんね」

「まあ、山奥で力しか能が無い奴等しかいないゴロツキの街だから知らなくても問題ないよ」


 マウさんは笑いますが、それではいけないのです。

 そんな危険な街にモルテラ様がいる可能性があるのですから!


「先を急ぎましょう! こうしている間にモルテラ様に何かあってはいけません!」

「良いけど、本当にこっちであってるの? この先は道幅も狭くなる一本道だから進むしかないよ?」

「ご安心を。モルテラ様がこっちにいると、遣いである私ならわかるのです! なんとなくですがっ!! もっと私にモルテラ様を想う力があれば……!」

「へー、聖女って凄いんだねー」

「モルテラ様が凄いんですよ! お話しましょうか?」

「ボクはシャリーネちゃんの話が聞きたいなぁ」


 私の話など聞いても面白くないんですけどね。

 他愛の無い話をしながら足早に私たちは山道を進み、鉱山街ロスレーへと向かいました。

 待っていてください、モルテラ様!

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