第18話  迫り来る聖女と逃げ飛ぶ淫魔

「うわああああああああああああああああああああああっっっっ!?」

「ふぇ……?」


 声。凄くうるさい声。聞いた事の無い、女の子の声。

 叫んでる。

 揺れてる。

 あれ、ワタシ……?


「きゃあああああああああああああああああああああああっっっっ!!」

「……だれぇっ!?」

「なんすかあのひとおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!」

「ここどこぉっ!?」


 森でした。

 ここ最近ずっと森です。

 天界を追放され人間にさせられたワタシことモルテラ・デスサイスは現在進行形で移動中でした。

 全身を縛られているみたいで動けません!

 誰かに担がれているみたいですけど見えません!

 凄く揺れて気持ち悪いです!

 うえっ!


「モルテラさまあああああああああああああああああああああっっっ!!!!!」

「その声は! シャリー……ひぃっ!?」


 担がれたワタシの見る景色が勝手に流れていきます。

 寝起き一発、意味不明な状況の中で唯一ワタシが知りえる声が聞こえてきました。

 森って、木々が縦横無尽に生えていて、ジグザグに避けないと進めませんよね。


 頭のぶっとんだ聖女シャリーネが鈍器で木々を薙ぎ倒しながら一直線に近づいてきていました。

 こわいっ!


「アッ、魔氷の飛礫雨アイシード・レイン!」

「うひゃあっ!?」


 景色がグルン。

 え、今のってもしや。


「不敬者めええええええええええええええええええええええええっっっ!!!!!」

「まほうわあああああああああああああああああっっっっ!!??」


 もう一度グルン!

 景色がグルグルしたかと思えば、シャリーネがになっていました。

 その傷のいたるところには氷の塊が刺さっているっていうかめり込んでいて、今の詠唱が魔法によるものだと確信したのは良いんですけど、それよりもその状態で追ってきているシャリーネはいったい何なんですか!?

 普通に怖いんですけど!


「ていうか何でワタシこんな事になってるんですか!?」

「なんなんすか本当にいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっっ!!」

「アナタが何なんですかさっきからぁっ!?」

「――主よ癒しよ聖女わたしは此処に祈りを想いにいいいいいいいいいっっっっ!!!!」

「光ったあああああああああああああああああああああっっっっ!!!???」


 光りました。

 シャリーネがまた光りました。

 聖女の癒しの力と死神の加護による奇跡って言ってました。

 天使長クソ上司もワタシの追放理由に加護を与えたとか何とか言っていた気がします。

 だけどワタシ、加護を与えた覚えが無いんですよね。

 こわっ。


「ちょっとぉ!? 何で人間が銀色に光ってるんすかあああああああああっっ!?」

「ワタシが知りたいですよ! で! アナタは誰なんですかぁ!!」

「モルテラ様ああああああああああああああああああああああっっっっ!!」


 爆発的に加速したシャリーネが一気に近づき、手を、いや鈍器をワタシに伸ばしてきます。こわぁっ!?

 全身縛られているのでなすすべもなく目の前に鈍器がやってきて――。


「……えっ?」


 ――離れました。


 暗かった視界が開けて。

 見えたのは断崖絶壁。

 真下に広がる広大な森。

 そして、落ちていくシャリーネ。


「モルテラ様あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」

「落ちたあああああああああああああああああっっ!!??」

「流石に光る人間でも飛べないっすよねぇ……」


 その声にハッとします。

 落ちていったのはシャリーネだけ。

 ワタシは、飛んでいました。いえ、ワタシを担いでる女の子が飛んでいました。

 蝙蝠のような大きな羽が、顔のスレスレをバサバサと上下に動いています。


「ア、アナタ誰なんですか!? ワタシをどうする気ですか!? シャリーネを早く助けにいかないと!!」

「ふっふーん、駄目っすよぉ?」

「うひゃぁっ!?」


 そこでワタシの身体が持ち上げられ、その女の子の前へ。


 艶のあるピンク色の髪と瞳、頭に生えた黒く太い二本角、それにプルプルの唇。

 シャリーネよりも大きな胸とスラっとしたくびれはとても扇情的で、正に男を惑わす身体。露出の多い黒革のボンデージでその肉体のラインを強調させています。

 大きな蝙蝠の翼と、先端がハートマークのような黒い尻尾。

 さっきまでは意味わからない状況で気づきませんでしたが、彼女の近くにいると甘い匂いでクラクラします。

 これだけ情報があれば、天界以外の情報にあまり興味ないワタシでも彼女が何者なのかを理解できました。


「アナタ、淫魔サキュバスですか!?」

「ご名答っす! わたしはルドヴィ! ルドヴィ・マリストラ! よろっす!」

「なぁにがよろですか! ワタシをどうする気ですか不敬者! ワタシは神ですよ! かーみー!!」

「やはり神っすよね、あなたは……!」

「あ……」


 しまった、自分から名乗ってしまいました。

 言っちゃ駄目だった気がします。

 いったいサキュバスがなんの目的でワタシを……。


「わたしを、弟子入りさせてほしいっす!!」

「はぁ……はぁっ!?」


 なんでぇ!?

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