第2章  盗賊とサキュバス

第17話  縛り・水浴び・未来・今

 モルテラ様が縛られています。


「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」


 モルテラ様が、縛られています!


「むううううううううううううううううううううっ!!!」


 モルテラ様が! 縛られていますっ!!


「むぐうううううううううううううううううううううううううううっっ!!!!」


 全身を縛られたそのお姿も美術品のように思えます!

 芸術です!

 美術館を建てましょう!


「むぐぐぐぐぅ、ぶはぁっ!? 見てないで助けてください! 早く!!」

「……はっ!」


 そうでした今は時間との勝負なのです。

 そもそも何故このような事になったのかというと、それは少し遡ります。

 始まりはある晴れた日の朝でした――。



 ◆



 水面に映る金色の髪、銀色の瞳は今日もつり目。

 右目を覆うように頬まで伸びた火傷のような浅黒い痕。

 それは怨嗟の渦に飛び込んだ事による呪い。

 

 追放された聖女である私の身に刻まれた、大切な主との初めての共同作業。

 その証であり、いわば聖印なのです。


「ふぅ……」


 朝の陽射しが、抜けるそよ風が、私の肌を優しく撫でました。

 

 大聖国ルーチェにいる時は、まさかこうして外で裸になり水浴びをするとは思わなかったです。


 下着で大聖堂を歩くだけで怒られていましたから。


 開放感と悪い事をしている背徳感。

 後でモルテラ様に懺悔いたしましょう。


「身体には無いんですよね……」


 私は濡れた自分の肉体を眺めます。

 呪いの痕は私の顔にしかありませんでした。

 もっと全身に刻まれていればこうして何かに映った私を見なくても、いつでも好きな時に確認できたのに。

 腕とか、かっこいいと思うんですよね。


「残念です」


 湖畔に上がり、置いていたボロ布で身体を拭きます。

 ネフィルの村跡で、私シャリーネ・ルーチェが敬愛する神モルテラ・デスサイス様と永遠の誓いを交わしてからはや5日。

 

 未だに森の中を抜け出せません。


「そろそろ衣服も洗いたいのですけど……」


 ルーチェを出た時から変わらないレースの下着と修道服を着ました。

 鬱蒼とした森の木々を掻い潜る日々、汚れよりも所々の擦り切れが気になります。

 

 流石に汗を流すだけならまだしも、衣服が乾くまでの長時間を全裸もしくは下着姿でいるのはまだ抵抗がありました。


「……おや」

『プキィッ!?』


 前を横切った森兎フォレストラビット

 左腰のベルトに巻かれた一本ムチを打ち付けました。

 直撃。


「これでモルテラ様も喜んでくださいます」


 動かなくなった森兎フォレストラビットの首を掴みながら森を進みます。

 この数日でわかった事は、モルテラ様はお肉が好きだと言う事。

 もしかしたら死神にも育ち盛りがあるのかもしれません。

 少し歩いた先にある大樹の下、私がお慕いするモルテラ様が身を丸くしてお眠りになっています。

 

 その可愛らしい寝顔が、今日という1日を最高のものにする活力になるのです。


「モルテラ様、ただいま戻りま――」

 

 ショックで手から落ちる森兎フォレストラビット


「モルテラ様!?」


 モルテラ様が、いなくなっていました。

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