第15話



「先程は庄屋の源蔵が来ましたね…」


ふみは俯向き加減で話し出す…。


「おらは源蔵の家で飯を貰い、小枝で叩かれ、掃除、洗濯、水汲みと朝から夜まで働きました…歳は数えで十一でした…」


ふみは源蔵の家での事実を淡々と話し、康次は黙って聞いている…。


毎日毎夜の折檻と酔った源蔵に犯された、話も隠さず皆話す…。


庄屋の家を逃げだして、その後、死にかけて、山寺のお坊様に助けられたが、そのお坊様に糸紡ぎの奉公先へ売られて行った…。


そこでも、皆に虐められ、御主人様に犯された…。


それも、これも、おらが禁忌の子じゃからと、我慢をしたが、覚えが無いのに、奥方様に盗っ人呼ばわりされ折檻…三日三晩責られて、挙句の果てに追い出され、やっとの思いでここへ着いた…。


そこで、康次が口を開く…。


「何でお前はそれ程までに虐げられる?」


「きっとそれは、おらに架した罰でしょう…」


「先程、庄屋の源蔵が、話していた兄妹は、おらのおっとう、おっかあで、実の兄妹でおらを産んだ…」


聞いた康次は蒼ざめた…。


「それではお前は私の姪っ子、血の繋がった私の姪…」


「そんなおなごを惚れたのか…愛しのふみと通じていたのか…」


康次は静かに立ち上がり、ふらりふらりと表に出て行く…。


ふみは慌てて後を追い、康次の背中にすがり付く…。


「お前さん、康次さん…」


康次は振り向きふみを見る…。


「お前さん、何で夜更けに外へ出なさる…出ていかならぬはおらの方…」


康次を家まで引き戻し、ふみは康次にこう話す…。


「お前さんは、何も知らずに、おらを抱いた…それなら、禁忌は赦されよう…罰を受けるはおらの方、おらは元々禁忌の子…」


康次は涙で聞いている…。


「康次さんが出て行くならば、なぜにおらを捨ててはくれぬ、おらに出てゆけと命じてくれぬ…」


「お前を抱いたこの私、あの日お前に約束したよ、お前を離すその時は、私があの世へ行く時と、ならば禁忌を犯したこの私、ひとりで先にあの世へ行こう…」


「なぜにお前さんだけがあの世へ旅立つ?罰を受けるは、おらひとり…お前さんは、生きててくんろ、死ぬのはおらだ、おらひとり…おらを殺してくれまいか…」


「何を言う?愛しいお前を死なせるものか、お前の罪罰あるならば、全部代わりに引き受けて、閻魔様に届けよう…」


「忌み嫌いの子、禁忌の子はおらのことだで、お前さん…罪無い亭主を死なせはさせぬ、死ぬのはおらじゃ、おらが死ぬ…」


「なぁふみよ…知らぬとは言え、血繋がりの禁忌を破るは我らふたり、どうせ死ぬならふたりで死のう…禁忌を犯したお前と私、きっと天には行けないだろう、共に堕ちて地獄へ行こう…」


「はいな判った康次さん、それ程までに言うのなら、とうに覚悟は出来ています。ふたりしっかり手を取り合って、地獄の底まで旅立ちましょう…」


この時、ふみの腹には小さな命が宿っていたとは、康次もふみも知らなかった…。

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