第 話 オカルト

 丑三つ時。一見して占いの露店であるその店は、普通の占いが開店している当たり前の時間帯に、普通に過ごしていたら出会えるような易者えきしゃが座っているらしかった。あなたが出歩いたのは胸騒ぎからだった。


「あらあなたよく来れたわね? ここは普通の人しか見つけられないはずなのだけど」


 あなたは夜久舞宵の姿を想像する。

 あなたの想像した姿の夜久舞宵がそこにいた。

 あなたは叫んだ。お前は小説のキャラクターのはずだろう。


「私は夜久舞宵。職業は……今風にいっても占い師かしら」


 夜久がそう言って自己紹介する。歳は未成年にも見えなくない。場と釣り合ってなくて、あなたは違和感が増してくる。


「ここに座って、占いをする?」


 あなたは思わず頷いてしまう。


「そう、長居したいかもしれないものね」


 夜久が訳知り顔で微笑む。


「なんたってあなたはそう、希望をご所望みたいだから、今すぐ座って占いたくなるかもしれないものね」


 あなたは驚いた。まだ、何も話していないのに、それを聞いた夜久が言う。


「なんで知っているか? ですってなんででしょうね」


 静寂が包む。そういえば繁華街のはずなのに人通りがない。


「いいわ、あなたのその願い叶えてあげる」


 夜久が空いていた椅子を指さした。あなたは振り返って周りを見る。


「でももう引き返せないわ。夢ならあなたの頬をつねって目を醒ませば、お日様の輝く日常に戻れるはずよ」


 あなたは動こうともしなかった。


「何どうしても未来をみたいんだって? あなたみたいな用心深さ、私は好きよ。でもあなたはきっと進む」


 夜久は机の上でシャッフルしていたカードをまとめる。女性の手では持ちにくそうな大きさだ。表紙は黒と青のチェック柄だった。


「あなたには今日これを見せるわ。タロット。魔術的要素が詰まったライダー版タロット」


 大事そうに夜久がカードをなでる。


「見せる前にこのタロットとの出会いを語るわね。これはそう、人生の岐路をさ迷っていた時に手に入れたの。あるところにはあるものよ。それがこんなかたちで役に立つなんて。これが縁というものかしらね?」


 あなたはそんなことはいい。早く占いたいと思う。それが伝わったのか夜久が言葉を告げる。


「さて、じゃあケルト十字法の最終結果を見せるわよ。覚悟はいい?」


 あなたは最終結果に所詮占いかと思う。


「……よ。なに? 知ってるって? コールドリーディング? 当たるも八卦当たらぬも八卦?」


 不気味に夜久は口角を歪ませる。


「でもあなたは質問者を開いていない? そうよね?」


 夜久がカードを開く、この位置質問者の立場を示したものなの。剣の2の逆位置ね、と夜久がカードを解説する。

「このカードが今、あなたの立場を示したってこと教えてあげるわ」


 一息入れて夜久が語る。


「剣の2の逆位置の意味はウソ、不信、裏切り、サギ、度。可笑しい。だってあなた全く信じていないもの。このカードはこう言っているのよ、あなた全く信じていないでしょう、と。つまりこれは本当の占い結果じゃないのよ。いい? 不思議になった? 分からない?」


 脇目も振らずまっすぐに見た夜久があなたに話す。


「あらあら可笑しい。私と同じね。私もこの結果が出たあと、真剣に質問を変えて、念じて8回占ったわ。そのうち7回は大アルカナの13の死神の正位置か剣の9の逆位置が質問者の位置か最終結果に出たわ。あの時の私には死を連想するには十分だった。占った質問の中で唯一死を連想しない結果がでた行動をとったわ。結果的に……私はまだ生きている」


 どう? あなたは不思議に思ったかしら。


「化け物を見たような眼で見ないでくれるかしら。あらあら可笑しい。化け物はお互い様よ。オカルトは確かにあるのよ」


 そんなオカルトあるはずないとあなたは思う。


「眼に見えない世界はあるのよ。例えば紫外線」


 屁理屈だとあなたは思った。


「あなたは眼に見えるものだけで生きていたのかしら」


 夜久がカードをシャッフルしスプレットを立てる。


「あなたは間違っていないわ。進みなさい」


 ふふふと夜久が笑う声がする。あなたは夜久の声を背にその場を離れた。振り返ると夜久舞が、最終結果の位置をめくるところだった。


 あなたはどこでもいい。ここではない場所に行きたかった。

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