幕間 訪問者

 あなたはその日普段より少し早く目が醒めた。

 アラームを切り朝食の準備をする。

 昨晩は少し冷えた。身震いして採光窓から朝靄が立ちこめる外を見た。朝食を食べようと手に持つとチャイムの音が鳴る。こんな時間にどんな非常識な奴だとあなたは思う。訪問者は男2人だった。


「こんな朝方にすみません」


 申し訳なさそうな言い方をしているが形だけだとあなたは思う。


「実は捜査に協力して頂きたく、近くの警察署までご同行願えませんか」


 あなたは本当に警察官か尋ねる。


 男は警察手帳をさっと広げ、こちらに確認させることなく畳んでしまうと「ご迷惑になるといけないので」と言った。


 あなたは何のことか身に覚えがないが、ついて行くことにする。食卓にはひとかじりした朝食が残されていた。


 無機質な白を基調とした部屋に、唯一のドアは半開きにしてある。部屋へ向かう途中の刑事課の重っ苦しい雰囲気にあなたは来たことを後悔した。


 男が1人女性と入れ替わった。


「ああ、そんなにかしこまらないで、君にほんの少し協力して貰いたいだけだからね」

「そうそうそんなに心配しないで、私たちも大きなことにしたくなくて」

「だから人がいない朝方に訪ねたんだ。僕たちはある人物のてがかりを探していてね」


 刑事と思われる2人があなたの一挙手一投足に注目する。


「夜久舞宵」


 あなたは反応してはいけない気がした。


「君はこの名前知っているかな」

「なんでもいいから知ってることでも思い出したことでも話してくれない。もちろんこれはただのお願い」


 あなたは答えてはいけない気がした。

 刑事がこちらの反応を窺う。


「私たちもあまり手荒なことにはしたくないって分かって欲しい」


 あなたは任意だろうと問いただす。


「そうだね。僕らは何の強制力もないよ。まだ今はね」


 あなたは沈黙権を行使する。


 男の刑事はため息をついて、女の刑事に促すとあなたは帰りを案内された。


 去り際、女の刑事があなただけに聞こえる声で伝える。


「何か思い出したら、すぐに連絡を下さいね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る