第18話 生徒会も忙しい

side北条粋



 放課後、生徒会室にメンバーが全員揃うのを待ちながら聖夜祭の資料に目を通しているとスマホが鳴りました。PINEを開くと、3人のグループPINE<北極星>に聖夜くんからのメッセージが届いていました。



『生徒会、頑張ってください。ボクたちは教室で勉強しています』



 そのあとに届いた武蔵くんと聖夜くんのツーショット。聖夜くんは可愛いです。武蔵くんが上に掲げたカメラに向かって上目遣いになってるのとか、本当に可愛くてたまりません。


 ですが武蔵くんが問題です。見せつけるかのように聖夜くんの肩を組んでるところとか、ドヤ顔とか。イライラして仕事に熱が入ります。


 自分がこんなに嫉妬深いとは思いませんでした。小さくため息を吐くとスマホの画面を切って机に置きました。



「北条くん、お疲れ様です」


「ああ、庄司さん。お疲れ様」



 隣の席に座った庄司さんは机の上に先輩から引き継いだ資料と今年聖夜祭実行委員会から提出された資料を並べました。


 庄司さんは城殿高校生徒会の副会長を務めていて、成績優秀かつマネージング能力に長けています。僕とは違って、能力を買われて副会長に就任した紛れもない実力者です。



「この間のテスト、ギリギリ赤点はなかったみたいですけど、もう少し成績が上がると良いですね。生徒会長としての自覚を持っていただきたい」


「う、すみません。でも、次は大丈夫なはずだよ。最近は放課後に学校で課題だったり予習だったり、やっているんだから」



 いつもだったら庄司さんの鋭い視線に何も言い返せなくなってしまいますが、最近は聖夜くんと武蔵くんと一緒に勉強しています。そのおかげか少しだけ自信がついたみたいです。



「まあまあ庄司。その辺にしなよ。クッキー食べる?」



 海外メーカーらしきクッキー缶片手に、クッキーをポリポリ食べながら現れた書記の小林くん。食いしん坊だった記憶はないですが、こうして巷では見ないようなお菓子を食べている姿をよく見かけます。



「今日のクッキーも懸賞で当てたやつ?」


「うん、今日は『週刊お茶の子彩々』の懸賞で当てたんすよ」



 この世には色々な雑誌が存在するらしいです。小林くんは懸賞好きで、懸賞の情報を集めるためにアニメ研究会と新聞部、文芸部に在籍している猛者です。スマホアプリにも懸賞機能があるものがあるらしく、そういうアプリでポイントを貯めて懸賞の応募もしているのだとか。



「こんにちわぁ。え、それ、『Licht』のクッキーじゃん!」


「え、不破、これ知ってるの?」



 風紀委員長の不破さんが生徒会室に入ってきた瞬間に小林くんが持っていたクッキーに食いつきました。小林くんが自分の持っていた缶を少し掲げながら聞くと、不破さんはありえない、とでも言いたげに首を振りました。



「これ、最近アイスタでめちゃくちゃ話題なの! 海外のモデルさんたち御用達のお店で、空いた缶に小物とか入れて飾るのが流行ってるの」


「……空き缶いる?」


「いいの!? コバシありがと!」


「痛い痛い」



 不破さんは小林くんの肩をバッシバッシと叩きます。そのタイミングで僕と同じクラスのレオと海琉くん、ユウが三者三様のリアクションを取りながら生徒会室に入ってきました。



「うわあぉ」



 オーバーリアクションをするライトブラウンの髪色と琥珀色の瞳が特徴的なレオ。聖夜祭実行委員長を務める彼が今日の主な議題を呈することになっています。



「んははっ、元気だねぇ」



 大きな口を開けて大声で笑った海琉くんは会計副局長を務めていて、いつも元気いっぱいです。



「敬太くん、大丈夫?」



 菩薩のような笑みを浮かべながら小林くんに近づいてその肩を擦るユウは、保健委員長を務めています。仕事のときは普段の穏やかさからは想像がつかないほど厳しく手洗いの指導をしてくれますから、当然周囲からの信頼も厚くなります。


 彼ら3人が入ってきたことで生徒会役員メンバー15人が全員揃いました。



「さて、席についてください」



 声を掛けると、立っていた人たちも静かに席についてくれます。隣に座る庄司さんと視線を合わせて、13人のメンバーをぐるりと見回しました。



「今日の会議を始めます。今日の議題は12月25日に予定されている聖夜祭に向けた委員会編成と計画、準備についてです。聖夜祭実行委員長、お願いします」


「はい」



 僕の対面の位置にいたレオが立ち上がるとライトブラウンの髪がふわりと揺れました。普段の武蔵くんの茶髪よりは明るい色ですが、武蔵くんの髪に光が当たったときと比べると武蔵くんの方が明るく見える気がします。


 武蔵くんと、武蔵くんの髪を見ながら羨ましそうに唇を尖らせる聖夜くんを思い出して緩んだ口元を左手で隠しました。



「北条くん?」


「いや、ごめん」



 庄司さんに周りには聞こえないくらいの小声で怪訝そうに名前を呼ばれてしまいました。小さく首を振って返して、視線をレオに戻しました。



「まずは委員会の編成についてなんですが、毎年各クラスから2人ずつ選出してもらっているのとは別に、今年はなるべく少人数かつ極秘にサプライズを決行する委員を集めたいと考えています」



 突然の提案に生徒会室全体がざわつきました。僕も驚きましたが、サプライズ好きなレオなら言い出す可能性があるかもしれないとは思っていました。



「その心は?」


「はい。実行委員として頑張ってくれた人たちにも楽しんでもらえるサプライズをしたいんです。実行委員として頑張ったという思い出だけではない、一生徒として聖夜祭を楽しんだ思い出も作って欲しいんです」



 堂々とした立ち振る舞いで踊るように紡がれたレオの言葉に半数は納得したように頷きましたが、お金に厳しい5人が難色を示しました。副会長と会計局長が発言権を求めて手を挙げているのが1番厄介な相手かもしれません。



「初めに、清美委員長どうぞ」



 庄司さんはあとにしてもらって、僕から時計回りに発言してもらうのがいつもの流れです。


 指名された清美委員長の冷泉さんは、立ち上がると厳しい顔つきでレオを見据えました。



「その別メンバーはどこから集めるつもりですか?」


「委員会メンバー以外ということで、去年も委員会に入っていなかった僕の友人にお願いしようかと思っています」


「口の堅さにも信用が置ける相手であると?」


「はい。彼らであればアイデアも力も十分ですし、問題ないかと」


「なるほど」



 納得したような顔をして冷泉さんが座ると、レオの肩の力が一瞬だけ抜けました。普段の冷泉さんにしてはあまり追及していないように思いますが、あと4人の追及が不十分だったときにはもう1度手を挙げてくるでしょう。



「では次、年誌編集局長どうぞ」


「はい」



 立ち上がった年誌編集局長の辺見さんは一礼しました。



「具体的な案について聞かせていただくことは可能ですか?」


「それについては、内容を言ってしまうわけにはいかないかと思っています」



 お互いに揺るぎない視線をぶつけ合う2人に、生徒会室全体に緊張が走りました。辺見さんは普段穏やかな印象がある人ですが、物語を作る側の人間だからなのでしょうか、構成に確実性がないことを嫌います。


 話したくない気持ちも分からなくはないですから、僕個人としてはレオの意見を尊重したいところではあります。



「1度、この件はあとにしましょうか」



 僕の言葉に辺見さんは少し不服そうに眉を顰めましたが、素直に座ってくれました。理性的な人は建設的な話し合いに近づけることができるからありがたい限りです。



「では次に、選挙管理委員長どうぞ」


「はい」



 まっすぐに伸びた背筋とメガネの奥の探るような切れ長な目。立ち上がった右京くんは比野くんを挟んで隣に立っているレオに向き直りました。



「金銭的なところは、まぁ、あとで聞かれるでしょうから良いとして。場所はどうするつもりですか?」



 毎年の恒例行事としては、中庭とロータリーに張り巡らせたライトを点灯させてイルミネーションを見せるくらいなもので、正直あまり魅力的とは思えません。せめて写真を撮ってアイスタやツッタカターに載せたくなるようなものがあれば、というのはあとで提案するつもりではありますが。



「第一体育館を使いたいです。あと、ピロティーや第二体育館で時間を区切って有志が参加できる企画なんかをやってみるのも良いかなとは思ったんですけど、そうすると文化祭と内容が変わらなくなってしまうことが懸念されるので、それはなしにしようかと」


「なるほど。時間も短いですしね。簡単に見て回れるくらいの方が良いでしょう。それから、場所を増やすことには賛成です。別棟以外の教室からはイルミネーションが見えるとはいえ、3クラス入れば満員になってしまいますから、中庭の方に入っていく人は少ないですし」



 そう言って右京くんが座ると、レオの顔が綻びました。



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