3月23日 ツマグロヒョウモンと温暖化
正直、ネタがなくなってきた。3月1日から31日まで、毎日書こうと決めたこのエッセイだが、さすがに春も語りつくした。いや、きっとじっくりと考えれば、もっと書きたいことが見つかるはずだ。なにせ春は3月だけではない。4月も5月も春だし、なんなら6月も、梅雨が始まるまでは春気分だ。
まだまだ春を語りつくしたいが、どうにも今年の春は、現段階で「不作」のように感じる。今春になってまだ一度も、芋虫を見付けていない。
私は芋虫が好きだ。端的に言うと、飼うほどに好きだ。家に芋虫がいる生活は良い。暮らしにメリハリが出るし、日々を生き抜く活力を貰える。
この時期に出てくる芋虫で、私の最も好むものは、ツマグロヒョウモンの幼虫だ。毒々しい見た目に反して無毒、というギャップがたまらなく愛おしい。
スマートフォンの写真フォルダを確認したところ、去年の春は3月23日にはツマグロヒョウモンを撮影している。大きく太ったぷりぷりの体で、花壇のパンジーを食い荒らしている可愛らしいショットが、何枚も保存されていた。
しかし今年は、いまだ収穫なしだ。今日も雨の中、スミレの群生地をじっくりと見てまわったが、ツマグロヒョウモンらしき姿はどこにもなかった。雨なので葉の裏にでも避難していたのかもしれないが、スミレが食害された様子も見られなかったので、その可能性も望み薄だ。
自然というものは、何事も「例年通り」というわけにはいかない。花が開くのも虫が姿を現すのも、たいていのものはある程度時期が前後するものだ。それでもやはり、去年はこれくらいの時期には出会えたから今年も……と、期待はしてしまう。
そういえば、寡聞にしてつい最近知ったのだが、ツマグロヒョウモンは地球温暖化の指標生物であるらしい。ツマグロヒョウモンは本来南方系の蝶で、近畿地方以西にしか分布していなかったのだという。それが近年の温暖化に伴い、関東地方付近でも定着が認められている。
こういった情報を得たとき、実に複雑な気分になる。一般的に、地球温暖化は良くないこととされている。つまり、ツマグロヒョウモンが日本全土に分布域を広げることは、歓迎されるべきことではないのだ。
けれど私は正直に言って、日本全土どこででもツマグロヒョウモンを見られたら、それって良いなあ。なんて思ってしまう。世界中にスミレとツマグロヒョウモンが広がれば良いのに、とまで思ってしまう。
もちろんそんなことはあり得ないし、あり得てしまったらそれはそれで大変なことになると分かっているので、現実的な願望としてそう思っているわけではない。あくまで夢物語としての「だったら良いな」だ。しかし今、現実に現実としてあり得る範囲内で、ツマグロヒョウモンの分布域は拡大している。
ツマグロヒョウモン好きとして適切な落としどころは「ツマグロヒョウモンよ、これ以上北上するな。今いる場所で、たくさん増えておくれ」なのだろう。
だけれど私は、関東でスミレをもりもり食べるツマグロヒョウモンを見付けたら、きっとついつい「イッヒッヒ、よく食べてよく太れ……」とほくそ笑んでしまうに違いない。私は、露骨に贔屓をするタイプなのだ。
私が今住んでいる地域は、近畿以西だ。ツマグロヒョウモンを見付けても、いちいち「地球温暖化が進んでいるなあ」などと心配する必要はない。何にも遠慮することはないから、早く姿を見せてほしい。
可愛らしくたくましい、黒とオレンジのぶにぶにたち。今年も少し北上しただろうか。最も北にいるものたちは、今、日本のどのあたりにいるだろう。
あんまり頑張って北へ行かなくても、私のところにたくさん来てくれてもいいんだよ。なんて、思ってみたりする。
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