3月22日 めまぐるしい春


 催花雨の話をした。春の雨は開花をうながし、風景はますます春めいてくる。とはいえさすがに、1日2日で変化が分かるほどではないだろう。


 ……と、思っていた。



 信号待ちをしながら辺りを見回して、何か面白いものがないか探すのが日課だ。今日も花壇の様子を観察する。寒いうちから咲いていたパンジーは、暖かくなっていよいよ葉を増やしている。水仙も相変わらず、しゃんと背筋を伸ばして立っている。

 そんな中で、ふと見慣れない顔を見付けて、私の視線はそこに集中した。


 ピンクに色づいたつぼみが、ほんの少し開きかけている。あんな花が、あっただろうか。

 一体何の花なのか、考えるまでもない。多くの日本人にとって妙に馴染みの深い春の花。あれは、チューリップだ。昨日までは緑の葉を伸ばすだけだったチューリップが、見ないうちにつぼみを膨らませ、色をつけ、花を咲かせようとしているのだ。

 さすがに、早すぎやしないか。


 当該花壇については、立地の関係上、私はほぼ毎日のようにじっくりと観察している。間違いなく、一昨日まではつぼみは色づいていなかった。ここ1日半で、急激に成長したのだ。これが催花雨の効力だろうか。いや、単にチューリップが内側に蓄積させてきた春が、とうとうあふれ出したのがこのタイミングだっただけだろうか。



 変化したのはチューリップだけではない。小石だらけの駐車場に、淡いオレンジ色の可憐な花が揺れている。これもまた、一昨日までは見かけなかったものだ。ナガミヒナゲシ。くてんと下を向いたつぼみが、むくむくと大きくなっていることには気が付いていたが、とうとう開花した。これもあるいは、雨のもたらした春かもしれない。


 外来植物であるナガミヒナゲシは、ここ数年、さすがの繁殖力で私の行動圏内に進出してきた。とても可愛らしく、一見してはかなげに見えるこの花は、実のところえげつないほどの繁殖力と他感作用(アロレパシー)を持っている。ナガミヒナゲシは、根から他の植物の成長を阻害する物質を出すのである。

 周りの植物たちを毒で排除しながら、ナガミヒナゲシは悠々と成長する。そうして無事に花を咲かせると、一度に千以上の小さな種を生み、周囲に振り撒くのだ。そのような特性を持つ花が、可憐で健気で清楚な野の花に見える(少なくとも私の目にはそう映る)のは、そこも含めてナガミヒナゲシの作戦なのだろうか?


 話が逸れた。ともかく、今年もナガミヒナゲシは分布域を拡大しそうだ。春の雨を受けて、元気に花を咲かせている。たった1日で、駐車場はすっかり華やかなよそおいだ。

 春の景色は変わりやすい。雨が降れば花が咲き、そして花が咲く。めまぐるしい大変化に、ほんのわずかの瞬きも許されない。


 明日からもまた何日か雨が続くようだが、いくらかの花は雨と共に地面に落ちるだろう。春の花の代名詞、桜もそうだ。

 私が住んでいる地域の桜は、まだちらほらと咲き始めている段階だ。雨との心中にはならないだろう。数日続いた雨のあと、待ちわびたぞとばかりに咲き誇る春の花々を、心待ちにしたい。


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