電波ヒロインには生徒副会長を①

次の日。

俺は茂みの中にいた。

……いや、ホントに何してんだろ、俺。


こうなった発端は昨日のノートである。

そこにはさっきも言った通り、全員を落とすためにする行動が逐一書かれていて、今日どこに集まるのかもきっちり書かれている。

——ノート曰く、『副会長はチョロイン』だそうだ。


《本当に落とすの簡単。あっという間に落ちてるもん。向こうの世界じゃ『即堕ち副会長』って愛称で親しまれてたよ》

《そ、そうか……》


『即堕ち』の意味はちょっと分からないが、多分碌な意味じゃないんだろうなとは思った。


そして今日。

俺は昨日見た通りの時間、見た通りの場所の近くで張り込んでいる。

お手並み拝見というべきか、一体どんな風にやるのかが正直気になって来てしまった。

まあ、確かに確認はしたが、そう行動して果たしてどんな結末になるのか。


俺が、ミアの行動に口出ししなかったのは、ローレルの現在の行動がひどすぎたせいだ。

とにかく生徒会で仕事をしない。これは他のメンバーもそうだが。

どうやら、貴族としての在り方をそもそも勘違いしているようで、『貴族は、仕事なんて下賤な事はせず、悠々自適に過ごすのが正しい』とかいうお花畑状態なのだ。


今日も、俺は生徒会室に寄ったが、ファムが一人で仕事をしていた。

ファムが命令しても、逆に『殿下がそんなことしなくてもいいんですよ!』

とかなんとか言われるから、もう諦めたらしい。


なのでもう知らん。

婚約破棄で醜聞を作ろうが、おかしな考えで反逆罪に問われようが、俺は助けないことにした。

ローレルたちがもう少しまともな人間なら、ミアを少しは説得するか、ローレルたち本人に言ったりするかしたのになぁ。


そんな事を考えていると、目の前に人が来た。

ミアだ。

ミアはキョロキョロとあたりを見回すと、木の上に登り始めた。

実際に見るとだいぶシュールな光景だ。

そう思っているうちにするすると枝の上まで登ったミアは、おもむろに本を取り出して読み始めた。


すると、何ということだろうか。

そこに副会長のローレルがやってきた。

……本当に来たわ、あいつ。


ローレルはミアが上にいる木の下でミアと同じ本を取り出して読み始めた。

すると、ミアが本を取り落とす。


「あっ!」


本は落下し、ローレルの右側に落ちる。

ローレルは、落ちてきた本を見て、上を見上げる。

すると、ミアは木から飛び降りてきた。


「おわっ!?」


ローレルはギョッとしているが、ミアは気にせず自身の服の埃を払っている。


「……ミア!?どうしてここに!?」


ローレルは驚きながらミアを見つめている。

ミアも驚いた顔でローレルを見つめているが、


「その、本を読もうと思って……」


と気弱に言う。

俺はあまりのミアの変貌様に吹き出しそうになったがこらえる。

普段はちょっとガサツで勉強をしながら〈あー!疲れたー!〉とか言いながら突っ伏すような奴なのに、凄くおしとやかにふるまっているそのギャップに笑う。


「ローレル様も、読書?」

「あ、あぁ。暇だったからね」


暇だったら仕事しろよ。

ファムは真面目にやってるぞ?


「その本……」


そう言ってローレルはミアの持つ本を見る。


「この本ですか?……面白いですよね!」

「あ、あぁ」


ミアの勢いに若干たじたじになっているローレル。

あの本は確か、貴族の在り方について批判的に説いている本だ。

図書室のまぁまぁ目立つところに複数冊置いてある。

なぜローレルが同じ本を読んでいたのかは疑問だが。


俺も読んだことはあるが、ノブレス・オブリ―ジュの在り方についてその重要性と、そうでない貴族に対する批判を説いている本だった。


まぁ、単純な貴族批判をする本がこの学校においてあるはずないことを考えると、当然と言えば当然か。

しかし、この本が凄いのは、しっかりと読まなければ、単なる貴族の存在批判として受け取れてしまうことにある。

そういう風に、三代ほど前のルーシルの方の公爵が執筆したのだとか。


『貴族たるもの、これ位理解できなければならない』と。


まぁ、まずこの本の内容を勘違いしている者は王宮勤めからはじかれるらしい。


「この本を読んでいるとさ、俺たち貴族の意味って何なのかって思うんだよ」

「?」


あれ、ミアがきょとんとしている?

確か、セリフ通りだと、本の内容に共感する内容だったはず……。

そう言えば、ミアってこの前あの本読んでたよな……。

後で感想を聞いたが、〈面白いね、この本!読んでみたら、ただ貴族を批判しているように見えて実は……って部分が面白かった!〉なんて言ってたからきちんと読み込めているからかなぁ……。

そこで違和感が生まれたのか。


そしてミアが答える間もなくローレルが話を続ける。


「なんか、俺達って、いらないんじゃないかって思うんだよな……そう思わないか?」

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