第22話 慎也と佳奈

 その日の夜。仕事が終わった慎也は自宅に佳奈を連れて帰っていた。帰宅中は言葉数少なかった佳奈が、家に着けばどんなことを言ってくるか慎也には予想がついていた。


佳奈「ねぇ。どういうつもりなの?」


慎也「どうってなにが?」


佳奈「・・・。古都が来るの知ってたんでしょ?なぜ黙ってたの?鉢合わせさせてなにか良いことある?」


 慎也は髪をくしゃくしゃと掻きむしると、面倒くさそうに、そして苛立ちながら言った。


慎也「・・・はぁ。。悪かったよ。鉢合わせすると思った。だけどどっちにも言わなかった。俺が悪いよ。それでいい?」


佳奈「それでいい?ってなに?私が悪いの?事情を知ってるのになんで?」


慎也「ああ、もう。俺だってお前がいつまでもあいつのことを想ってるんじゃないかって嫌な気持ちがないわけじゃないんだ。だから、言うべきか迷ったけど言わなかった。あいつだって彼女がいて、俺とお前は付き合ってる。今は丸く収まってるんだ。はっきりさせたら良いと思ったんだ。」


佳奈「だからって・・・。わかった、もう良いよ。この話は終わり。」


慎也「なぁ・・・、お前もうあいつのことなんとも思わないか?正直に聞かせてくれ。」


 佳奈は古都と月一回会う恋仲だ。決してお互いの相手には言わない約束の。


佳奈「もう今更だと思ってるよ。ただ、あんな風に会いたくなかった。すごく嫌だった。。」


慎也「ごめん。もうしない。でも俺がなぜあんなことをしたと思う?」


 慎也が佳奈に近寄り、がしっと抱きしめて謝る。


慎也「俺は、お前となら結婚したいと思ってる。今の仕事を辞めて、親の仕事を継げば地元に戻ってすぐに生活は安定するからなにも問題はない。俺がそういう気持ちでいることをわかっててくれよ。」


佳奈「・・・わかってる。ごめんね、不安にさせて。でももうあんなやり方はしないで。」


 ここで仲直りしない理由はない。


 佳奈の心の声はというと、


(バレたらいけない。そう約束した。お互いの相手は傷つけないって。)


(慎也はそう遠くないうちに私に結婚を申し込むだろう。それで約束通り古都とは終わり。)


(いや、終わらせたい?終わらせたくはない。でも古都はあの女と別れる気があるようには見えない。なんの問題もないカップルに見えた。私が慎也との結婚を先送りしたとしても古都はあの女と結婚すると言い出すんじゃないだろうか。)


(ああっ、すごく嫌だった。私の前であんな、、二人で、、)


 慎也に抱かれながら古都のことを考えた。


(そうだ。バラさなければ良い。あの女が勝手に気づけば良いんだ。)


(フラれれば古都だって、私だけになる。)


 慎也が同じベッドで寝付いた頃、私は古都にメッセージを送った。


『明日の夕方か夜は家に一人でいる?』


 すぐ既読がついた。


『ごめん、明日は一人ではないと思う。』


『そっかそっか。大丈夫、聞いてみただけ。』


(慎也に悪いと思っていないわけではない。だからこそ、そろそろこのままというわけにはいかない。ごめんね、古都。)



 


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