第21話 それぞれの想い 

「じゃあ、俺たちはそろそろ。」


 紗良が気づいたかはわからないが、俺と佳奈、そして慎也のぎこちない三人での再会をして、言葉を選びながら食事をして、酒を飲んだ。


 明日も仕事だからと、俺と紗良は先に店を出ることにした。どうせ佳奈は慎也の仕事が終わるまで待つつもりなのかも知れないし。


 慎也の奴が、俺と佳奈の神経を削るような質問を幾つか紗良に投げかけていたのが精神的にきつかった。


「二人は同棲とか考えてないの?」


 俺は紗良と佳奈のどちらを選ぶのかと、佳奈に時間をもらって甘えている身だ。ここで同棲を考えているなどと言えるはずはなく、逃げるように紗良に目線を送った。


「私たち同じ職場なので、同棲するとしたら結婚を視野に入れてじゃないとかなって。私はいつでも一緒に住めたら良いなとは思ってるんですけどね!」


 そう言って紗良がにっこりと俺に微笑みかけた。相づちの代わりに俺も紗良に微笑んで見せたが、そのあと佳奈の方を向くことができなかった。なにか言い訳がましいことを言いたかったが、ここで佳奈と二人こそこそと話す機会などない。


 帰り際、佳奈は俺ににっこりと笑って、「会えて良かった。バイバイ。」と言った。そのバイバイが今のことなのか、ずっとではあるまいかと不安がよぎった。



 帰り道


「良い店だったね。料理も美味しかったよ。ありがとうね!」


「あ、ああ。また行こうな。」


 紗良と二人、何気ない話をしながら夜道を歩く。いつしか紗良が指を絡めて手を握りしめてきたので、俺もいつも通りそれに応えた。


紗良「ねぇ、同棲のことだけど、」


古都「ああ、会社的に難しいよな今は。」


紗良「うん。でもさ。すぐに結婚しないにしても、結婚も視野に入れていると言えばダメじゃないと思うんだ。総務にだけ言えば他の人に黙ってできると思う。」


古都「あ、え?」


紗良「だからっ、私は考えたいなって。すぐにじゃなくても、古都と一緒に住むこと。してみたいよ?古都は?」


古都「あ、ああ。それは俺だってもちろん。紗良とずっと一緒に居られたらと思うよ。ただ、俺はまだ会社に入りたてだし、もう少し待ってくれないか?」


紗良「それは、そうだよね。。うん、わかった。でもじゃあ、もう少し古都の家にいる時間を増やすとかしたい。」


 紗良の手がギュッと俺の手を握りしめた。


古都「そうだな。合鍵を作ってくるよ。荷物もちょっと持ってくれば良い。」


紗良「いいの?」


古都「ああ、俺も。そうしたい。」


紗良「やったぁ!ねぇ、古都。好きよ。」


古都「俺も、好きだよ。」



 この時、俺は気づいてしまった。俺は佳奈がいるから紗良と、紗良がいるから佳奈と、付き合えていることにすっかり満足していたことに。


 そして、慎也と佳奈が本当に付き合っていることを目の前で見たとき、すごくモヤモヤして胸がむかついたことも。嫉妬だ。つまり、佳奈だって、、俺と紗良を見て同じ気持ちを感じたに違いないとも。


「ああ、そうか。いつまでもこのままでいて良いわけではなかったんだった。」


 馬鹿だな、俺は。 

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