第6話 南リア

 そんなこんなで柳から話を聞いていた二人だったが、本人からも話を聞きたいと言うコーシカの希望によって、二人はその後改めて、傘の持ち主である南リアと会うことになったのだった。

 南リアはエルフの女性で、サラサラとした綺麗な金髪を肩のあたりで切り揃えた美しい女性だった。待ち合わせた喫茶店に先についていた彼女は、最初は少し緊張した面持ちで申し訳なさそうな顔をしていたが、柔和で友好的なコーシカの態度で緊張も解れていったようだ。10分も経つ頃には、彼女の表情も大分落ち着いた様子になっていた。


「傘を失くしてしまったことは別にして、何か身の周りで変わったこととかはなかったですか?」

「…うーん…。…特には…。…あ、でも…そうですね…。最近、忘れ物とか落とし物をしちゃうことが、ちょっと多かった気がします。……ただ、変わったことってわけじゃなくて…私、普段から結構そそっかしいから…」

「そうなんですか?」

「失くしちゃったって思って落ち込んだ後、忘れたころに出てくるってことあるじゃないですか…。そいう感じのことが多くて…。」

「あ~~~、そうですね…!私もあります、あります」

「え?コーシカさんもですか…?」

「最近で言うと例えばどんなものが見つからなくなっちゃったんです?」

「…えっと…ハンドタオルとか…ボールペンとか……」

「ふむふむ…」

「でも、失くしやすいものですしね…。」

「確かに…」


 何となくほわほわした空気を漂わせるコーシカとリアの二人を柳は何となく微笑まし気に見つめているし、芽衣子はやはりちょっと面白くなさそうである。


(あんな雑談みたいなこと話してて、本当に傘なんて見つかるのかなぁ…?)


「…でも……柳社長もそうですが、会社の同僚も今回の傘のこと知って…すごく心配してくれて…。すごくすごく申し訳なくなっちゃったんですよね…」

 ぽつり、リアが最初のころと同じように申し訳なさそうな顔をして、言葉を漏らした。

「…会社の皆さん、とても仲がいいんですね…」

「ええ、人数が少ない… あ、いえ、これは悪い意味ではなくって… その、少人数の会社ではあるので、みんなそれなりに交流があるというか…気さくな方が多いのもあるのですけど、みんな優しくって」

「良いですね…!やっぱり働く上では仕事自体ももちろんですが、人間関係って大きいと思いますし…」

「そうなんですよね。私、結構人見知りもあって…」

あんまりそういう風には見えなかったです~。南さんも結構社交的に見えましたし…!とか、そうですか~!結構ドキドキしてたんですよ!!! …等々、また二人がワイワイと話を続けている中で、ふと、コーシカの視線が、話をしている対面のリアを越えてもっと先、奥の窓際の席の方まで向けられた。

「……………」

「どうしました…?」

「……あ、いえ。ちょっと………」

「……?」

 リアは、何かあっあのかな?と振り返るが、特に気になるようなものはない。

あまりじろじろ見ていると他の客に変な目で見られてしまう気もするので、すぐに視線を席のコーシカに戻した。


「とりあえず、今度会社がお休みの時にでも、傘…会社で私たちにも探させて貰っても良いですか?」

 さすがに他の社員がいるときに、知らない人が入って来て傘を探してるなんて言って社内をウロウロし出したら不審がられてしまうと思うので…と、コーシカは柳に申し出る。

「もちろんです。…とは言え、社外の人間を会社に入れる訳ですから、私も同行させて貰いますね。それに、南さんも…お休みに出てきてもらうことになってしまいますが―…」大丈夫ですか?と、リアに視線を向ける。

「わ、私の傘を探してくれているんですし、もちろん私も行きます…!」

「お二人ともせっかくのお休みなのにごめんなさいね…」

 そこで3人が、いえいえそんな…とお互いに言い合う姿を頬杖をついた芽衣子だけが座ったまま、ストローを咥え、それを行儀悪くぷらぷら揺らしながら眺めていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る