第5話 雨傘探して西へ東へ?(※行ってはいない)

 それからコーシカと芽衣子は、失くした雨傘の持ち主である女性について柳から話を聞くことになった。

 もともとここに来る前に彼女と柳も傘を探し回ったとのことで、その時に彼女から柳が聞いた話も二人へと共有されたのだった。


 傘を失くしてしまった女性の名前は南リア。

柳が経営している小さな会社の従業員の一人で、同棲している彼氏と二人暮らし。

 通勤経路は、まず最寄り駅まで20分ほど歩いてから電車に15分。その後、また10分ほど歩いて会社に到着する。会社から駅までの間に、良く立ち寄るコンビニが一件。帰宅時に買い物を良くするのは、そのコンビニと自宅最寄り駅の方の駅前のスーパーだと言う。

 平日は基本的に自宅と会社、コンビニとスーパーくらいにしか立ち寄ることはなく、傘を失くしたと思われる日の前後も他の場所へは行っていないと話していたらしい。

 またその傘を失くしたのを気が付いた日は、朝雨が降っていたから傘をさして出勤し、帰りは雨が上がっていたため畳んだ状態で持ち歩いていたはず…とのことである。


「南さんは基本的に普段の生活ルートから外れる行動は取っていない。途中で立ち寄った可能性のあるお店と駅にも問い合わせをして手掛かりなし。会社にも家にも傘は無し…」


 真剣な面持ちでメモを取りながら柳の話を聞くコーシカと、そんなコーシカの揺れる尻尾を眺めている芽衣子。尻尾の先が小さくぴくぴくとしている。


(……例えば、仕事帰りにコンビニに寄って、入るときに傘立てに置く(置いたと記憶している)→帰る際に傘がないことに気が付く…職場に忘れたのかと考える。一度職場に探しに戻るor明日の出勤時に確認しよう…となる。職場に行っても傘がないと確認し、再びコンビニに行って傘の忘れ物がないか店員に聞く…。それでも見つからなかったから、駅の忘れ物承り所に電話…。それでも見つからず、自分の記憶違いかもしれないから…と良く立ち寄るスーパーにも忘れ物・落とし物がなかったか問い合わせ…)


(傘が勝手にいなくなることは基本的にはあり得ないので、本人の"置き忘れ"でないのなら、他者が持って行ったと考えるのが自然…。けど、お話を聞いた限り南さんはその傘をとても大事にしていたし、置き忘れをしたなら比較的すぐ気が付くんじゃないかな……だったら……)


「…えっと、柳さん、ちょっと聞きにくい話なんですけど…」

「…はい?」

「…南さんのことを憎んでる…とまではいかなくても嫌ってるとか、確執があるとか…そういう感じの方に心当たりはありませんか?」

「…え?」

「あ、参考までにです。参考までに…」

 ちょっと慌てた様子でコーシカがぱたぱたと手を左右に振った。

「…私が知っているのは社内のことだけですので、プライベートでのことはわからないですが…。そうですね…」

 柳は顎に手を当てて、ウーン…と考え込む。

「…彼女は明るく人当たりの良い性格ですし、社内での人間関係でも特に問題があるようには見えませんでしたね…」

「…あ、でも同じ会社の人なら彼女のシフトとかだって把握してるだろうし、嫌がらせに傘を隠すとかくらいなら出来そうですよね!」

「……」

「って、あ、スミマセン…」

 うっかり軽い調子で口を挟んでしまった芽衣子だったが、自分の会社にイジメがあるかも!みたいなことを軽~く言われてしまったら社長さんがいい気をするはずもない。コーシカの無言の「コラ!!」みたいな視線に、芽衣子は慌てて口をつぐんだ。




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