第二十八話  夏祭り、花火を見ながら

 今日は僕・姉ちゃん・結依ちゃん・勇太くんの四人編成で、夏祭りへ出撃!

 役場の近くにある広場で行われる夏祭りで、屋台もあるし、中心の矢倉近くでは和太鼓の演奏もあれば、盆踊りとかもやってる。

 その夏祭りへ挑む装備として、結依ちゃんはなんと、水色にあさがお柄の浴衣装備だった。髪は最初ひとつにくくられていただけだったけど、姉ちゃんの手によって、瑛那みたいなひとつにまとめた三つ編み化されている。

 勇太くんは、薄い灰色長そでシャツに、ひざくらいまでの長さの白いズボン。ポケットいっぱいのやつ。

 僕は茶色の長そでシャツにジーパン。姉ちゃんは白い半そでシャツにジーパン。どうも、ジーパンきょうだいです。


 姉ちゃんの金魚すくい術が披露されたり、でっかい木の板に大きな紙が貼られた落書きコーナーで、僕も結依ちゃんも絵と名前をすみっこに書いたり、りんごあめ派と百円ポテト派でコスパコストパフォーマンス議論が行われたり、矢鍋・汐織・若稲・奥茂・穂乃美など同級生と会いまくったり、姉ちゃんの友達や勇太くんの友達ともエンカウントしたり……

 人めっちゃいてにぎやかだったけど、僕の横には水色浴衣結依ちゃんがいて、なんていうか……これだけいろんな人がいるのに、結依ちゃんと出会って仲良くできているんだ~……とか思っちゃったり。


 姉ちゃんは、花火で混む前に帰る~っていうことで、勇太くんと一緒に帰ることになった。姉ちゃん明るく激しい割には、そういうことは回避するタイプなのかっ。

 僕は結依ちゃんと、祭の会場からは離れたところにある公園へ向かい、花火を観ることに。



「結構歩かせちゃったかも? 大丈夫?」

「うん」

 靴は普通の白色運動靴な結依ちゃん。人いっぱいで、踏まれると危ないからということで、おじさんやおばさんから靴で行きましょう、と言われているらしい。

 関係ないけど、僕は昔、安全靴を履いて学校へ行ったことがある。奥茂が上に乗ったけど、まったくのノーダメージだった。すごいね安全靴って。

 この公園はあまり大きくなく、街灯も公園内にはひとつくらいしかない。

 遊具はシーソーと砂場と鉄棒とすべり台。ジャングルジムやブランコはないなぁ。

 そんな公園だけど、赤茶色で大きめなベンチがいくつかある。でも公園内にだれもいないや。

 ここから花火が見えるんだから、だれかはいるでしょ~と思っていたけど、だ~れも……。

 それではベンチへ。僕が先に座ると、結依ちゃんは左隣に座った。

「だれもいないや」

「うん」

 静かだから、セミさんお元気だなぁとか、風が吹いたら木の葉がかすれる音がするとかが、実によくわかる。

 花火まだだから、結依ちゃん見てみよ。ちらっ。

 街灯があるので暗すぎることはなく、でもいつもの昼間に比べれば暗いわけで。でもそんな暗さを吹き飛ばす近さだった。

 左隣にいらっしゃる水色浴衣結依ちゃんも、こっち向いた。

(何話そ)

 う~ん。今は特に思い浮かばないなぁ。

(でも結依ちゃんのお顔~)

 辺りはいつもより暗いけど、結依ちゃんのお顔はまぶしいね!

「……なに?」

「ぁあぁいえいえ、花火待ちましょう」

「うん」

 って、僕見てるから結依ちゃん見てくるんだよね。

 ずーっと結依ちゃんのこと見続けちゃうから、前見よう。

「結依ちゃん! 来た!」

 グッドタイミングで花火上がった!

 めちゃ光ったぁ~!

 どぉ~ん鳴ったぁ~! 重低音が身体中に響くぜっ。

「というわけで~、こんな感じで、ちょっと遠いかもしれないけど……ここでよかった?」

「うん。座ってゆっくり観られて、こっちの方がいい」

「よかたいよかたい」

 結依ちゃんもお認めになった公園である!

 一粒がどーんと弾けていっぱいの光の粒になるオーソドックスなタイプ。ひゅるる~ってくるくる飛んでいくタイプ。さすがにここからじゃちょっと見にくいけど、放射状にロケットランチャーみたいに飛んでいくタイプ。

 そんな地元の花火を、結依ちゃんと一緒に眺める。

「……雪忠くん」

「ん? んんんっ?!」

 結依ちゃんが僕の左手を、右手で握ってきたぁーーー!!

「ど、どないしましたっ!?」

 あまりの急展開に、聞いてみたっ。

「……雪忠くんから、いっぱい元気をもらっちゃっているから、どうしたら、雪忠くんに元気を分けてあげられるかなって」

 ……前に握ってくれたとき、思わずうれしいとか、心の声を表に出しちゃったもんなぁ……。

「これはもう、元気を分けてもらうを通り越すというかなんというか……」

 結依ちゃんのおてては、すべすべすべべのべべべのべです。つい僕からも、少し力を込めて握っちゃう。

「私は、雪忠くんがそばにいててくれるだけで、元気になっちゃう」

 花火どーんと一緒に、僕のハートにもどーん。

「じゃ、じゃあ、結依ちゃんの家に僕の銅像を建てたら、結依ちゃん永久機関?」

 …………花火きれいですねー。なんですかこの間。あ、結依ちゃんちょっと笑ったみたい。

「雪忠くんの銅像じゃなくて、雪忠くんがいい」

 そんなに僕がいいと言ってくれるのかい!?

「僕なら、結依ちゃんの銅像があったら、ずっと見てられるかも…………って思ったけど、やっぱり僕も、結依ちゃんは結依ちゃんがいいかな」

 銅像はまばたきしてくれないし!

「そんなに見ないでください」

「すいません」

 結依ちゃんに怒られてしまいました。笑ってるけどっ。

「……でも……」

「も? もひょうひょおわ~!」

 結依ちゃんがさらに接近! 僕の左腕を抱えてきた!

「ゆ、結依ちゃん近くありません?!」

 なんて言いながら、僕も手をがっつり握っちゃっているわけだけど。

「近いです」

「ですよねぇ?!」

 うおあわわ、左肩に頭も乗せてきた!?

 花火どーんだけど、僕ちゅどーんだよ!

「ゆ、結依ちゃんよくこうやって他の人ともくっついてるとか!?」

 あせあせ。どきどき半端ないよ。

「ううん。雪忠くんだけ」

「そ、その理由をさんにーいちキュゥッ!」

 腕も手も肩も結依ちゃんがいるぅ!

「…………つい」

「ついぃ~?!」

 結依ちゃん笑ってるぅ! 過去最も近距離でー!

 花火もラストスパート入ってるー! どっかんどっかん連発しまくってる! まるで僕のハートのように!

「雪忠くんは……温かくて、楽しくて、おもしろくて……なのに、いつも優しくて……」

 な、なんかめっちゃ褒められてる……!

「……ずっと、仲良くしてね」

 いちばん最後に、最も大きい花火が、これまた最も大きな音を響かせて、光の粒が消えていった。

 静かになったら、余計に結依ちゃんくっついてることに、意識が向いちゃう。

「も、もちろん。結依ちゃんも、僕とずっと仲良くするようにっ」

 なぜか先生調になっちゃった。

「はい」

 結依ちゃんと僕ずっと仲良し協定が、ここに締結されました!


 花火が終わっても、少しベンチに座ったままだったけど、さすがに辺りは暗いわけだから、僕たちは立ち上がった。

 結依ちゃんの家まで帰るべく、一緒に歩きだした。公園の近くは全然人がいなかったものの、だんだん祭帰りの人たちが、辺りに見えるようになってきた。

 ……そんなエキストラさんとエンカウントする前まで、僕たちは手をつないで歩いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る