第二十九話  僕はただの立ち会い人です

「こんちは」

「よーっす!」

「や、やあ若稲」

「……おぅ」

 矢鍋・奥茂・僕・六場の男子四人組は、若稲を公園に呼び出した。

 ……っていう文字列だと、集団攻撃の構図に思われてしまうかもしれないけど、まぁちょっと待ってほしい。

「ん」

 いつもの若稲式んあいさつを披露してくれた若稲は、赤色の半そでシャツに、白色の長ズボン。

 矢鍋は緑色の長そでシャツに、青色の長ズボン。

 奥茂は青緑色の半そでシャツに、紺色のひざ下くらいまでのズボン。

 僕は深い緑色の長そでシャツに、黒の綿パン。なんか緑軍団並んでる。

 六場は白色の丸首半そでシャツに、黒色でひざくらいまでのジャージみたいなズボン。

 僕の青いマウンテンバイクと、奥茂の白いマウンテンバイクと、矢鍋の薄い水色のノーマルタイプ自転車ママチャリもあって、より集団攻撃感が出てるけど、まぁまぁちょっと待ってほしい。

「五人で遊ぶのか?」

 風そよそよ。たなびく若稲の髪が、強者つわもの感出てる。

「僕たちは、立ち会い人ってところだろうか?」

「おらいってこい六場ぁ!」

「ぉ……」

 奥茂のひじうりうり攻撃で、横一列の陣形から、六場が前に出された。

 ぉだけ声が発せられたが、沈・黙。

「どうした?」

「六場、いけるよな?」

「ぅぉ……」

 六場、まだ若稲とは距離があるままだ!

(こうなりゃ!)

「……六場、いけっ!」

「うおうお!」

 僕は六場の大きな背中を両手で押して、若稲との距離を詰めさせた!

「道森。これはなんだ?」

「ああまあその、六場が若稲に言いたいことあるんだよ」

 僕は六場の背中から、ぴょこっと右横に顔を出して答えた。

「なんだ?」

 では僕は失礼しまーす。後ろの三人でまた列を作った。

「おー…………」

 今日こんなバトルフィールドが設定されたのは、六場がやっぱり若稲にこくぅはくしたいとのこと!

 僕が……ま、まぁその? あくまで比較対象としてね!? 僕が結依ちゃんとのに比べたら、六場が若稲としゃべった回数も、遊んだ回数も、たぶん少なそうだけど……

(それでもう、言っちゃう感じなのかっ……!)

 若稲は、じーっと六場を見ている。六場は……ちょっと下向いてる? やはり今日も若稲の方が身長高い。

「六場ぁ! 漢見せろぉ!」

 奥茂のげきが飛ぶ!

「……わ、若稲」

「なんだ?」

 六場がしゃべりだした! そして若稲を見て!

「お、オレ! 強い若稲、だからこそ、守りたい! オレと、つ、付き合ってくれ!!」

(言ったぁぁぁ!!)

 ここあれでしょ。心臓音が鳴ってスローモーションになって、カットインしてる場面だよね。

 でもその演出も、なんだかわかる気がする。六場のまっすぐな気持ち、伝われぇ……!

(言われた若稲……なんも表情変わってない気がするけど……)

「……その付き合うとは、私に六場の彼女になれと、言っているのか?」

「お、おう」

 確認は大事だ。うん。

「私と、か?」

「若稲とだ!」

 さあどうだ! どうなのだ! どうなっちゃうんだぁ!

「……ひとつ、条件がある」

「お?」

 条件?!

 でも若稲は、この距離でもわかったけど、少しだけ顔が和らいで。

「私より、強くいてほしい」

 僕だったら……そ、その条件、達成できる自信ないけど……でももし若稲への気持ちが超本気だったら、受けるのかな。

(結依ちゃんに言われたら、受けそうだ)

 ゆいちゃんにいわれたら……ううっ、い、今は若稲と六場だっ!

「おう! 強くなるぞ!」

 おお! 力強い返答!

 その六場の言葉を聞いてか、若稲はさらに顔が和らいだ気がする。ちょぴっと笑顔とも言えるかもしれない。

「わかった。私は今日から、六場の彼女になろう」

「六場ぁーーーーー!!」

「やったじゃないか!」

「さすが六場だ! やったー!」

 奥茂はダッシュで、六場と肩を組みにいき、矢鍋と僕も後に続いた。

(こ、こんな歴史的瞬間に、立ち会ってしまった)

 なかなかないと思う。この瞬間に立ち会えるなんて。

「若稲いいんか!? 六場ずっと若稲より弱いままだったら、どうするよぉ!?」

 奥茂はハイテンションのまま、若稲にそんなことを聞いていた。

「六場は私より強くなると言った。私はその言葉を信じる」

 ちくしょーどこまでもかっちょええな若稲はよぉ!!

「これは責任重大だな、六場」

 矢鍋も笑顔でそんなことをさらっと。

「つ、強くなってみせる」

 六場、すごいや!

「若稲さん、今のお気持ちを一言、どうぞっ」

 僕は右手でマイクを作って、インタビューしてみた。

「私を選んでくれたのだから、私も信義を尽くそう」

「若稲かっこよすぎ」

 若稲のかっちょよさが次々に披露されているけど、六場はまだ緊張しているのか、それとも言いたかった気持ちをようやく言えたからなのか、顔は少し上の方に、向けられていた。

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