第二十三話  またも集いし漢四人衆!

「……ぉぃぉぃおいおいおい! 六場おめーも青春しちゃってよぉ~こんのこんの!」

「おぉぅ」

 矢鍋の家で集まった、矢鍋・奥茂・六場・僕。

 夏休みスタートだぁ! もともとは普通に遊ぶつもりだったけど、六場はこの場でも、若稲への告白を考えていることを、発表したのであった!

 矢鍋は水色で縦に白い線がたくさん入ってる長そでシャツに、クリーム色の長ズボン。

 奥茂は緑色の丸首半そでシャツに、ジーパン。

 六場は白い丸首半そでシャツに、黒色でひざくらいまでのジャージみたいなの。

 僕は水色の長そでシャツに、黒の綿パン。

 今は閉じられている、丸いバックギャモンテーブルを囲んで、一口ドーナツを食べていた。

 僕の左隣に奥茂、向かいに矢鍋、右隣に六場で一周。

「それが理科頑張った理由だったのか。あれだけの結果を残したんだから、本物だなっ」

「おぅ」

 あの時、教室やばかったもんなぁ。

「で? で? でっ!? 夏休み始まったぞ! どうすんだ!?」

 奥茂が少し乗り出している。

「どうって、なんだ」

「いつ告るんだってことに決まってんだろうよぉ!」

「ぉぅ……」

 やっぱり本日も、六場ちいちゃいや。

「そういえば、勉強教えてくれって言われていたじゃないか。どうなったんだ?」

 それは僕も気になる。

「まだ……だ」

「なぁにやってんだよぉ! 押せ押せ押して押しまくれぇ~! 今からでも電話で誘ってこい!」

「今、から?!」

「そうだ今からだ! 思い立ったが吉日! 善は急げ! 一富士二鷹三茄子なすび! 矢鍋、電話貸してやっていいよな!?」

 なんか一部変なの入ってた気がするけど。

「それはいいけど、六場は心の準備ができているのかい?」

「うぉ~……」

 背中も丸まり具合からして、あまり心の準備ができていないように見えなくもないような。

「前に遊んだことあんだろ? いけるいける!」

 ビリヤード事件とケーキ事件も、さっき披露された。

「オレ、点数取ったけど、教えるの、自信ないぞ」

「あんまり失敗とか気にしなくていいと思うけどな。若稲から教えてくれ、って言ってるわけだし」

「んぉぅ」

 若稲がそれらの事件をしゃべっているときも、別にがっかりしたとか、そんな様子はまったくなかったし。

「よぉっし矢鍋! 電話だ電話! 六場いってこぉーい!」

 なんというゴリ押し!

「お…………おぅっ」

 お! 六場がゆっくり立ち上がった!

「それじゃあ、電話のところまで連れていくよ」

「オレたちも行くぜ! な道森!」

「え、ああうん」

 ということで、四人全員でバトルフィールドへ。


 矢鍋のおうちの電話は、廊下にある。この電信受話器電話器は水色のだ。

「連絡網っと…………これだな」

 電話器の横にある小さな棚から、青いファイルを取り出した矢鍋。

 そこから台風のときとかに使われるクラス連絡網のプリントを、広げて電話器の横に置きながら、若稲家の電話番号を指さした。

「おぅ。借りる、ぞ」

「どうぞ」

 そうして六場は、ゆっくーりと左手で受話器を取り上げ、プリントを確認しながら、これまたゆっくりと番号のボタンを押しだした。

 僕たち三人は、その様子を見守った。

 最後のボタンが押され、静寂が訪れるっ。

「あ、あの、ども、こんちは。六場、です。わ、若稲さん、いますか?」

 うわ~ガッチガチ。

「あ、同じクラス、です。六場、です。お、お願いします」

 向こうはだれが出たのかわからないが、若稲本人ではなかったものの、今日は若稲いるみたいだ。

 また訪れる静寂っ。

「あ、お、おぅ、六場、です」

 若稲来たんだよ……ね? 奥茂はぐーで押せ押せポーズしている。

「……お、教えてくれ、言われたから……おぅ……」

 僕も緊張してきたぞっ。

「……あ、明日、か? おぅ、おう、おぅ…………お、ぅ…………」

 話が進んでいるようだっ。

「わ、わかっ、た。理科、持っていく……じゅ、十時? おぅ」

 お?

「し、知らない……おう、十時、校門……ぉぅ……」

 おおっ?

「わ、わかった。おう……おうっ…………」

 またまた静寂がっ。今の時間は、矢鍋が一人で留守番しているところだったので、僕たち四人以外にこの家にはだれもいなく、ほんとに静寂が静寂であるっ。

 そう思っていたら、六場がゆっくり受話器を下ろした。カタッと、定位置に戻されて、

「いけたか?!」

 奥茂が切り出して、

「……明日、十時。校門で待ち合わせして、若稲の家、行くことになった」

「うぉっしゃあーーー!」

 六場よりもめっちゃ喜んでる奥茂ぇ~。

「告白はどうするんだ? さすがにまだ早いか?」

「と、とりあえず明日、だ」

「夏休み中には告れよ!」

「ぅ……ぅぉ……」

 はいともいいえとも言えないぅぉが出た。


 電話でのバトルが終わったので、僕たちは再び、バックギャモンテーブルまで戻ってきた。

「そういや矢鍋、お前の方はどうなんだよぉ?」

 矢鍋、告白しちゃったもんなぁ。

「どうって、なにがだ?」

「菊嶋とどんな感じなんだよぉ!」

「だからどんなって、なにがだっ。別に普通だよ」

 ややツッコミ気味の矢鍋。

「夏休みどっか行くとか、あんのか?」

「汐織は夏期講習に行くし、僕も行くよ」

「そういうことじゃねぇよぉ……」

 イスに深くもたれる奥茂。

 ……僕も結依ちゃんと夏期講習……?

(しゅ、宿題するだけで充分頑張ってる気がする……)

 それにしても、汐織、かぁ。あ、よく考えれば、僕は汐織をもともと汐織って呼んでた。

 六場はちょっと視線を下げながら、二人の話を聞いて……る?

 でも僕もちょっと気になるので、聞いてみよう。

「なにか、今までと変わったことは、ある?」

「今までと変わったこと? そうだなあ」

 あごに右手を当てる矢鍋。

「……自分一人中心だったのが、自分と相手二人を中心に考えるようになった、とか、そんなところかな」

「どういうことだよぉ」

 すかさず聞く奥茂。

「相手がやってるなら自分もやってみようかとか、六場みたいに、相手のために自分でできることを頑張ってみようかとか、そういう気持ちにはなったよ」

「なんか、ムズいなぁっ」

 でも僕はそれ、なんとなくわかる気がするかも。

「僕の場合は、今になってそう思ったが、六場の場合は、先にそう思って行動した、っていうことだからな。それはすごいと思うよ」

「やろうと思った、ただそれだけ」

 なら……僕もなにか、結依ちゃんのことを思って、すでにしちゃっていることとか……あるのかな?

「にしても……矢鍋、六場と来りゃあ、次は道森かぁ?」

「ぼ、僕ぅ?!」

 ぼ、僕、かぁ。

「道森はやっぱり、早苗さんかい?」

「やっ、やっぱりってなにさっ」

「あぁ~道森はやっぱ早苗かぁ~」

「だ、だからやっぱりってなにさっ」

 汐織にしても、なんでみんなそんなさも当然かのようにっ。

「あの早苗が、道森に話しかけに行きまくってんだろ? オレなんか、日直や班や給食とかでのこと以外で、向こうから来たこととか、ねぇんじゃねえか? 矢鍋は?」

「僕もそのくらいだと思う。六場は?」

「……同じだ」

(そうなのぉ?!)

 四人中三人が、ご意見一致しております。

「行きまくってる~……って、そんなに来てるかなぁ?」

「便覧や辞書を取りに行くたびに、道森が早苗さんとしゃべってるところを、見ている気がするな」

「そ、それはさすがに~……?」

 たっ、ただ単に席の配置の関係さっ!!

「女子としゃべるの慣れてるのは、早苗としゃべってるからか?」

 六場まで聞いてきたっ。

「ま、まぁ……かもしれない、ね。ははっ」

「ほらいつもしゃべってんじゃねーかぁ~」

 奥茂からそう言われると思ってましたよぅ。

「それで、道森は早苗さんのこと、どういう気持ちで見てるんだい?」

 うぉっ。つ、ついに矢鍋から核心に迫るご質問! 奥茂も、そして六場もこっち見てるぅ!

「ど、どういうって…………」

(なんて言う?! どう言う?!)

 AN ENCOUNTER!

 みずいろのシャツのやなべ 1

 みどりいろのシャツのおくしげ 1

 しろいシャツのろくば 1

 どうする雪忠!?

「…………ま、まぁ~…………これからも仲良く、していきたいです」

 のらりくらりとした返事となってしまった?!

「そうじゃねぇよぉ! 告りたいか告りたいか、それとも告りたいかを聞いてんだよぉ!」

「なんで選択肢みっつあって、全部同じ文字列」

 どうなんだろう……そ、そりゃあまあそのっ。す、すきぃだとは思うけど、じゃあこくはくぅしたいかと言われれば……そうなのだろうか……?

 でもやっぱり、すきぃっていうことは、こくはくぅしたいってことに……なる、よね?

「電話、貸そうか?」

 なぜ矢鍋もちょっとノリノリなんだっ。

「い、いや、電話は結構です」

「んだよぉ六場よりも先に、道森が告ってもいいんだぜおらおらっ」

「だ、だからなぜそんな流れにっ」

 ……断られたら、立ち直れない自信あるよ、僕。

「道森が言うなら、オレも続く」

「なっ、六場までなんだよぅっ」

 言葉的にはそんな感じだったけど、結構まっすぐ僕を見ているぞ六場っ。

「ま~でも道森の場合は、早苗から告ってくる、っていうパターンもあるかぁ?」

「ゆ、結依ちゃんから?!」

 思わず声が大きく出てしまったっ。

「それも考えられるな、あの様子だと」

「そ、それはさすがにないんじゃない?!」

「さあ、どうだろうね」

 だからなんでノリノリなんだよぉ矢鍋ぇ!

「道森、頑張れ」

「六場までなんだよぉぅっ!!」

 ゆ、結依ちゃんから、そんなこと言われたら………………

(…………うっ、だめだ。そんな場面、想像することすら……)

 机の中に手紙が入っていて、呼び出されて、もじもじする結依ちゃんとか……

(ぶふぁっ)

 破壊力が半端ない。


「ただいま」

「おかえりなさい雪忠、結依ちゃんから電話があったわよ?」

「ゆ、結依ちゃんから?」

 今日は奥茂たちからいろいろ質問飛んできたなぁ~、と思いながら帰ってきたら、母さんが結依ちゃんからの電話を、取っていたみたいだ。

「声が悪くて苦しそうだったわ。かぜをひいたからしばらく遊べない、っていうことを、伝えてほしいって」

「かぜかぁ」

 結依ちゃんたまにやってくるかぜさん。

 何度も乗り越えて、この前もあれだけお元気だったのだから、きっと今度も乗り越えてくれるはずっ。

「せっかく夏休みになって、結依ちゃんのお顔をもっと見られると思ったのに、心配だわぁ」

 僕より心配してません母さん?

(いいや僕の方が心配してるね!)

「結依ちゃん、元気に過ごしたいって、言っていたものね。きっと治って、また来てくれるわよねっ」

 確認ですが、結依ちゃんは道森家の人ではなく、早苗さんの子供さんです。

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