第二十一話  一学期最後の関門! 突破せよ!

(ぼちぼちでんな)

 結依ちゃん効果が出ているのか、だんだん順位が上がっている……。

(た、たまたま今回のテスト範囲が、わかりやすかったから~……とか……)

 三年生一学期の期末テストが行われた。後は終業式を経て夏休みへ!

 学生たちの装備も、もう学生服・セーラー服装備者はいなくて、長そでなり半そでなりのカッターシャツ装備者ばかりだ。

 ちなみに僕は今日、長そでにしといた。

「もりりん~、どうだったぁ?」

「……まあまあ、よかったかな?」

「え? う、うぅーっ……」

 ほんとに苦しそうなうぅ~だよその声。テスト結果一覧のプリントを見せた。

「もりりんずるい! 睡眠学習でもしてるのぉ!? ぶら下がり健康器具でも使ってるのぉ!?」

「どっちも家にないよ……」

 ばったんばったんダイナミックに腹筋するやつとかもないよ。

「じゃあどうしてどんどん頭よくなっていくのぉ!?」

「ど、どうしてだろう」

「あーん…………えなりんはいい」

「どういうことかしら」

 ごめん。瑛那としては普通の返しだったと思うけど、不意な連発でちょっと吹きそうになった。

「でも穂乃美。僕は瑛那に腕相撲でも指相撲でも負けたんだ。男子としてのプライドが……」

「そうだねぇ……なのに勉強でも勝てないから、プライドズタズタだよねぇ」

「ず、ズタズタって、そこまでなの?」

 僕は右手をおでこに当てる。

「友達の数でも負けていて? 大会の成績でも負けていて? この前プールの授業でたまたま横並びだったけど、泳ぎでも負けて……くっ」

「諦めようもりりんー。人生、諦めが肝心だよぉ」

「……そ、そうだわ! スポーツテストがあったじゃない! あれならわたくしよりも、雪忠の方が強い項目もあったでしょう! ハンドボール投げは、さすがにわたくしも、それほど得意ではないわっ」

「……僕も苦手だよウッウッ」

「せ、1000m走はどうかしらっ?」

「男子は1500m走だよぉウッウッ!」

「瑛那、どうだった?」

 あ、やばい人来た。

「はぁ……今回は、このようなところよ」

「あら数学100点じゃない! 今回のテスト、範囲がわかりやすかったけど、先生が答え合わせのときに言っていた最高点100点って、瑛那のことだったのね。総合点でも、今回は完敗だわ」

「もりりぃん~……」

「穂乃美ぃ~……」

「……あの二人、テストのとき、いつも仲良いわね?」

「そ、そうみたいね……」

 やはり僕たちのもりりん穂乃美同盟は、一学期期末テストでも健在だった。

「み、道森」

「おい道森見ろよこれぇー!」

 六場と奥茂がやってきた。テスト結果一覧のプリントも持ってきているようだ。

「オレが今回英語の点数よかったから見せたらよぉ、そしたら六場がよぉ!」

 奥茂がプリントを僕の机の上に置いた。僕はもちろん、穂乃美も一緒に見た。

「しげりんに勝ったぁ~」

 僕も勝ったぁ。

「んなことよりもおら六場、出せ出せっ」

「お、ぅ」

 六場も、持っていたプリントを、僕の机の上に置いた。だんだんプリントが積み重なってゆく僕の机。

「なるほど~。国語~数学~僕の方がだいたい勝てているよう……り、理科96点~!?」

 その数値にも驚いたけど、

「し、しかも、科目別順位……い、1位……」

 神々しく輝く『1』!!

「えぇ~っ!? ろくばんそんなに理科得意だったのぉ~!? 総合点も……ま、負けたぁ……がっくし」

 確かに理科、僕自身も点数よかったかなって思っていたけど、六場がここまで理科得意だなんて、聞いたことなかったような……。

 総合点では勝ったけど、理科96点が相手だなんて、勝てるわけない……。しかもこれ、中間じゃなくて、期末だぜっ……? それを、科目別とはいえ、が、学年一位…………。

「復習、予習、全部難しそうだから、ひとつだけたくさんやってみようと思った。理科選んだ。こうなった」

「や、やってみようと思ったって、そ、それだけで、こんなに……?」

 あ、やばい人二人が後ろからやってきた。僕の左隣にやばい人二人が立った。

「やるじゃない。次の中間では、負けないわ」

「わたくしも、今回は他の教科に気を取られて、理科は詰めが甘かったわ。お互い、次も頑張りましょう」

 汐織が僕の机の上にプリントを乗せつつ、右手人差し指で理科の点数、94点を示し……瑛那も乗せて、指で示した理科の点数は、93点……。

「え……えなりんとしおりんを、ろくばん……倒しちゃった、よぉ…………?」

「それどころか、い、一位だよ、学年の……僕たちの学年全員で、チャンプNo.1なんだよ……」

「うぉーーーおめぇはオレらの希望の星だぁー! 英雄だぁー!」

「お、おぉおぅっ」

 いや、うん、今日は奥茂が六場の両肩つかんでぶんぶん前後に揺らす気持ち、すんごくわかるっ。

(自分のことじゃないのに、なんなんだこの熱き感動はぁーっ!)

「なになにー? 盛り上がってるね~。どしたの?」

 この騒ぎに淋子もやってきたっ。

「あーうぉっほん! 立木、新居堂。まずは二人の理科の点数をばっ」

「94点だったわ。次は一位を狙いたいわね」

「93点よ。自分の甘さで一位には届かなかったわ」

「うっわすっご!」

(この二人……わかってやがるな?!)

 その二人がアイコンタクト……これは確信犯ですね!

「よぉーし六場ぁ! 見せてやれ見せてやれぇーい!」

 奥茂も盛り上げるのうまいなぁ。司会者さんとか、どう?

「こ、これだ」

「どれどれ~。理科~?」

 六場はプリントを淋子に見せた。淋子はそのプリントを手に取って、近距離でしっかり確認している。

 この瞬間までは、いつもの淋子の元気な表情だった。でもその表情から、みるみるおめめとおくちが開いていき、プリントを持つ手もちょっとぷるぷる。

「……う、うそでしょ……なにこの異次元の数字……」

 同感。

「六場くんがここまで得意なら、理科は要注意になるわ。順位が出るからには、次は勝ちたいわね」

「努力することの大切さを、改めて教えてもらったわ。徹人くんも、次のテストでも頑張ってね」

「お、おう」

 汐織と瑛那から、ライバル認定を受けた六場……すごい、すごすぎるよ……

(……この時、歴史は動いた……)

「て、てっとどうやったの? しおりぃとえなな両方に勝つなんて、あたし地球がひっくり返っても一生できないよ!? 360°! 720°ひっくり返っても!」

「それどっちも戻ってる戻ってる」

 かなりビッグスケールなお話だけど、でもそのくらい大きな存在である二大巨頭。

「なにかひとつ、勉強頑張ってみた。そうしたら、こうなった」

「一極集中かぁ……あんたやっぱり男だねぇ!」

「おぉおぅ」

 淋子は右手で六場の左肩をべしべしたたいてる。

「うおわっ」

 気づいたら右隣に結依ちゃんと若稲と、別方向から矢鍋もやってきた!

 明らかに固まる六場! でもこの大人数なので、若稲が来たことで固まっているとは、気付かれにくそう!

「ずいぶん盛り上がってるね。六場の理科のことかい?」

「矢鍋は知っていたの?」

「僕が理科をどんな勉強してるのか聞かれたから、ノート見せながら教えたんだよ。テスト終わった後に、うまくいったと聞いたけど、何点だったんだい?」

「おぉーっし! 立木、新居堂。もっかいよろしくぅっ」

「もうっ、ふふっ。94点だったわ。一位を取れなくて、くやしいわ」

「93点よ。わたくしも、頑張らなくてはいけないわ」

 そこの二人もなんだかんだでノリノリ!?

「さすがだねー。僕は88点。入試入学試験問題は、まったく歯が立たなかったよ」

「私はなにもかも歯が立たなかったよぉ」

「よっしゃーてっといけいけーっ!」

 淋子も盛り上げ上手。

「そ、それだ」

「ん?」

 あぁ淋子がまだプリント持ったままだった。

「あ、これかぁあはは。はいこれ」

 ということで、淋子からプリントを受け取る矢鍋。

「ゆいにゃんとのわっちも見てあげて!」

 矢鍋は二人に近づいて、プリントを三人一緒に見える位置へと調整した。結依ちゃんちいちゃいのに、身長高い二人に挟まれて、なんか、いい。

「わあっ、すごい」

 結依ちゃんのわあ飛び出しました!

「一位!? やったじゃないか! しかも期末で96点はすごいな!」

「お、おぅ」

 六場てれてるぅー。

(さあ若稲からは、チャンプチャンピオンへのどんな祝福の言葉がっ!)

「すごいな。私に勉強を教えてくれないか?」

 おぉーっとお勉強のお誘いが来ましたぁー!

 六場ちょっと停止しているぅー! 動いたー!

「お、おう!」

 本日いちばんの力強いおう炸裂だぁー!

(両手を合わせている結依ちゃんかわいー!)

 それにしても……なんだかこうして、たくさんの友達が集まって、めちゃくちゃ褒めちぎって、一緒に盛り上がって。

 僕はこういう瞬間、とても好きだな。


「あ、ゆ、結依ちゃんっ?」

 僕がげた箱へ向かっている途中、結依ちゃんと同じタイミングで、げた箱への廊下へと曲がってきた。

 結依ちゃんは僕を発見するなり、みるみる接近。さすが忍び結依ちゃん。もう右隣に。

 特にその、僕を見つけた瞬間、一人結依ちゃんモードから僕と一緒結依ちゃんモードに明るく表情が変わる瞬間。たまらなくたまりません。

「……帰ろっか?」

「うん」

 僕は人生であと何億回、この声でのうんでうきうきするんだろう。


 それぞれ上靴をげた箱に直して、外の靴に履き替え。僕は紺色の運動靴。結依ちゃんは茶色のローファー。

 体育の日は運動靴で来るって言っていて、確かにそうなのだけど、めんどくさくない? って聞いたら、いくつかの靴を履き回した方がいいって聞いた、らしい。

 僕ならきっと、体育ある日に運動靴履き忘れて、大ダメージ受けるかも。ローファーって持ってないけど。

 僕は雨の日なら別の靴履く、とかはあるかなぁ。

 そんな結依ちゃんと、今日も横に並んで下校。今日は髪くくられてない。

「今日の六場、やばかったなー」

「すごかったよね」

「結依ちゃんでも、96点で一位は、やっぱすごい?」

「すごい」

 ……ぼ、僕も結依ちゃんにすごいって言ってもらえるように、なにか頑張ろうかな……? い、いやぁ~どうだろう…………。

「……雪忠くんの周りには、いつもお友達がいっぱいだね」

 柔らかな笑顔で、そう言ってくれた。

「い、いつもかなあ? 今日はたまたま、あんな感じに盛り上がったと思うけど?」

「いつも」

「はい」

 結依ちゃんの言うことは絶対! ちょっと笑った結依ちゃん。

「男の子も、女の子も。雪忠くんと、いつも楽しそうに、おしゃべりしてる」

「それは~……中学三年生同士、だから?」

「いつも」

「はい」

 これからもぜひいっぱい笑ってください結依ちゃん。

「雪忠くんのお友達の輪に、私も入ることができて……」

 ……溜め?

「ありがとうございます」

 あぁ頭下げられちゃった。

「こ、こちらこそ、いつもお世話になっております」

 僕も頭下げとこ。ぺこり。

「雪忠くんは、どうしていろんな人を、みんな楽しませることができるの?」

「うぇ?! どうしてーって」

 あの、そんなこと言われたの初めてですよぉ!?

「……と、特別変わったことは、してないような……?」

 ゆっくりまばたきして、こっちを見てる結依ちゃん。

「私……」

 な、なんだろう。最近溜めること多い?

「……雪忠くんと一緒にいると、いつも楽しくて、おうちに帰ったら、いつもさみしい」

(ぐはっ……こ、これは強烈な一撃……)

 雪忠のハートにクリティカルヒット!

「もっと雪忠くんと一緒にいたくなっちゃうから、おうちに帰ったら、おとといより昨日、昨日より今日、もっとさみしい」

(どぐほぁっ!)

 雪忠に強烈な連続クリティカルヒット!

「……最近はもう。雪忠くんのことで、いっぱい……」

(どぅっふぁ~っ……)

 カーンカーンカーン! K.O.ノックアウト!!

「……夏休みも、雪忠くんに、会いたい」

 カーンカーンカーンカーン! すでにK.O.です! ストレッチャー担架持ってこぉーい!

「も、もちろん! 僕だって結依ちゃんに会いたいっ。会おうっ。夏休みいっぱい遊ぼうっ」

 あーっと! 結依ちゃん両手がほっぺたにぃー!?

「……うんっ」

 救急車ぁー! ウゥー! ピーポーピーポー! おい早くしろぉ! 何をしているぐずぐずするなぁー! ピーポーピーポー!

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