第十九話  漢たちのグラウンド前階段

 あ、六場だ。あんなグラウンドに下りる階段なんかに座って、なにやってるんだろう。

 若稲とは遊べたはずだけど……?

 だれがやってるのか遠くてわからないけど、グラウンドでサッカーをする男子が何人かいる。

「やあ。なにしているのさ?」

 ため息六場。

「うまくいかなかった」

 あのビリヤードとケーキ屋さんの話?

「で、でもほら、また誘えばいいさっ」

「次は何すればいい」

「そ、そうだな~」

 結依ちゃんを思い浮かべてみて。

「どっちかの家で遊ぶのとかは?」

「家なぁ……」

 六場の家って、あんまり遊びに行ってないなぁ。他の友達の家で一緒に遊んでばかりだ。

「もりりんとろくばんだぁ~。こんなところでなにしてるのぉ~? 黄昏たそがれごっこ~?」

 初めて聞く名前のごっこ名を、ひざに手を当てながら披露してくれたのは、穂乃美だ。六場はろくばんなんだな。六番?

「僕も今、六場をここで発見したところだよ」

「ろくばんなにしてたのぉ~?」

「別によぉ……」

「……もりりんー。なにかあったの?」

「まあ、失敗を落ち込んでるみたいで」

 なんだか六場のため息回数が、増している気がするっ。

「なに失敗したのー? 私なんて、失敗ばっかりだよぉ~」

 穂乃美も僕の左隣に腰を下ろした。左から穂乃美・僕・六場のフォーメーション。

「穂乃美の失敗って、例えば?」

「例えばー。タンスの角に小指ぶつけたり~」

「痛い」

「フルーツジュース飲もうと紙パックから注ごうとしたら、どばっと出ちゃったり~」

「ゆっくり入れよう」

「カップ焼きそば食べようとして、湯切りしようとしたら、麺がどばっと出ちゃったり~」

「悲しい」

「しおりんから言われるまで、ボタンずれてたの気づかなかったり~」

「あるある」

「歯磨きした後、ぺーせずに飲み込んじゃったこともあったよ~」

「危ない」

 結構困難に立ち向かってるんだな、穂乃美っ。

「ろくばんは、なに失敗したの~?」

(てか穂乃美近くね?)

「……ビリヤード、ケーキ」

「なに、それ?」

「あーえっと……若稲と遊んだときに、ビリヤードうまく玉突けなくて、ケーキもいきなりこかしたとか、そんなの」

「ふぅーん……?」

 あまりピンと来ていない穂乃美?

「なぜ知っている?」

「ぬ!?」

 あ、そっか。今の話では、まだそこまで詳しい話が出てなかったっけ。

「若稲から聴いた……から?」

「そうか……」

 六場。なんだか本日もちいちゃくなってる。

「……えっ? もしかしてろくばん。のわりんのこと好きなのぉ!?」

「うぉっ、いや、まだそういうわけでは」

「そうなんだそうなんだへぇ~そっかぁのわりんのことんふふ~」

 ああ穂乃美って、こういう話題強そうだよなぁ。

「どういうとこ好きになったのぉ? 髪? 顔? 性格っ?」

 ぐいぐいくる穂乃美ってだから近いってぇっ。

「……守ってやりたい。そう思った」

 ズキュゥーン!

「きゃーろくばんかっこいぃー!」

「そ、そんなこと思ってたなんて……へぇー……」

 びっくりした。そりゃもうすんごく。

「でもオレ、若稲より弱い」

「そんなことないわよぉ~。守ってあげたいって言われて、くらっときちゃわない女の子なんて、この世界には存在しなーいのっ。これは自然の摂理なのよっ?」

 初めて聞いた。教科書には載っていなかったような。

「……そうなのか?」

「そうよそうよっ! だからもう、女の子は生まれた時点で、男の子に守られるか弱き乙女なのよんっ! きゃっ!」

 それも初めて聞いた。たまたまテスト範囲からずれていたのかも。

「そうか……」

 い、いいの本当に? 六場ならちょくで信じかねないよ?

「どうやらろくばんは、まだまだ女の子についてわかってないわねぇ……来なさいっ。ろくばんには特別講師を呼んで、お勉強が必要ね!」

「勉強?」

 穂乃美ノリノリである。


「なるほどなるほど……ほのみんの言うとおりすぎるわっ」

 特別講師:菊嶋淋子先生。

「まずのわっちのことを守ってあげたいと思ったてっと。合格よ。あんたは男よ!」

「お、おぅ」

「どんなに強い女の子だって、守られたい願望はあるもの……本気でのわっちを守ってやれるのは、てっと、あんただけかもしれないわ!」

「お、オレだけか?」

「そうよ! 男見せるのよ! 男らしい男になびかない女は、この世にいないのよ!」

 なんでみんなこの世にいない女子についての知識、豊富なんだろう。

 ……でもよく考えれば、僕もこの世にいない男子について、どこかで語った気がする。


「女の子に、ついて……?」

「えなりんとしおりんからも教えてあげて! 今のろくばんには、圧倒的に知識が足りないのぉ!」

 特別講師:新居堂瑛那先生・立木汐織先生。特別講師は一人だけじゃなかったんだ。

「そんなこと言われてもねぇ……瑛那はおうちで、女の子らしくしなさいって、言われてそうじゃない?」

「どうかしら。女の子らしくとは、あまり言われていないと思うけれど……姿勢や、意識して日々を過ごすこと、定めた目標への計画の立て方などについては、お話や練習が多かったわ」

 ……僕。新居堂家に生まれてたら、どうなってたんだろう。

「さっすがえなりん……しおりんは?」

「あたしは、瑛那ほどは……でも、身なりと整理整頓はきちんとしなさいと、教わってきたわ。自らを律してから、初めて他人に物申せる。そんなことを言われて育ったわね」

 立木家に生まれてたら、やっぱりどうなってたんだろう。っていうかそんな教えを受けて育ったのが、この瑛那と汐織かぁ……なんだか納得。

「あ、あはー。この二人は、特殊ケースかなぁ? ありがとぉ、参考になりましたぁ」

「ちょ、ちょっとっ」

 穂乃美は二人の背中を押しながら、歩きだした。ある意味、僕もちょっと参考になったかも。


「……女の子?」

「うんうん! ゆいりん、女の子のこと、どーんと教えてあげて!」

 特別講師:早苗結依先生。なんとまぁ充実の講師陣。

 あーうん、いきなりこんなことに巻き込まれちゃ、僕見るよね。そのまばたきで。

「ゆ、結依ちゃんはさ。男子に普段こういうこと気づいてもらいたーいとか、なんか~……な、なんかー…………ない?」

 僕もあんまりピンと来てないんだってばぁ。

「……ないかなぁ」

 終~了~。

「え~なにかないのぉ~? ゆいりん女の子じゃん~。重たい荷物持てないの~とか、はしより重い物持ったことないの~とか、男の子に助けてもらいたいこととか、ないないー?」

 うぉー結依ちゃんめっちゃ考えてくれてるー。顔角度ついてるー。

「…………そばにいてくれたら、それでいいかなぁ」

 うーんさすが結依ちゃんっ。この状況の中で、すばらしいお答えだっ。

「それだぁー! そうよやっぱりそこに行き着くのよぉ~! 女の子はさみしい乙女なのっ。そばに寄り添う気持ち……それが大事なのっ。わかったろくばんー?」

「お、おぅ」

 ほんとにー……わかった?

「これを参考に、精進したまえぇっ。解散!」

 あ、これにて解散らしい。穂乃美はるんるん気味に去っていった。

「どうだった六場」

「……やるだけやるさぁ」

「そうだそうだっ」

 あ、結依ちゃんがまたまばたきしている。

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