第十二話  なんだか教室が盛り上がっているようですけれども

 結依ちゃんが図書閲覧室図書室に用があったので、僕もついていった。

 花の図鑑を借りていたんだけど、教室の近くまで戻ってきたら、なんだかにぎやか?

「ぎゃー!」

 奥茂がやられた声が聞こえた。それ以外の声は、なんだか楽しそうな雰囲気だけど。

 僕と結依ちゃんが教室に入ると……若稲? の席の周りに人だかりが?

「いってみる?」

「うん」

 借りてきた花の図鑑をいったん後ろのロッカーに入れるべく、結依ちゃんと一緒に移動。僕あんまり図書閲覧室利用してないなぁ……。

 結依ちゃんがこうして借りているのだから、僕も何か借りてみる……? でも何借りよう。

「おー道森、おめぇも挑戦してみっか?」

「挑戦?」

 十人は集まってる人だかりの中心に……えーっと。あれはどこからどう見ても、腕相撲するかいのポジショニングな、若稲……。

「若稲とさ! ほらっ」

 若稲は僕を見てきた。う、眼力が。

「さっき奥茂がたたきのめされた声が、廊下まで聞こえてきたよ。奥茂より弱いと思う僕が、とてもかなわないんじゃ?」

「んだよ道森ぃ。漢見せろ漢をよぉ!」

 そんなこと言ったって~と思ったけど、でも若稲と腕相撲できる機会なんて、それはそれで珍しいわけで。

(て?! じょ、女子と手をつなぐとかぁ?!)

 ぐぐぐ。う、腕相撲とはいえ、女子とその、て、手を、さぁ……でも若稲なんかやる気まんまんだし、僕だって漢だから、勝負の話を向けられちゃあ、戦わないわけにも……

「一度、やってみたかった。やろう」

 …………本人から(かっこいい表情で)そんなこと言われたら!

「……漢には、戦わなければならない宿命がある!!」


「また戦ってくれ」

「ウッウッ」

 撃・沈!


 僕は自分の席に戻ってウッウッ。

 あ、この前のテストの後、席替えが行われたから、もう右隣は瑛那じゃない。

 うちのクラスは、壷から番号札取り出して、黒板に書かれたランダムな番号へ行く、という方式のくじ引き。

「強いとは聞いていたけど、あの強さは本物のようね」

「ウッウッ」

 瑛那のご感想ウッウッ。あ、ちなみに今回は後ろの席が瑛那。なんとまさかの二連続瑛那とおとなりさん。

「雪忠」

「ウッウ?」

「わたくしとも、してみるかしら。腕相撲」

「ウーーー?!」


(僕。なんで今。こんなことに……?)

 なんと! あの新居堂瑛那が、僕に対して腕相撲の勝負を仕掛けてきたというのである!

 そ、そりゃあ勝負を挑まれたとあっちゃあ、受けて立つのが漢のさが。にしても、あの瑛那と腕相撲だなんて……。

(さっき若稲と手をつないだばっかりだというのにぃーーー!!)

 女子って、平気なの……? 男子と手をつなぐの……。

 だれからの勝負も受けて立つのが漢だけど、あの瑛那がっていう激レア度。

 僕はすでに自分のイスを反転させ、瑛那と向かい合わせになっている。逃げられない。逃げてはいけない。

「じゃ……じゃあ……」

「お手柔らかに」

 僕が美術の成績よかったら、きっと今のこの瑛那の腕相撲ポーズをスケッチできただろう。

 さっき若稲と対決したときは、机が前後ふたつくっつけられてあったけど、僕たちは瑛那の机ひとつだけがそのままバトルフィールドだった。もうひじつけちゃったし。

 僕はわなわなしてたと思うけど、瑛那は堂々としている。あぁ瑛那が細い指を待機させているみたいだから、

「し、失礼します」

「よろしく」

 えー、で、では。すーはー。

(ひょうぉー)

 若稲と手をつないだからって、瑛那と問題なくつなげるなんてことあるわけなくーーー!!

 でもここは勝負の場! 心を落ち着かせ……瑛那指細いな……精神を集中させ……瑛那おててすべすべだな……

「結依さん。開始の合図をお願いできるかしら」

 なお結依ちゃんは、僕のウッウッ姿をずっと眺めていた模様。

 そんな結依ちゃんが

(ぬおおぉぉーーー……)

 りょ、りょうてを、僕と瑛那が握ってるそのうえから結依ちゃんのおててがふわっとあわばばば。

(い、いけないいけない。これじゃ棄権扱いとなってしまうではないかっ)

「……はっけよーい。のこった」

 そこレディーゴーちゃうんかぁーいって心の中で盛大にツッコんだけど結依ちゃんの手がゆっくり離れて戦闘開始!

(げ! 瑛那強ぉ?!)

 でもさっきみたいな完・敗! とは違って、まだ戦える! あぁでもやばい?

(力を入れている瑛那の表情…………超レア)

 いつもしっかりしてる感じで、あまり動じなさそうな瑛那が、今思いっきり力を込めやばいやばい負ける負ける!

(ひぃー! あ)

 僕の右手の甲が……? あれ? え、僕男子……僕漢……あれっ……。

「はぁっ……勝ったわ……」

 瑛那が、ちょっとさわやかな、瑛那らしい……あれ、僕の方が下に……あれっ……。

「……もう終わっているわ」

 すっと手を抜いた瑛那……戦闘……お、オワッタ……?

「でもこれは疲れるわ。雪忠が相手で、ちょうどよかったかもしれないわ」

 僕の……右手……。

「……お、落ち込むことも、ないと思うわ。きっと結依さんよりは強いはずよ。そうでしょう、結依さん」

 うなずいてる結依さん……すっかりいつものしっかりさん瑛那さん……ああ、僕は……

「ウッウッ」

「困ったわね……」

「ウッウッ」

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