第十一話  あの結果や……いかに!

 それは金曜日の朝。汐織から、お昼休みに中庭に来てと言われた。

 午前中の授業を、なんだか集中しきれてないような感じ(先生ごめんなさい)だったけど、なんとか乗り切った。

 給食を食べ終わって、いよいよお昼休み。

 廊下から、前にしゃべったあのベンチ付近を見てみると、いるいる汐織が。

 ということで、中庭に下りた。汐織はすぐに僕だと気づいたようだった。

「や、やあ」

「こんにちは」

「こ、こんにちは」

 前回と同じく、僕は右隣に。今日は資料集とかは持っていないようだ。

「それで……なに?」

「実はね……」

 顔だけ少しこっちを向けた汐織。

「……矢鍋くんから……言われちゃったわ」

(言われた)

 たぶんあれだろうけど、でも、なんか大変なこと言ったとかないよね……?

「えとー。なん、て?」

 少々の間。汐織の視線は外れたけど、表情は……悪くない。

「……『よかったら、僕と付き合ってくれないか』、って」

「うおおおーーー!!」

 矢鍋ぇーーー!!

「返事はっ?」

「もうっ。気になる男子から、そんなこと言われたら……わ、わかるでしょうっ?」

 矢鍋ーーーって叫びたい気分だったけど、ここは学校なのでがまんしよう。

「や、やったじゃん! いでっ」

 汐織から突然の平手物理攻撃! 僕の左肩はダメージを受けた! つまり汐織はてれてるっていうやつだ!

「そういうことだから……一応、報告よ」

「あ、ありがと」

 しっかり汐織との信頼関係を築けているようである。

「でも、雪忠は矢鍋くんと仲がよかったわよね。わざわざ言わなくても、よかったかしら?」

「汐織から信頼されてるってわかることは、僕にとっての大きな財産です」

「なにそれ、ふふっ」

 そっか……ここにいる汐織と、あの矢鍋が……そっかそっかー。

「今のご気分は?」

 特に手にマイクマイクロフォンは作らず聞いてみた。

「……どうなのかしら……まだよくわかっていないのかもしれないわね」

「そういうものかぁ」

 一体どんな感覚なんだろう。想像もつかないや。

「雪忠は、いつ言うのよ?」

「ぼ、僕?」

 む。汐織の反撃が。

「雪忠と結依ちゃん、両想いなんでしょう? 早く言った方が、きっとお互い、楽になるわよ」

「ちょっ。ま、まだ結依ちゃんが僕のことをそう見てるかどうかはあたふた」

 そこでため息つきますか汐織さん。

「結依ちゃん。雪忠によくしゃべりかけるのでしょう?」

「んーまあ、たぶん」

「雪忠を休みの日、よく誘うのでしょう?」

「あーうん、たぶん」

「最近も遊んだのかしら?」

「……テスト前に、一緒に宿題した」

 またため息ついちゃったよ汐織さん。

 ここで『今度お昼寝するときに横にいてろって言われた』情報を出したら、どんなため息をつかれるんだろう。

「ま、焦る必要はないと思うけれども。あの結依ちゃんが、他の男子へ行っちゃうところなんて、考えられないもの」

「それは困る」

 あ、今度は笑ったよ汐織さん。

「結依ちゃんが他の男子に行かないんだから、雪忠は結依ちゃんに嫌われるようなこと、しちゃだめよ?」

「結依ちゃんに嫌われるようなこと……」

 どんなことだろう。

「結依ちゃんが楽しみにしていたケーキを、僕が勝手に食べるとか?」

「なにそれっ。でも結依ちゃんなら許しそうね」

「じゃあ、結依ちゃんの机の中に、かえるを解き放つとか?」

「今どき小学生でも、そんなことするかしら? でも結依ちゃんなら、雪忠の豹変ひょうへんっぷりを、逆に心配してくれそうよね」

「ドアの上に黒板消しトラップとか」

「それは乃和ちゃんが、未然に防いでくれそうね」

「汐織先生~。結依ちゃんに嫌われる方法なんて、この世界にあるんですかー?」

「ふふっ。雪忠に限っては、ないかもしれないわね」

 つまり! 僕は結依ちゃんと結ばれる運・命?!

「……これからも、結依ちゃんとの友情を、誠心誠意、深めてまいります」

「頑張りなさい」

 なんか今日は特によく笑ってる汐織先生だった気がする。

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